032 とある少年少女
やっと本編開始です。
「大変です女王陛下!また新たな目撃情報が上がりました!」
燕尾服で白髪の執事のような男が言った。
「落ち着けジェームズよ。貴様はそれでもアーカイヤ森国女王の側近か?」
「はっ、申し訳ございません。」
「それで、新たな目撃情報というのは?」
「はい、ここ最近、棲息地域より離れた場所で動く高ランク魔物の目撃情報がたくさん挙げられていました。今回は、我が国の西端…西の森にてレッドルビードラゴンが現れ、付近の村が襲われたようです。」
「……なるほど、また西か。それで、レッドルビードラゴンはどうなった?」
「たまたま居合わせた者が1人で討伐したようです。」
「…なに?レッドルビードラゴンを1人で倒しただと?それは確かか?」
「どうやら確かなようです。」
「妙だな。Xランク冒険者は亜人の大陸にいるはずだし、数人のSSSランク冒険者達にしても今は首都のユリゼンにいるはずだ。…その者は冒険者か?」
「そこまでは分かっておりませんが、おそらくそうではないかと。」
「…まあ、この際誰が倒したかは良い。どちらにしろ、対策が必要だな。」
「Zランクの魔物の襲来に備えて、ですな。我が国の西の森には伝説の龍が眠ると言われる死炎火山がありますからな。」
「…ああ、何事もなければ、それに越したことはないんだがな…。」
「ようこそ、ここは、エルフ達が治めるアーカイヤ森国の西に位置する街、ピューリトンだ。」
「ご苦労さまです。身分証はこれでいいですか?」
ピューリトンを守護する門番、いつも通り彼が役目を全うしていると、1人のエルフの少女が来た。街に入るために身分証を見せにきたのだろうと思い、いつも通りに対応して、ふと少女の顔を見てみると、――――――とても可愛かった。
「…はっ、っそそれで大丈夫です。どどうぞお通り下さい。」
「ありがとうございます。お仕事頑張ってください。」
エルフの少女はニッコリ笑ってそう言い、街の中へと入って行った。
ちなみに、門番の顔はしばらく赤いままだった。
「おらテメェ!調子ぶっこいてんじゃねえぞ!」
「上等だコラァ!!表でろや!!!」
ピューリトンの中心に位置する建物、冒険者ギルド。全ての街の中心にあるこのギルドには、毎日多くの依頼が飛び込んでくる。荷物持ちや家の掃除などと言った雑用系のものや、薬草の採集といった採取系、また、商隊や貴族の護衛といった護衛系、そして、魔物の討伐や素材の採集といった討伐系のものなど、多くの種類の依頼がある。そして、それらの依頼をこなすのが、冒険者と呼ばれる者たちだ。
冒険者ギルドは酒場が併設されていることが多く、ここピューリトンのギルドもまた酒場があった。依頼成功の打ち上げや、素材取引に関する商談、酒場の需要は以外と多い。しかし、取引がうまくいかなかった時や、酒を飲んで気分がよくなり誰かに絡んでしまったときなどは、トラブルが起きる。それらのトラブルはもはや日常茶飯事だ。
今もまた、筋骨隆々の冒険者2人が揉めていた。
「おいおい、完全に荒れてるぞ。」
「…そうだね、じゃあ、よろしく。」
「りょーかい。待ってろ。」
冒険者同士の喧嘩。そんな面倒な場面で丁度ギルドに入ってきた少年と少女は、そんな会話をしていた。
黒の外套を羽織った少年と、美しいエルフの少女、そんな2人だ。
「おーい、そこの冒険者のお二人さん。ちょっと邪魔なんでどけてくれませんかー。」
その2人のうちの少年の方が、喧嘩の最中である二人に声をかけた。周囲の目と共に二人の眼も少年の方に向けられる。
「ああ!?クソガキが、今は取り込み中だ!」
「生意気なガキだな、テメェから吹っ飛ばしてやる!」
周囲の予想通り、二人が少年の言うことを聞くはずもなく、それどころか少年に襲い掛かった。
(ありゃ新人だろうな…。あの二人の喧嘩に割り込むとはアホの極みだ。)
(ま、とりあえずご愁傷様ってところだろ…。)
周囲がそんな風にひそひそ話していると、意外にも少年は逃げなかった。
「…やれやれ。めんどくさいなあ…。」
少年はそう言うと、自分に突き出されていたふたつの拳を掴み、そのまま二人の体を持ち上げた。
『え……?』
持ち上げられた二人と、周囲の人の声が完全に同調した。
しかし少年はそれを意識することなく、二人をそのまま壁に投げた。
「グッ…」
「ゴォ…ッ」
そんなうめき声をあげて、二人は倒れた。
周囲の注目の目線を一斉に浴びながら、その少年と少女は受付嬢がいるカウンターに向かって歩き出した。
そして、カウンターの前に来ると、奇異の目を向けている受付嬢に言った。
「すいません。おれら2人、冒険者登録したいんですけど。」
「…は、はい。それではお名前と年齢をお願いします。」
受付嬢が言ったその言葉に対して、2人は―――――――
「ハヤト、17歳だ。」
「セイナ、同じく17歳です。」




