chapter44 乱れ始める統率
ゴブリンたちの勢いは、まだ衰えていなかった。
数は減っている。
それでも、森の奥から次々と姿を現す。
カインは肩で息をしながら剣を構え直した。
「……まだこんなにいやがるのか」
「数えるな」
ヴァルトが短く言う。
「目の前だけ見ろ」
「分かってるって!」
カインが踏み込む。
迫ってきたゴブリンの一撃を受け流し、そのまま剣を振り抜く。
リシアも横から回り込んだゴブリンを仕留めた。
ノアは槍を構え、前方へ突き出す。
三人の動きは、疲労を抱えながらも崩れていない。
そして――それを見ていたサージェントの表情が変わった。
(また減った)
サージェントは周囲を見回す。
残っているゴブリンの位置を確認する。
そして、腕を振った。 再び、ホブゴブリンが動く。
前方を厚くする。 同時に左右から回り込ませる。
今までなら、迷いなく繋がっていた動きだった。
しかし――右側のゴブリンが、ほんの僅かに遅れた。
その穴を埋めるため、後ろにいたゴブリンが前へ出る。
すると今度は、別の場所が薄くなる。
リシアがそれを見た。
「……右が薄い」
「行くぞ!」
カインが駆ける。 ヴァルトも続いた。
ゴブリンたちが慌てて向きを変える。
「ギィッ!」
声が飛ぶ。 別のゴブリンが駆け寄る。 間に合わない。
カインの剣が振り抜かれた。
「はあっ!」
一匹が倒れる。 旅烏が一歩前へ出た。
それだけで、ゴブリンたちの陣形が押し戻される。
サージェントの腕が動く。
今度は左。 しかし、左へ動こうとしたゴブリンの前に、別のゴブリンが入り込んだ。
互いに動きを止める。
「ギ?」
「ギィ……」
ほんの一瞬――たったそれだけで旅烏は距離を詰める。
リシアの短剣が閃いた。 ノアが槍で追撃。
ヴァルトが最後の一体を斬り伏せる。
ゴブリンが倒れる。 サージェントの目が見開かれた。
「ギィ……!」
唸り声が森の中に響く。 ホブゴブリンが振り返る。
サージェントはさらに腕を振った。
どんどん指示が増えていく。
応じようとして、ゴブリンたちも動く。
しかし――多すぎた。
指示を受けた個体が動き出した頃には、別の場所ですでに状況が変わっている。
修正する。 そのたびに、別の場所に隙が生まれる。
旅烏は、その隙を見逃さない。
「左!」
「任せろ!」
カインが飛び込む。
「ノア、下がって!」
「はい!」
リシアが前へ出る。 ヴァルトが空いた場所を埋める。
四人は、互いの動きを理解していた。
ゴブリンのように、誰かの指示を待つ必要がない。
それぞれが判断し、動く。
その差が、少しずつ戦場に現れ始めていた。
サージェントはそれを見ていた。
自分の群れが減っている。 相手は疲れている。
傷も負っている。それでも――倒れない。
「ギィ……」
喉の奥から声が漏れる。
サージェントは歯を剥き出しにする。
そして、再び腕を振り上げた。
その動きは、先ほどまでより明らかに荒くなっていた。
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