chapter41 僅かなズレ
サージェントが動き出してから、戦場は変わった。
いや、正確には――変えられた。
ゴブリンたちは、もうただ襲ってくるだけの魔物ではない。
一体が崩れれば、別の一体が穴を埋める。
前へ出れば、左右から圧をかける。
下がれば、逃げ道を塞ぐ。 すべてが繋がっていた。
カインが剣を振り抜く。
「っ……!」
一体のゴブリンが倒れる。
だが、その瞬間にはもう次のゴブリンが前へ出ていた。
「休ませる気ねぇのかよ……!」
リシアは短剣を構えながら、周囲を見る。
「違う」
「何がだ?」
「休ませないんじゃない」
リシアの視線が、森の奥へ向く。
「崩れる場所を作らないようにしてる」
その先、サージェントは動いていなかった。
ただ見ている。 旅烏の動き。 ゴブリンの数。
倒れた仲間。 すべてを把握しているように。
ノアが息を整える。
「……あれが、ずっと指示を?」
ヴァルトが答える。
「ああ」
「でも……自分では戦ってませんよね」
「だから厄介だ」
ヴァルトは剣を構える。
「自分が戦うより、群れを使った方が強いと理解している」
その言葉の直後――サージェントが僅かに手を動かした。
ゴブリンの動きが変わる。
今度は正面。 左右。 そして後方。
三方向から圧がかかる。
ノアが焦る。
「囲まれます!」
「慌てるな」
ヴァルトの声が飛ぶ。
「予定通りだ」
カインが横目で見る。
「予定通りって……これが?」
「崩されていない」
ヴァルトは短く答える。
「なら問題ない」
カインは舌打ちする。
「簡単に言いやがる……」
だが、確かに崩れてはいなかった。
傷は増えている。 疲労も溜まっている。
それでも――旅烏の動きは止まらない。
一体。 また一体。 確実にゴブリンを減らしていく。
サージェントの目が、ほんの僅かに細くなった。
倒される。 それ自体は想定内。 群れは数で勝つ。
そう判断していた。
だが、減る速度が、少しだけ早い。
サージェントは再び指示を出す。
ホブゴブリンが動く。 陣形が変わる。
けれど――ほんの一瞬。 遅れた。
リシアが気付く。
「……今」
カインが振り返る。
「何だ?」
「いや」
リシアは目を細めた。
「まだ小さい」
ヴァルトも同じ場所を見ていた。
「だが、確かにあった」
ノアが不安そうに聞く。
「何がですか?」
ヴァルトは答えない。
ただ、森の奥を見る。
サージェントはまだ余裕を失っていない。
まだ戦場は、あちらのものだ。
しかし、その完璧な動きにほんの僅かな揺らぎが生まれていた。
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