chapter40 支配される戦場
赤く濁った双眸で、旅烏を静かに見つめていた。
まるで、一人ひとりを測るように。
カインが低く呟く。
「……見られてるな」
誰も答えない。
答える余裕がなかった。
サージェントの視線が、ゆっくりと戦場を巡る。
倒れたゴブリン。 傷ついたホブゴブリン。
そして、旅烏。
すべてを確かめるように見渡すと、その右手がわずかに上がった。 ほんの小さな動作だった。
だが、それだけで十分だった。
一体のホブゴブリンが低く鳴く。
「ギャッ」
その声を合図に、周囲のゴブリンたちが一斉に動き出した。
前へ出る者。 左右へ散る者。
後方へ回る者。 乱れていた隊列が、瞬く間に組み替えられていく。
ノアが目を見開く。
「また……!」
リシアは首を振る。
「違う」
「え?」
「今度は、最初から狙って動かしてる」
ヴァルトが短く言う。
「構えろ」
その直後――左右へ散ったゴブリンが、一斉に踏み込んだ。
正面からではない。 旅烏の陣形、その継ぎ目だけを狙ってくる。
カインが剣を振り抜く。 一体。 続けてもう一体。
だが、空いた場所にはすぐ別のゴブリンが滑り込む。
「ちっ!」
ノアも槍を突き出す。 倒す。
それでも列は崩れない。
ホブゴブリンが一歩前へ出る。
その動きに合わせるように、ゴブリンたちの足並みが揃う。 まるで、一つの生き物だった。
リシアが静かに呟く。
「……誘導してる」
カインが顔をしかめる。
「誘導?」
「あたしたちを動かしてるの」
ノアが息を呑む。
「そんなことまで……」
ヴァルトはサージェントから目を離さない。
「あいつは戦っているんじゃない」
一拍置いて、静かに続ける。
「戦場を動かしている」
その言葉と同時に。 サージェントが、わずかに顎を引く。
それだけでホブゴブリンが反応し、ゴブリンたちの動きが再び変わる。
カインは歯を食いしばった。
「面倒どころの話じゃねぇな……」
旅烏はまだ崩れていない。
だが、今まで戦ってきたどの群れとも違う。
相手は力ではない。
この戦場そのものが、牙を剥いていた。
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