chapter39 姿を現す統率者
サージェントは動かない。
ただ、旅烏を見ていた。
赤く濁った瞳が、一人ずつを静かになぞる。
ヴァルト。
リシア。
カイン。
そして最後に、ノア。
値踏みするような視線だった。
ノアは思わず息を呑む。
「見られてる……」
返事はない。
誰も、その視線から目を離せなかった。
やがて――サージェントの耳がわずかに動く。
それだけだった。
左右で待機していたホブゴブリンが同時に歩き出す。
それに合わせるように、ゴブリンたちが散開する。
前へ出る者。
後ろへ下がる者。
左右へ回り込む者。
乱れていた戦場が、みるみる形を変えていく。
カインが舌打ちした。
「また組み替えやがる……!」
リシアは目だけで全体を追う。
「違う」
「何がだ?」
「速い」
返事は短かった。
だが、その意味は重い。
先ほどまでとは比べものにならない。
ホブゴブリンが動くより先に、ゴブリンが位置を変える。
空いた場所を埋めるように。
欠けた列を繋ぐように。
まるで、一つの生き物だった。
ヴァルトが静かに言う。
「全員、下がるな」
「おい?」
「崩される」
その直後だった。
ゴブリンの一団が一斉に踏み込む。
正面ではない。
左右でもない。
旅烏の陣形、その継ぎ目。
わずかな隙間だけを狙って飛び込んできた。
ノアが槍を振るう。
一体を倒す。
だが、その背後からすぐに別の一体が現れる。
終わらない。
倒しても。 倒しても。 次が埋める。
カインが歯を食いしばる。
「キリがねぇ……!」
リシアの短剣が閃く。
二体。 三体。 それでも列は崩れない。
ヴァルトが低く言う。
「……よく見ろ」
ノアが息を切らせながら周囲を見る。
「え……?」
「見ろ」
その一言で、ノアは戦場全体へ視線を向けた。
そこで初めて気づく。
ゴブリンは多い。
だが、闇雲には動いていない。
倒れた場所。空いた場所。 旅烏が動いた場所。
その全てを埋めるように、群れが流れている。
カインが吐き捨てる。
「全部、読まれてるってことか」
ヴァルトはサージェントから目を離さない。
「あいつが動かしている」
サージェントは未だに動く様子はなかった。
ただ静かに、戦場だけを見つめていた。
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