chapter36 作り直される戦場
※旅烏視点
森は、形を変え続けていた。
最初に感じた“完成された戦線”は、もうない。
そこにあるのは、もっと不気味なものだった。
変化する戦場。
カインが舌打ちする。
「さっきからキリねぇな……!」
リシアは冷静に周囲を見る。
「固定されてない。動いてる」
ヴァルトは短く言う。
「再構築されてるな」
ノアは息を飲む。
「再構築……?」
ゴブリンの動きは、止まらない。
一度崩したはずの場所に、別の個体が入る。
空白ができない。
まるで“盤面”そのものが動いているようだった。
カインが叫ぶ。
「遊んでる暇ねぇぞこれ!」
ノアとカインの間に、再びゴブリンが割り込む。
今度は単純な包囲ではない。
距離が切られる。
支援が消える。
リシアが目を細める。
「分断してる」
ヴァルトが一体を切る。
だが、その場所はすぐ埋まる。
「……埋まるのが早いな」
ノアは焦る。
「どうすれば……!」
カインが答える。
「壊すしかねぇだろ!」
だが――壊せない。
崩しても戻る。
それが“構造”になっている。
そのときだった。
ホブゴブリンが動く。
今までと違う。
数体が同時に前に出る。
だが攻撃ではない――調整。
カインが顔をしかめる。
「また変えやがった……!」
リシアは静かに言う。
「完成形じゃない」
「は?」
「状況ごとに形を変えてる」
ヴァルトが短く言う。
「戦術じゃない」
ノアが息を呑む。
「じゃあ……何なんですか」
一瞬の沈黙。
カインが吐き捨てる。
「クソゲーだろこんなの」
だが笑いはない。
誰も余裕を失っている。
じわじわと押されている。
“勝てているのに崩れていく感覚”。
そのとき。
森の奥から、また圧が落ちる。
空気が沈む。
ホブゴブリンが一斉に動きを止める。
そして――空間が開く。
今度は明確だった。
“呼び込み”。
ノアが息を止める。
「……来る」
カインが低く言う。
「上だな」
ヴァルトは剣を構える。
「出るぞ」
リシアは静かに言う。
「ようやくね」
森の奥。
そこに“空白”ができる。
今までとは違う種類の空白。
圧がないのではない。
圧が集まっている空白。
そして――その中心から、“気配”が一段だけ落ちる。
空気が変わる。
音が消える。
ゴブリンが動かない。
ノアが震える声で言う。
「……何、これ……」
カインが答える。
「出てきやがる」
ヴァルトは一歩前に出る。
「構えろ」
森の奥が、ゆっくりと開く。
すると――“サージェントの領域”が、こちら側へ滲み始める。
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