chapter35 揺らぐ戦線
※旅烏視点です
森は動き出した。
最初の一歩は、ただの揺れだった。
だがそれはすぐに“意思ある揺れ”へと変わる。
ゴブリンが動く。
カインが即座に踏み込む。
「来たな!」
刃が一体を切り裂く。
軽い。いつも通りなら、ここで終わるはずの相手。
だが――終わらない。
左右から同時に二体が飛び込む。
「っ……面倒くせぇ!」
ノアが槍で受ける。
衝撃が重い。小さな体のはずなのに、流れが持続する。
リシアが短く言う。
「連携してる」
ヴァルトは無言で一体を切り伏せる。
だが、その目は戦場全体を見ていた。
「個じゃないな」
ゴブリンの動きは“乱戦”ではない。
崩れない。
一度戦列ができると、そこから維持される。
一体が倒れても、隣が穴を埋める。
まるで最初から“形がある”戦い方だった。
カインが舌打ちする。
「おいおい、ただの雑魚じゃねぇぞこれ」
そしてホブゴブリンは動かない。
一体ではない。複数。
だが彼らは戦わない。
ただ、全体を見ている。
その沈黙が逆に不気味だった。
ノアが叫ぶ。
「なんで動かないんですか!」
カインが答える。
「指揮してる奴が前に出るわけねぇだろ!」
だが――リシアは首を振る。
「違う」
視線はホブではない。
その“さらに奥”。
「こいつらは指揮役じゃない」
その瞬間だった。
戦場の空気が変わる。
音が一瞬だけ消える。
ゴブリンの動きが止まる。
いや、止まったのではない。
“揃った”。
次の瞬間、攻撃の方向が変わる。
カインが目を見開く。
「……は?」
横からではない。
前からでもない。
“隙間”を埋めるように動いてくる。
ノアが息を呑む。
「囲まれてる……?」
ヴァルトが低く言う。
「誘導だ」
戦場は一気に形を変える。
さっきまでの乱戦ではない。
包囲。
分断。
押し込み。
ゴブリンが“戦術”として動き始める。
カインが後ろに滑り込む。
「こいつら、学習してやがる!」
リシアが冷静に言う。
「違うわ」
「違う?」
「最初からこういう形」
ホブゴブリンの一体が、わずかに視線を動かす。
その先は森の奥。
それだけで十分だった。
また“切り替え”が入る。
ゴブリンの動きが変わる。
包囲が狭まる。
逃げ道が消える。
ノアが顔を強張らせる。
「これ……逃げ場が……」
ヴァルトは短く言う。
「崩せ」
一瞬の突破。
ヴァルトが前線を切り開く。
カインが横を穿つ。
ノアがその隙を支える。
一部の陣形が乱れる。
ゴブリンが倒れる。
だが――止まらない。
すぐに埋まる。
カインが息を吐く。
「キリがねぇぞこれ!」
そのときだった。
ホブゴブリンの一体が倒れる。
ヴァルトの一閃。
確かな手応え。
沈黙。
一瞬だけ戦場が止まる。
カインが吐き捨てるように言う。
「終わりだろ、これで」
だが、終わらない。
空気が沈む。
音が戻る前に、“圧”が来る。
森の奥。
そこに“何か”がいる。
それだけで戦場の全員が理解する。
今のは“途中”だったと。
ゴブリンたちが動きを止める。
撤退でもない。
崩壊でもない。
ただ――待機。
そして、静かに空間が開く。
そこはさっきまでの“空白”と同じ形。
だが意味が違う。
ノアが呟く。
「……まだ、終わってない」
カインが肩をすくめる。
「むしろ、ここからかよ」
ヴァルトは剣を構えたまま、奥を見る。
「出てくるぞ」
リシアは小さく息を吐く。
「ようやく本体ね」
森に静寂が訪れる。
だがそれは、終わりの静けさではない。
“切り替え前の静けさ”。
次に来るものを、全員が理解していた。
そして――森の奥が、確かにこちらを見ていた。
読んでくれた方ありがとうございます
誤字、脱字などの不自然な文章があれば、指摘お願いします
他の作品も読んでくれたら、嬉しいです
面白いと感じたら、評価やブックマークお願いします




