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転生してスローライフ  作者: 火川蓮
第五章

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chapter32 異常の痕跡

※旅烏視点です

次の日――まだ陽が上がらない頃。 オレたちは再び森の前に立っていた。

村は静かだった。 昨日より人の姿が少ない気がする。 森の異変は、確実に村へ影響を与え始めていた。


「できれば空振りで終わってほしいんだけどな」


森を見ながらカインが言う。


「昨日の感じだと無理そうですね……」


ノアが苦笑する。


「同感」


リシアが短く返した。

ヴァルトは森を見据えたまま言う。


「行くぞ」


その一言で会話は終わった。

森へ足を踏み入れる。

昨日と変わらない。 風は吹いている。 木々も揺れている。


だが――静かだ。

鳥の声はない。 獣の気配も薄い。

聞こえるのは、自分たちの足音だけだった。

しばらく進む。

昨日引き返した地点を越え、さらに奥へ。

そこでヴァルトが足を止めた。


「増えてるな」


ノアは周囲を見回す。


「何がです?」


「足跡だ」


地面を指差す。

ノアもしゃがみ込んだ。

確かに跡はある。 だが、彼には違いがよく分からない。

カインが隣で口を開く。


「昨日より多いな」


「そんなに違うんですか?」


「分かる奴にはな」


そう言いながら地面をなぞる。


「しかも一方向じゃない」


ヴァルトが頷いた。


「行き来している」


リシアが静かに言う。


「巡回かもしれないわね」


ノアが顔を上げる。


「ゴブリンがですか?」


「可能性の話よ」


それだけ言って口を閉じた。

だが、ノアは妙な違和感を覚えた。

巡回。

その言葉が妙に引っかかる。

まるで兵士みたいじゃないか。

さらに進む。


森の静けさは変わらない。

だが足跡は増えていた。

折れた枝。

擦れた樹皮。

踏み荒らされた草。

痕跡だけなら確かにゴブリンのものだ。

それなのに、どこか整いすぎている。


「嫌な感じだな」


カインが呟く。

珍しく軽口はない。

そのときだった。

ノアの視界の端で何かが動いた。


「――あれ」


思わず声が漏れる。

全員の視線が向く。

木の陰。

そこに一体の魔物がいた。


ゴブリンより大きい。

筋肉質な身体。

鋭い目。

ノアは息を呑んだ。


「ホブゴブリン……」


カインが小さく言う。

ヴァルトは即座に剣へ手をかけた。

だが抜かない。

ホブゴブリンもこちらを見ていた。

逃げない。

襲わない。

ただ見ている。


数秒。

奇妙な沈黙が流れる。

そして――

ホブゴブリンは身を翻した。

森の奥へ走る。


「逃げた!?」


ノアが驚く。

カインは目を細めた。


「いや……」


リシアが続ける。


「報告に行ったわね」


誰も反論しない。

ノアも口を閉じた。

確かにそう見えた。

偶然見つかった魔物ではない。

まるで見張りだ。

ヴァルトが低く呟く。


「間違いないな」


「何がです?」


ノアが尋ねる。

ヴァルトは森の奥を見たまま答えた。


「群れを率いている奴がいる」


風が吹く。

木々が揺れる。

だが、それ以外の音はない。

静かな森だった。

それなのに、昨日よりも遥かに不気味だった。

カインが肩をすくめる。


「ただのゴブリン退治じゃ済まなそうだな」


誰も笑わない。

旅烏の全員が理解していた。

この森で起きていることは、まだ始まったばかりなのだと。

読んでくれた方ありがとうございます

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