chapter28 崩れ始めた日常
※フィル視点です
村の空気が、少し変わっていた。
いつも通りの昼。
人は動いているし、声もある。
けれど――どこか静かだ。
落ち着かない、という方が近い。
オレは庭に出て、水を集める。
いつものように水人形を生成し、実験を行う。
ここ最近、動かせるようになっていたから今更なんだが――ゴブリンと出会ったとき、“水人形で攻撃していたな”と思ったのだ。
それまでまったく動かすことができなかったのに。
ぎこちなく動く水人形の腕を見て、考えを巡らせる。
そのとき、通りの方から声が聞こえた。
「戻ってきたらしいぞ」
「……怪我人が出たって話だ」
手が止まる。
「森のやつか?」
「ああ。昨日の続きだろ」
低い声。
抑えているが、隠しきれていない。
「結構やられたらしい」
「……マジかよ」
「だから言っただろ、様子がおかしいって」
会話が遠ざかる。
水人形の動きが、わずかに鈍る。
(……やっぱり、か)
予想はしていた。
森の様子。
あの違和感。
(あれで何も起きない方が、おかしい)
水が崩れ、地面に落ちる。
もう一度、生成し直す。
ゆっくりと、形を作っていく。
(ゴブリンは増えた、だけじゃないな)
ゴブリンは狡猾だけど、頭は決して良くはない。
数が増えれば厄介になる――
そういう話を、どこかで読んだ気がする。
――ということはだ。
昔読んだラノベを思い出す。
こういうときは、大体――
「……」
視線を上げる。
通りの先。
衛兵が歩いていた。
数は少ない。
そのうちの一人が、腕を吊っている。
布が巻かれ、血が滲んでいた。
歩き方も、少しぎこちない。
誰も声をかけない。
ただ、視線だけが向く。
すぐに逸らされる。
(……負けたんだな)
完全に、とは言わない。
だが――圧倒された。
それは分かる。
水人形の動きがわずかに歪む。
(村の衛兵だけじゃ、足りないか)
防ぐことはできても、対処はできない。
いや、ゴブリンたちの行動も妙だ。
「何故、森から出てこようとしない?」
そう小さく呟く。
衛兵たちがやられた。
(……このままじゃ、村だけじゃ無理だろうな)
そうなると――面倒なことになる。
外から人が来る。
情報も動く。
森にも入る。
水人形が崩れ、地面へと落ちていく。
気づかないうちに、制御が乱れていたらしい。
「……あ」
小さく声が出る。
再び生成し直す。
周りから見れば、それだけだ。
ただ水で遊んでいる子供。
それ以上でも、それ以下でもない。
けれど――
(……これ、長引くな)
感覚だけで分かる。
すぐに終わる話じゃない。
むしろ、これからだ。
もう一度、水に魔力を流し、形を整える。
腕を動かす。
さっきより、少しだけ安定していた。
(……今のうちに、できることはやっとくか)
小さく息を吐く。
空は、変わらず晴れていた。
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