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閉ざされた唇  作者: 変汁
13/18

①①

美沙と仲良くなったのは風子が蝶を踏み殺した直後だった。


風子の周りに集まっていた子供達は、地面に押しつぶされ動かない蝶を指差しながら風子に向かって


「人殺し」だと悪口をいい出した。


その時だった。


美沙が責め立てる子供達の前に立ちはだかり、

両手を広げ、


「風子ちゃん虐めるヤツは私が許さないから!」


そう叫んで風子を守ろうとした。


風子は風子でぶつぶつと何かを呟いていた。


「蝶は人じゃないよ。だから私は人は殺してないし。

ただ蝶を踏み潰しただけで殺してない」


攻める子供達にそう反論したかった。


けどこいつらは、何を言ってもわからない馬鹿だ。


その証拠に風子が蝶を踏み潰した時に全員が怖がったのだ。


怖がる理由なんてどこにもないのに。そんな反応を見た風子は、


「あ、馬鹿なんだ」と思った。


だから無視を決める事にした。


「風子ちゃんを虐めたら私が許さないから!」


さっきまで怖がっていた子供達は美沙の言葉にも全く怯まず、仲間がいる事を良い事に今度は美沙に詰め寄った。


美沙は美沙で震える足で何とか踏ん張りながら、又、同じ言葉で反論した。


ただ1回目と違うのは美沙は派手な色をしたプラスチックのスコップを握りそれを高く振り上げていた事だった。


それは詰め寄った子供に対してスコップで殴られるかも知れないという恐怖を子供に与えようとしているみたいだった。


実際には、数人の子供相手とはいえそんなものを振り回したくらいで美沙が勝てる訳がなかった。


だがそのような馬鹿らしい行動を取った美沙の姿に風子は心を奪われた。かっこいいと風子は思った。


だが誰一人、美沙の脅しには屈しそうにはなかった。


だから美沙は引っ込みがつかなくなったのだろうか。


振り上げた手を一人の男の子の頭を目掛け振り下ろそうとしたその時、美沙と風子の前に大きな手が現れた。


振り上げた美沙の手を止めたのは女の先生だった。


美沙は動かない自分の手を不思議そうに眺めた後、先生の顔をみつけ、ホッとしたように柔和な笑みを浮かべた。


きっと美沙は誰かが止めに来てくれるのをずっと待っていたのかも知れない。


「美沙ちゃん、そんな事したら駄目じゃない!」


先生は美沙を叱った。風子も叱った。


そして風子を虐めようとした他の子供達も差別なく叱った。


けれど数人の子供達は叱られた事が不満だったようで、美沙と風子に向かって悪口を言いながら、その場から離れて行った。


その時、風子は初めて美沙を友達と認定したのだった。


そんな子供達が風子と美沙にちょっかいを出さなくなったのは美沙が風子を守ったからではなかった。


単に、風子が時間をかけ、1人1人を潰して行ったからだ。


最初は1人だけをターゲットにして近づいて爪先を踏んだ。


風子はわざとではない振りをする為にちゃんとごめんなさいと行った。


それを1人1人、順番にやって行った。


それが終わると次は、砂遊びをしている時を狙い、手を踏んだ。勿論、風子は心のないごめんなさいをしっかり声に出して相手に伝えた。


その次は砂の入ったバケツを回転しながら揺らし、相手の胴体にぶつけた後、バランスを崩したフリをして相手の身体の上に乗り、親指で顔を突いた。


全く同じ事を日を変え、時間を変え、あの日、風子を人殺し呼ばわりした子供全員にやってのけた。


その頃になってようやく気づいたのか、美沙以外、誰1人、風子の側には近寄らなかった。そうやって風子の仕返しは終了した。


だが風子自身、踏み潰すという行為が皆んなに喜ばれるものではない事もしっかり学んでいた。



だから誰にも、美沙にも見せなかった。


それは小中高になっても変わらなかった。


風子は美沙が死ぬまで、恐らく三太に殺されただろう美沙だが、彼女は風子のおぞましい性癖を死ぬまで知る事はなかった。


風子は美沙に隠し通し続ける事に成功したのだ。


「お母さん、私がやるからいいよ」


風子は自分が食べたオムライスの皿とスプーンを持って立ち上がる。


3人分の洗い物をした後、お風呂に入った。



そして湯船に2時間近く浸かり出した答えはどうすればいいかわからないという事だった。


けれどあの三太が、実は狂ってて、それを隠しながら良い人を演じ続けていたなんて…



それも何年にも渡ってだ。


全く気づかなかった。特定の人間だけが三太の本性を知っていたというわけか。


もし美沙の部屋で三太の本性を知らなければ私はずっと騙され続けていたかも知れない。


隠し続けていると言えば私も三太と同じだった。


でも、似た者同志の三太の本性を私が見抜けなかったなんて…恋は盲目とは良く言ったものだ。


そんな自分が情けなかった。腹立たしかった。


けれど何故、三太は良い人を演じているのだろう。


恐らくそれは私と同じ理由な気がした。


儀式の為だ。それが1番説得力がある気がした。


私は儀式を利用している。この町だけに限り、

あの日だけは大っぴらに暴力や殺人が許されるからだ。


三太もそうだろうか。きっとそうに違いない。


昨年末はシナビ係で受付をやっていたが、あれも何かしらの理由があっての事だろうか?


それともたまたま?もしくは、参加者を見定める為だとか。


つまり美沙のような目に遭わせるターゲットが逃げずに参加しているのを三太が確認する為にシナビ係に選ばれた可能性はある。


何故なら最近では外部から入ってくる人間もそれなりにいるから。


地元の人間の顔と名前をほとんど知り尽くしているのは地元の人間でなければわからない。


その為には三太がシナビ係にうってつけだと言っていい。

そして儀式の事を外部に漏らそうとしている疑わしい人を複数で狙い襲う為の連絡係として三太が選ばれた?三太はその人物が現れるのを確認した後、町会長などと連携を取り、複数人で襲いかかるさんだんをつける…


「あー、そっか。そういう事だったのね」


苛立ちが込み上げてくる。


気づけば唇を噛み締めていた。


風子はほくそ笑みいつしか握り締めていた拳を開き、お風呂の壁をパンっ!て叩いた。


壁には何もいなかった。だが風子だけには見えて

いた。


私のこの手に潰される相手の顔が。


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