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そんな風子は、産まれて首が座った頃から両手で床を叩くのが好きだった。
お母さんに咎められてもやめなかったそうだ。
1人で立つ事が出来ると、風子は両手に加え両足を使う事を覚えた。
やがて物心がつき始めると風子のまだ小さな手足を向ける対象物が床や壁、食べ物からから生きた物へとその対象を変えて行った。
その頃には風子は潰すという行為が好きだと自覚し始めた。
潰されてピクピク蠢めく姿を見るのがたまらなかった。
蟻やゴキブリに始まり、バッタ、コウロギと言った昆虫類からカエルなども捕まえては地面に叩きつけた後、踏み付けて潰したり、手のひらで叩き潰したりを楽しんだ。
ある時、神社の境内で1人遊んでいると、たぬきの親子を見つけた。
縁の下で産んだのか、まだ目も開いていない赤ちゃんがギャギャと鳴いていた。
潰したらどんな風に鳴くかな?風子は小さな身体でたぬきの赤ん坊を捕まえようとした。
けどその時は母親がいて、威嚇され噛みつかれた。その傷は今でも右手に残っている。
風子は待った。
境内の隅に身を縮め、母親がいなくなるのをじっと待った。
夕方近くになって母親たぬきが縁の下から出て来た。
警戒しながら、神社の裏山の方へと走り去って行った。
風子は身体を起こし、縁の下を覗き込んだ。
おっぱいを貰ったのか、4匹のたぬきの赤ちゃんはスヤスヤと眠っている。
全匹捕まえると、風子は神社の階段へ向かい、一匹ずつ上の階段に置いていった。
そして上まで上がり4匹のたぬきの赤ちゃんを見下ろした。風子はその光景をみて少しガッカリした。
何故なら赤ちゃんは4段分にしか置けないからだ。
神社の階段は100以上あるのに、と風子は思った。
「100匹くらい産めばいいのに」
そう呟いた風子は、階段に置いたたぬきの赤ちゃんを再度、見下ろした。
「けーん」と声を上げる。そして風子は両足を揃えて1段目のたぬきの赤ちゃんへ向けてジャンプした。
「ぐ、…ちゃ、り」
着地と同時に風子は自分の靴を眺めた。両膝を降りしゃがみ込む。
足裏に感じる肉感は一瞬で消えた。
それが少し残念だった。
しばらく眺めていると右靴の側面からぬるりとした血が這うように出て来た。
微笑みを浮かべた風子は雄犬の立ちションのようにその片足だけを上げてみた。
後ろ足に小さな尾っぽがペシャンコに潰れ腹からはスプーンで潰したミートボールのような粒々が飛び出していた。
牛乳に混ぜたケチャップのような色をしたたぬきの赤ちゃんは風子の呼びかけに無反応だった。
頭は左靴が潰していた。赤ちゃんだから柔らかいのか、身体と同じようにペシャンコに潰れていた。
頭はお腹と違い茶色がかった血が噴水のように広がっていた。
風子はその死骸をそのままに起き上がると次の段へと視線を向けた。
「けーん」
一匹目より潰れる音が小さかった。
足を上げ見ると、先程の赤ちゃんより、随分と小さかった。
その分、血の量も少なく、風子をガッカリさせた。
「パー!」
高らかな風子のパーの声が辺りへ広がっていく。
幼稚園でなら風子ちゃん元気で良いねと褒められるだろう。
風子はそれを想像し満面の笑みを浮かべた。
最後の階段を見た風子は再び声を出した。
「パー!」
「けん」でなくパーを選択したのは、言葉の響きもそうだが、両足に沢山の力が込められより強く踏み潰せたら感触があったからだった。
本来なら、「けん」で始まる所を風子は4段目も両足を揃えて、たぬきの赤ちゃんを踏み潰したのだった。
ぬきの子供が死んで行くのを楽しんだ後、風子は楽しげに階段を降りて行った。
けれど数日後には風子の喜びは風子にだけ留めておかなければならないと、知らされる羽目になった。
園内に飛んで来た蝶を風子が捕まえ、数人を集め目の前で踏み潰して見せたのだ。
それをチクられた風子はこっぴどく叱られた。
お母さんも呼び出された程だった。
この時、人前では見せてはいけない事を風子は学んだのだった。




