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閉ざされた唇  作者: 変汁
11/18

風子が自宅に戻った時、陽はとっくに暮れ既に夕食も終わっていた。


「風子、こんな時間までどこほっつき歩いてたの?」


「別に…」


「お母さん、何度も電話したのよ?」


「嘘?」


風子は慌ててスマホを取り出した。確かに着信はあった。


が、それはお母さんだけではなかった。


つい数分前には自分の側にいて、とんでもない事を口走っていた三太からも2回も着信があった。


三太は美沙の家の片付けを終え家を出てから直ぐに私に連絡を寄越したようだ。


これらの着信を見た風子は心底サイレントに設定しておいて良かったと思った。


それはたまたまだった。


三太と三太の彼女と3人で会う事になった時、一々、LINEやら電話で邪魔をされたくなかった。


だからわざわざその設定にしておいたのだ。


どの程度の女か私が見定めてやる、とは傲慢だが、風子はそれくらいの気持ちで三太の彼女と会うつもりでいた。


実際、そうだった。


三太に合わないと感じたら、その場で言う腹で、事実、依存性の高いくだらない女だったから別れた方が良いと思ったからそうしたのだけど、美沙の部屋で隠れている時にスマホが普段のままだったらと思うと僅かにゾッとした。


あの時、私はスマホの事など微塵も頭になかったし、設定をせずにお母さんからの鬼電電が来てたら、私はどうなっていただろう?背筋がひんやりとし思わず唇を噛み締めた。


三太の事だ。直ぐに私をどうにかするといった事は無かったと思うけど…けど、だ。


山下との会話の中の三太は、風子が知る三太とはまるっきり別人だった。


よくも今まで私を騙してくれたな。強気な気持ちは風子を怒りに駆り立てるが、お母さんの一言で風子は我に返った。


「お腹空いてないの?」


「空いた」


「今。チンしてあげるから、手、洗って来なさい」


「うん、わかった。ありがとう」


「うがいも忘れないようにね」


返事は頷くだけにした。


お母さんに言われた事をこなして、リビングへと戻った。


「お父さんは?」


「会社の同僚の送別会だって」


「こんな時期に?」


「うん、なんでも奥さんが長い間、闘病生活を送ってらっしゃってね。実家に近い方が良いかも知れないと考えていたそのタイミングで奥さんのお父さまがお亡くなりになられたようで、後継ぎもいないから、手伝わないかって誘われたらしいのよ」


「それで退職して奥さんの実家を手伝うわけね」


「そうみたい」


「その人、町の人?」


「今は違うみたいよ」


お母さんの今は、という言葉で風子はある程度、察しがついた。


闘病生活に陥った原因は恐らく儀式のせいだろう。


考えたくもないがひょっとしたら、その時、お父さんも関わっていたのかも知れない。


温め直したオムライスを食べながら風子はそのように考えていた。


実際の所、お父さんはお母さんが儀式に参加させられていた頃はどう思っていたのだろう?


反対にお母さんはどうだろう。今は妊娠中だから、昨年の儀式にお母さんが参加、もしくは選ばれる事がなかったから良かったけれど、2人の本音は聞いた事がなかった。


というより言えないのだ。美沙の件だってどうやって誰がどこで漏らしたのかわかっていないのだ。


そんな町に住んでいるのだから我が子にだって話すわけにもいかないだろう。


というか、お父さんやお母さんは、一度でもこの町から出ようと考えはしなかったのだろうか。


だって私は一人娘だぞ?いつか儀式に参加しなければならなくなる事くらいわかっていた筈だ。


参加するという事はつまり娘が見ず知らずの男の手にかかり、最悪、酷い目に遭うことを2人はわかっていた。


その上で、引っ越さなかったのだ。


それには娘の無事よりも大事な何かがなければ、あり得ない話だった。


娘の無事より重要なもの。


そんなものがこの世の中にあるわけがない。でも、2人は引っ越しはしなかった。


そして私は何の疑問も持たずその年齢に達し儀式に参加した。


生憎、私は持って産まれたこの性格のお陰で、儀式で危ない目にも遭いはしたが、不具者にはならず命を落とすような事もなかったし、精神的に追い詰められ自殺を図るような事もしなかった。


その点で言えば、こんな性格で産んでくれた2人には感謝しなくてはならない。


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