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亜空間の戦士 弥への道(「亜空間の戦士 暗黒界編」として書籍化)  作者: 亜空間ファンタジー&弥剣龍
第一章 魔族来る
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4 結晶オロス

 マイナミが住む小さな泡状空間は、広大な亜空間暗黒界の片隅に、知らざれる離れ小島のように孤立していた。その存在自体に気付く者がおらず、造物師以外にはマイナミの空間を訪れた者は誰もいなかった。

 この世界も暗黒界の例に漏れず光が乏しかった。しかし、地表は色とりどりの水晶や、金色や銀色の金属の結晶が発する淡い光で照らされ、鉱物の花園のように美しかった。その中にあってアメジスト色の煌めきを放つマイナミは、ひと際目立つ存在だった。その紫色の輝きのせいで、どこにいても空間の主の所在は一目瞭然だった。

 マイナミは隔離された暗黒界の秘められた花園にただ一人で住んでいた。

 御子神静香が人族の世界に、また姫白龍が辺境地域に現れたのとほぼ同時に、マイナミは暗黒界に現れた。この三人の再凝縮は同時期だったために相互に影響し合った。

 もともと造物師の最大の狙いは、()の先兵の再来時に、()の暗黒剣士の出現を封じこめることにあった。造物師は確実に彼を消し去る究極手段として、暗黒剣士カゲリビの微粒子を変換してマイナミという別人に作り替えてしまった。

 殺戮者カゲリビの創造者マイナミへの変換は成功した。然るに造物師の意に反して不明な原因により龍の娘姫白龍が生まれてきた。

 姫白龍は独自の白龍の因子を基礎にしていたが、我の因子を吸引したために、我の先兵とマイナミの組成に狂いを生じさせた。我の先兵御子神静香は記憶と能力を相当程度失い、シズカミとは不連続な形で再生した。また、マイナミと姫白龍は本来一人であるべきものが二人になったため、存在自体が相互に依存し合うことになった––––––三人が同時に生まれたことにより、造物師の計算は大きく狂ったのだ。

 それでもマイナミは造物師が意図した通り、物質を自在に操る類稀な造物能力を持って生まれてきた。そしてマイナミの体は、変幻自在に変形できる時空安定化物質結晶オロスでできていた。

 でもこの能力は何のために、誰のために––––––

 マイナミは強力な能力を持つ反面、自我が希薄で他の二人と違って使命感を持たずに生まれてきた。自分自身の存在意義がわからなかったし、自分が何をしたいのかもわからなかった。

 御子神静香には後見人のズクがいて、親しい友達である美紀がいた。姫白龍には泥鬼と捷鬼党の仲間、それにヤマの老女がいた。

 一方、マイナミには、仲間も友達もいなかった。マイナミだけが一人ぼっちで、小さな閉じた世界に置き去りにされていた。造物師は自分自身が孤独な存在だったので、マイナミもそれで構わないと思っているようだった。

 しかし、マイナミは造物師とは違った。マイナミは誰かにいつも一緒にいて欲しかったし、自分が誰かの役に立ちたかった。それでないと自我が希薄なマイナミは、自分の存在に意味を見出せなかった。

 マイナミにとって唯一の指針となった造物師は、マイナミに現在の亜空間は物質と時空の均衡が崩れていて不安定で危険な状態にあること、また、マイナミの体をつくっている結晶オロスが時空の安定のために重要な物質であることを教えた。

 しかし、造物師はマイナミが自分が何のために生まれてきたのかを問いただしても答えてはくれなかった。造物師はただ、それはマイナミが自分で見つけ出すことだと言うだけだった。マイナミは造物師が自分をつくっておいて、自分の存在の目的を教えてくれないことに不満だった。

 御子神静香が我の剣士とドミヌスを相手に戦い、姫白龍が泥鬼について忍びの術を学び、魔族と戦っている間、マイナミは一人で静かに暮らしていた。

 造物師が去ってから、マイナミはいろいろな身の回りのものや生き物さえつくってみたが、やはりただものをつくり出すことには意義を感じられなかった。マイナミは造物は自分のためでなく、誰かのためでなければ意味がないと思った。

 マイナミは、その誰かを求めて、紫水晶のネズミと輸送機をつくって外界に偵察に送った。偵察員のネズミは亜空間通路を通り、暗黒界を旅して、様々な情報を持ち帰った。しかし、ネズミが見てきたものは暗黒界の魔族や異様な生物ばかりで、マイナミが好きになれそうなものは何も無かった。暗黒界では泡状空間が発生し続けており、それとともに新たな魔族が次々と生まれていた。おぞましい魔族に取り囲まれていたマイナミは、一縷の希望をネズミに託して、さらに遠くの外界の探査に送り続けた。


 そんなある日、輸送機が氷結したロボットを載せて帰ってきた。知恵が回る偵察員のネズミが、マイナミが関心を持ちそうだと思って、気を利かせて輸送機を使って運んできたのだ。

 氷結した人型のロボットは初めて見る造形で、マイナミの好奇心を搔き立てた。驚いたことに体の数カ所に分散したロボットの電子脳は、結晶オロスでできていた。そのロボットの電子脳は、結晶オロスの変形能力により神経細胞が成長し続けるモデルで、体は機械なのに電子脳だけは生物に等しい成長力を持っていた。

 希少物質の結晶オロスが、自分の体以外にまとまって存在しているのを見たのは初めてだったし、成長する電子脳をつくり出す力は尋常ではなかった。マイナミは、その電子脳の製作者は造物師自身ではないかと疑った。

 氷結したロボットはどこにも損傷箇所はなく、超低温のせいで一時的に機能を停止していただけなので、時間を掛けて解凍すれば自己復旧すると思われた。マイナミはロボットを水晶の台に乗せて復旧を待った。

 マイナミは造物師の作品と思われるロボットをよく観察し、自分も同じものがつくれるかどうか試してみた。マイナミは全てのパーツをオリジナルそっくりの機能につくることができたが、ただ一つ、電子脳に使われている結晶オロスを必要量つくり出すことは難しく、成長しない電子脳で我慢せざるを得なかった。

 ボディーはマイナミの趣味できらきらと輝く金属の結晶質でつくったので、美しい金色のロボットができあがった。

 新しいロボットは起動するとすぐに、頭部のセンサーから赤いビームを四方八方に放った。

「何を調べているのですか?」

 マイナミはロボットに語り掛けた。

「この空間は人工的につくられたものだ」

 新しく生まれたばかりの金色のロボットは、早速マイナミを驚かせた––––––マイナミは知らなかったのだが、マイナミが住んでいる空間は造物師が人工的につくり出したものだったのだ。

「あなたの原型のロボットはもしかして造物師がつくったものではないですか?」

「造物師?」

 ロボットはその名前に反応しなかった。

「あなたの電子脳をつくったのは誰なのですか?」

「私にはその記憶がない」

 ––––––結晶オロスを使用できなかったせいか、新しい衛門の複製は記憶の継承が不完全だった。

 ちょうどその時水晶の台に横たわっていた衛門が再起動して起き上がった。

「私をつくったのは紅林省三博士だ」

 衛門自身が頭部を左右に回転させ、センサーの赤いビームを発しながらマイナミの質問に答えた。

「私はマイナミです。大丈夫ですか」

「私は衛門だ。正常に機能している」

 衛門は再起動後の機能チェックを行って、ダメージがなかったことを確認した。

「あなたをつくった紅林省三博士はどこの種族ですか?」

「実空間の人族だ」

「実空間には結晶オロスがたくさん存在していて電子脳の素材に使われているのでしょうか?」

「結晶オロス?聞いたことがない物質だ」

「私の体の大部分は結晶オロスでできています」

 衛門と新しい金色のロボットが同時に、マイナミのアメジスト色の体にセンサーの光を照射した。

「実空間には存在しない物質だ」

 センサーで確認した衛門が言った。

「でもあなたの電子脳は結晶オロスでできています」

「今初めてその事実を認識した」

「紅林博士は造物師と関係があったのですか」

「そのような関係は知られていない」

「紅林博士は結晶オロスのことを知っていましたか?」

「紅林博士はこの物質のことに言及したことがなかった」

 マイナミはますます衛門の電子脳をつくったのは造物師に違いないと思った。

 造物師はなぜ秘かに紅林博士なる人物と関係していたのか––––––

 マイナミにはわからなかった。

「私を複製したのか?」

 衛門がきいた。

「ええ、電子脳が結晶オロスでないので成長力がない以外は厳密に同一機能です」

「私と同一では役に立たない。私が氷魔に対して全く無力であることは既に実証された。複製に私にはない機能を付加することは可能か?」

 衛門は氷魔との戦闘の経験から、魔族を打ち破るためには、自分が急いで進化する必要があると考えていた。

「どんな機能を付け加えれば役に立つのですか」

 マイナミは目を輝かせた。

 マイナミは初めて自分の造物力を人のために役立てることができそうだった。

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