3 氷魔
カルラ艦隊は一昼夜掛けて辺境地域を探し回った。衛門と慎吾もそれぞれ単座戦闘機に乗って捜索に参加した。しかし、飛んでも飛んでも幻の降魔軍に巡り合うことはできなかった。慎吾のワームの情報網にも、降魔軍は引っ掛かってこなかった。
カルラ族は捜索の範囲を辺境地域から暗黒界にまで広げることにした。
カルラ艦隊は前面に単座戦闘機の編隊を飛ばして、万一魔軍に遭遇してもすぐ戦闘に入れる隊形で暗黒界に進入した。暗黒界に深く入りこむことは避け、辺境地域の周辺の暗黒界を浅くカバーするように、コースをジグザクに変えながら飛んだ。
光の乏しい暗黒界には降魔軍はもとより何者の気配も無かった。艦隊は長時間何の手掛かりも得られないままに飛び続けた。光がある時でも薄暗く、景色も見えない暗黒界の空を飛び続けるのは退屈な仕事だった。慎吾はワームが見つけられないなら、艦隊で飛行して探しても無駄ではないかと思った。
そんな中で、最初に不思議なものを見つけて全艦に連絡したのは衛門だった。
「何か白いものが飛来している」
衛門が通信で呼び掛けたのとほぼ同時に、慎吾もその白いものに気がついた。
ほの白く発光する薄絹のようなものが、沢山ひらひらと舞っている。一見鳥のようにも見え、十字架のようにも見える。
かつて氷魔に遭遇したことがなかったカルラ族は、まさかその白いものが全てを凍りつかせる力を持つ魔族だとは思いもしなかった––––––過去の経験から魔族は船団でやってくるとの先入観ができていたのだ。
氷魔は鳥か蝶のように群れを成して飛び、ものに付着して瞬時に氷結させる。敵を攻撃するのに物音一つ立てない。カルラ艦隊は、多数の単座戦闘機と何隻もの母船が乗員ごと氷結されるまで、事態を認識しなかった。
氷魔の攻撃に気付いた時には、既に全艦体が氷魔の群れに取り囲まれていた。
「この白いものは魔族だ!応戦しろ!」
遅まきながらカルラ艦隊はレーザー砲で反撃したが、氷魔はレーザーで穴を開けられても平気だった。手足もなければ臓器もない。生物というよりは物質に近く、どうやって殺していいのかわからなかった。
一部の母艦に乗艦していた人間の亜種の超能力者達が、テレキネシスで氷魔を吹き飛ばして防戦しようとした。しかし、氷魔は大群で船を取り囲んで襲ってきたので、船に張り付かれないように防御することは不可能だった。
カルラ族の母艦は次々と氷結して沈黙し、しばらく漂流したあとでゆっくりと墜落していった。
小回りの利く単座戦闘機は、氷魔の群れを掻い潜ろうとしたが、群れの密度が濃過ぎて逃げられず、氷の塊になってばたばたと落下した。
慎吾と衛門はそれぞれの判断で氷魔の群れが薄い低空に急降下して逃れた。それでも氷魔は追ってきた。
「慎吾、亜空間通路に逃げ込め!」
慎吾は衛門の最後の通信を聞いた––––––その通信の直後、衛門機も氷結して墜落してしまった。
慎吾は巧みに単座戦闘機を操って近場の亜空間通路に逃げ込もうとした。
多数の氷魔が意外な高速で慎吾の単座戦闘機に追いついてきた。慎吾は全速で飛んだが、氷魔は今にも戦闘機の尾翼に触れそうになった––––––ほんの少しでも氷魔に触れられれば一瞬で氷結される。
やられるっ––––––
背筋が寒くなった時、慎吾の守護龍の碧龍が現れて、追ってきた氷魔の群れに青光を放った。龍の吐く光線はレーザー砲も効かなかった氷魔を一瞬で消散させた。
その隙に慎吾の単座戦闘機は亜空間通路に飛び込んだ。
慎吾は守護龍のお陰で辛くも難を逃れることができた。
しかし、慎吾のように氷魔から逃れられた者は僅かだった。カルラ艦隊は事実上壊滅し、運よく生き延びたのはほんの数機の単座戦闘機だけだった。残った単座戦闘機は亜空間霊界にカルラ艦隊の敗戦の報を伝えるために全速力で飛んだ。
氷結されて墜落した衛門機は大破し、衛門は機外に投げ出された。頑丈な造りのボディーは墜落の衝撃にも持ちこたえたが、衛門は電子脳の中まで凍りついて機能停止し、自力で復旧できる状態にはなかった。
救援にくる者もなく、しばらくの間衛門は放置されていた。
機能停止した衛門を見つけたのは、地面の小さな穴から頭を出した小動物だった。
薄紫色に光る小さなねずみが穴から出てきて、横たわって動かなくなっている衛門を嗅ぎまわった。アメジスト色の結晶質からできているねずみは知能があるらしく、どこからか同じく薄紫色に輝く多面体の飛行物体を呼び寄せた。
水晶の原石のような突起を持つ多面体の飛行物体は衛門の上にホバリングし、二本のアームを伸ばして衛門の体をその底部に密着するところまで持ち上げた。衛門のまわりに結晶質が形成され、衛門は多面体の中に取り込まれた。衛門が多面体に収納されたのを見たねずみは、身軽に飛行物体に飛び乗った。
正体不明の飛行物体は、衛門を結晶の中に封じ込めた状態で、慎吾が飛び込んだのとは別な亜空間通路に運び去った。
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