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亜空間の戦士 弥への道(「亜空間の戦士 暗黒界編」として書籍化)  作者: 亜空間ファンタジー&弥剣龍
第五章 岐路
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4 亜空間の救済者

 慎吾は久し振りにタブレットを使って仕事をしていた。泡状空間の3Dマップを作成してヴィジュアルなシミュレーションを繰り返すのを、慎吾の膝の上に乗ったアメジスト色の猫が一緒に見ていた。

 泡状空間の集合体は葡萄の房のような形状で、ワームが働き続けていて情報を持ち帰るごとに、新たに生まれた泡状空間を追加していく。新しい泡状空間はカラーを変えて一目瞭然になるようにしてあった。

 泡状空間が生成されているエリアは三か所あり、新たなクラスターを形成しつつあるように見えた。

 慎吾は泡状空間の崩壊がどのようにトリガーされ、どのように崩壊の連鎖が起こるかを予測するために、連鎖のパラメータを変えて複数のシミュレーションを走らせていた。

「多分、起爆剤になるのは新しい泡状空間です。泡状空間の生成が失敗して破裂するのです」

 膝の上の猫が話した––––––アメジスト色に発光する猫はもちろんマイナミだった。

「連鎖崩壊がどこで始まっても、ほんの数分で全ての泡状空間が消滅する。連鎖崩壊は最後には亜空間自体も消滅させてしまう」

 慎吾は、こんな重大な問題の解明に取り組んでいるのが、全亜空間を通じて慎吾とマイナミの二人しかいないのは、どうかしていると思った。亜空間には政府も研究機関もなく、消滅の危機に瀕している状態でも、亜空間の種族は相変わらず戦いに明け暮れていたのだ。

「連鎖をどこかで断ち切らないといけないですね。小さな空間なら私の力で安定化させられるかも知れません。でも私の力で支えられるのは、一つか多くても三つくらいの泡状空間だと思います。亜空間全体を守ることは到底不可能です」

 慎吾は泡状空間の生成や崩壊のメカニズムを分析することはできたが、実際に空間を安定化させる能力を持っているのはマイナミ一人だった。どんなに精緻な分析をしても、マイナミが実行できる方策を見つけられないと意味がなかった。

 マイナミは慎吾の分析結果を、どうやったら具体策に変えられるかを考えていた。

「連鎖崩壊は一旦始まると高速の津波のように押し寄せてくる。どこかに予め防波堤を築いておかないと、連鎖崩壊が始まってからでは間に合わないだろう」

「泡状空間は魔族の領域ですから、全て崩壊しても構いません。どうすれば原初の亜空間を守れるかに集中すべきだと思います」

 慎吾は自分が実空間の出身なので、万一亜空間の消滅が不可避なら、その前に実空間に退避するのも現実的対処としてはあり得ると思った。

 実空間でマイナミの力を借りてロボーグハウスを再建し、新しい都市づくりを始められたらどんなに楽しいだろう––––––

 慎吾はそして美紀を呼びたいと思った。夢魔の一件以来、美紀が自分からどんどん遠ざかっているような気がしていたが、実空間の人間の世界に帰ればまた昔の二人に戻れるのでないか、と慎吾は期待していた。

 でも静香やマイナミはそうは思わないんだろうな––––––

「原初の亜空間を連鎖崩壊の津波から遮断する防波堤となる泡状空間を特定できればなんとかできそうだね」

 慎吾にそう言われてマイナミは一つの仮説を思いついた。

「慎吾さん、泡状空間は無数にあってまだ増殖しつつありますが、一番最初は一つだけしかなかったのではないでしょうか。泡状化の起源となるいわば『原初泡状空間』がまず形成されて、そこから分裂が始まっていったのではないでしょうか」

「それは多分そうだろう。最初にできた泡状空間が一つだけだったか、あるいは複数あったかはわからないけれど、たくさんではなかったはずだ」

「もしそうだとすれば、その原初泡状空間の帰趨が原初亜空間の存続の鍵を握っていると思います。なぜなら連鎖崩壊はドミノ倒しのように起こり、原初亜空間の崩壊をトリガーするのは原初泡状空間の崩壊だからです。だとすれば原初泡状空間を特定してそれを守ることが鍵だと思います。その数があまり多過ぎなければ、私の力で原初亜空間への波及をそこで遮断できると思います」

「それは面白い仮説だな。しかし、これだけたくさんある泡状空間から原初の一つを割り出すことはそう簡単ではないぞ––––––」

 慎吾は考えをめぐらせた。

「何か原初泡状空間の特性がわかれば探しやすいけれど」

「一番古い泡状空間で、原初亜空間とは直接亜空間通路でつながっているのでないかと思います」

「それだな。その条件で相当絞り込めるだろう」

 慎吾は原初亜空間と直接つながっている泡状空間を特定して、それらに赤のカラーをつけた。全部で三十強の泡状空間が赤く塗られた。

「まだ多過ぎます」

「連鎖崩壊のシミュレーションをして、このうちのどの泡状空間を通じて原初亜空間の崩壊が起こるかを突き止めよう。こんな時衛門がいてくれると助かるんだけどな」

「衛門はまた一人に戻ったのです。魔族との戦いが一区切りついたので、亜空間霊界に帰りました。当面カルラ族の復興支援をしているのと、故郷の空間の復興についても今後どうするか考えているみたいです」

「せっかくつくった仲間が全滅して落ち込んでなければいいが––––––」

「衛門の場合はそんな心配はいりません。衛門は衛門軍が期待された役割を果たしたことに満足しています。今の衛門は何をやってもよい立場で、私などより遥かに自由です。もう今頃は次の仕事に専念していることでしょう」

「それは結構な話だ。まあ、自分でモデルをいくつかつくってやってみるよ」

 ゆっくり時間をかける余裕はなかったので、慎吾は急いでいくつかのシミュレーション・プログラムをつくらなければならなかった。

「マイナミ、こんな時に悪いんだけど、もし僕達が亜空間を救うことができたなら、僕と一緒に実空間に行ってくれないかな。マイナミと一緒に新しいロボーグハウスと新しい都市をつくりたいんだ」

「ロボーグハウスは前に話していた慎吾さんの家ですね」

「僕の家でお店兼工場だ。今はもう破壊されてしまって見る影もないんだけど」

「慎吾さん、是非連れていってください。私は前から慎吾さんの世界に行ってみたいと思っていました」

 それを聞いた猫は慎吾の首に抱きついてきた。

「よし、約束だよ。でもその前に亜空間を救うために一仕事しなきゃね」

 慎吾はそのコンピューターに匹敵する頭脳で、シミュレーションのロジックを構築し始めた。

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