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亜空間の戦士 弥への道(「亜空間の戦士 暗黒界編」として書籍化)  作者: 亜空間ファンタジー&弥剣龍
第二章 暗黒界
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5 甲魔

 魔族との戦いに備えて、マイナミは霊山龍神宮の機能を素早く調べて理解した。

 マイナミは、霊山龍神宮の製作者である造物師即ちカクリミが、彼の暗黒剣士となるべき微粒子に、自らの存在の一部を吹き込むことによって変成し、かつ広大な時空から掻き集めた結晶オロスを使ってつくり上げたものだった。

 マイナミの物質の創造力と変成力はカクリミの部分からきていて、マイナミはある意味でカクリミの分身だったのだ。そのせいで霊山龍神宮はマイナミの指示をきいたし、マイナミは静香も知らなかった霊山龍神宮の奥深い機能にまで入り込むことができた。

 マイナミは神兵の軍団をつくった霊山龍神宮の機能と、自分がつくった衛門の複製装置は基本的に同じものだと思った。霊山龍神宮は神兵の軍団が消耗しても、時間さえあれば復元する能力があった。龍神宮の内部構造や内装が可変的なのも、この物質生成機能に基づいていた。

 霊山龍神宮には、マイナミにはない我の時空操作の能力を増幅する機能があった。また膨大な量のエネルギーと情報の貯蔵庫を持っていた。エネルギーは主に霊山龍神宮ほどの大きく質量のあるものを、亜空間移動で高速で動かすために使われていたが、まだ十分過ぎるほど余裕があった。

 航海システムは霊山龍神宮をピンポイントで地点から地点に移動させる能力を持っているのに、暗黒界で霊山龍神宮が記憶している地点が少ないのであまり使われていなかった。

 マイナミはこの点に目をつけた。

「慎吾さんの天眼と、霊山龍神宮の航海システムを組み合わせれば、敵に気付かれずにポイントからポイントに移動して、魔軍を急襲することが可能になります」

 マイナミは静香に提案した。

 静香は早速、慎吾に霊山龍神宮の航海士の役割を任せることにした。霊山龍神宮の機動力が増すだけでなく、それによって静香自身は戦闘に専念できるのだ。

 マイナミはまた、霊山龍神宮の亜空間移動の力を拡張し、速度の遅い伍部浄の船団を霊山龍神宮が牽引できるようにした。霊山龍神宮の強力な推力は船団全体を余裕で動かすことができ、これによって全軍の高速移動が可能になった。

 カクリミ不在の中でマイナミは実質的にカクリミを代行する役割を担うようになった。 

 姫白龍と捷鬼党忍軍が焼魔を葬り、カルラ族が大打撃を受けたものの龍軍が氷魔を破り、美紀が封印されていた夢魔を無力化したことで、魔族との戦いは今のところ亜空間霊界にやや有利に進んでいた。美紀は夢魔との戦いの後遺症を被ったものの強力な降魔戦士に成長し、夢術師美紀のある限り、魔族の心理攻撃もさほど恐れることはなかった。

 静香は、こちらから積極的に魔族を攻撃する準備が整ったと思った。

 慎吾が攻撃対象となる魔軍の位置をワームを使ってピンポイントで確認し、そこに到達する経路を割り出した。

 魔軍は複数の泡状空間に複数の種族が集結してきていた。放っておけば統合された大軍団になり、また時空転輪力を使って消し去るしか手がなくなる。その結果時空の歪みが拡大して亜空間が消滅してしまうのでは元も子もない。そうなる前に魔軍に打撃を与えておかねばならなかった。

 慎吾は攻撃目標を甲魔と呼ばれる高速地上軍の大軍団に絞り込んだ。甲魔軍は魔軍の軍団の中でも最大規模だった。

 甲魔は強固な甲殻と二対の腕を持ち、俊敏で武芸に優れ、地上軍とはいえ亜空間移動で高速で移動するので、船団で移動する魔軍より機動性があった。但し念動力や妖力は限られていた。

 手強いが、妖力に惑わされずに先兵の力が発揮しやすく、美紀を前面に出さずに戦える相手だった。また慎吾は先制攻撃であれば自分の雷撃を使うチャンスだと考えた。

 霊山龍神宮と伍部浄の船団は、戦闘準備を整えて亜空間通路に近づいた。渦状星雲のように渦巻いていた亜空間通路の開閉口が開いた。霊山龍神宮に続いて、伍部浄の船団が次々と亜空間通路に吸い込まれた。

 亜空間通路の通過は一瞬だった。そこからまた瞬時に攻撃地点まで飛んだ。

 霊山龍神宮と伍部浄の船団は甲魔軍の意表を突いて、突如その陣営の頭上に現れた。伍部浄の軍船からは、直ちにウゴロ族の重装歩兵が降下し始めた。

 霊山龍神宮からは、ただ一機。紫色に輝く結晶質の単座戦闘機が飛び出した––––––慎吾とマイナミの二人だった。

 マイナミは超低空飛行で飛び、慎吾は落雷のエネルギーを蓄積していた電撃剣で、甲魔の陣を舐めるように雷撃を掃射した。耳をつんざく雷鳴とともに、大地に水平に稲妻が走り、甲魔軍を広範囲に吹き飛ばした。

 小型の戦闘機一機に過ぎなかったが、まるで龍が空から急襲したような打撃力だった。

 甲魔はてっきり龍軍の襲来かと思ったが、龍の姿はどこにもなく、ちっぽけな戦闘機が飛び過ぎただけだった。

 慎吾は電撃剣のエネルギーを使い切るまで雷撃を繰り返し、先制攻撃で甲魔に手痛い打撃を与えて霊山龍神宮に戻った。

 伍部浄軍は念動力で鉄球を砲弾に使って、硬い甲魔の甲殻を打ち抜いた。普通の弓矢では甲魔の甲殻を貫通することはできないが、ウゴロの重い鉄球は甲魔殺しに適した武器だった。

 慎吾の空爆で痛めつけられた甲魔軍はそれでも少しも怯んだ様子を見せなかった。ウゴロ兵の初撃は有効だったが、直ぐさま強力な反撃を受けた。四本の腕に四本の剣を持った甲魔兵は、素早い亜空間移動でウゴロの兵士の懐に飛び込んできて、分厚い装甲を刺し貫いた。

 ウゴロ兵の重装備も甲魔の甲殻ほどには頑強ではなかった。素早く目まぐるしい攻撃を仕掛ける甲魔兵の太刀をかわすことも難しかった。ウゴロ兵の鉄球が甲魔兵の甲殻を打ち破る数だけ、甲魔兵の剣はウゴロ兵の装甲を切り裂いた。

 慎吾が帰還すると、霊山龍神宮からは代わって静香一人が甲魔軍の前に降り立った。

 甲魔は相手が我の先兵とは知らないままに、静香にむけて押し寄せてきた。

 静香は十分敵を引きつけてから九頭龍卍刀を横薙ぎに振った。紫光が剣先から発せられ、その太刀筋の線上にいた甲魔兵を根こそぎ切り倒した––––––大軍を相手取るには一番効果的な紫電の太刀だ。

 静香は紫電の太刀で甲魔をまとめて斬り倒しながら敵陣に突っ込んだ。静香の前には硬い甲魔の甲殻が用をなさず、一振り毎に多数の甲魔兵が紙人形の如く両断された。静香は素早い甲魔よりもさらに速く、敵に逃げる時間を与えなかった。静香は意図して最も甲魔軍が密集しているところへ突入し、頭から玉簪を抜いて投げつけた。

 ビューッという空隙に風が激しく吹き込む音がして、甲魔軍の大軍団がいたところに火山のカルデラのような大穴が開いた––––––反物質弾が大地ごと甲魔軍を消去したのだ。一瞬のうちに甲魔軍はその半数以上を失った。

 我の先兵の桁外れの戦闘力に唖然としたのは甲魔軍だけではなかった。

 伍部浄は静香の余りの強さに息を呑み、敵に回した時の恐ろしさを想像して思わず身震いした。我の先兵の働きを初めて目の当たりにした慎吾と美紀は驚嘆のあまり声も出なかった。

 あまりにも強過ぎる––––––

 驚かなかったのは、シズカミの強さを知っていたズクだけだった。元来我の先兵はただ一人で大軍を相手取るようにできているのだ。

 甲魔軍は、密集していることの不利を悟り、部隊を散開させ、浮遊して三次元にも分散しようとした。

 静香は九つの敵を一撃で倒す九龍の太刀に切り替えて、浮遊してくる降魔を斬り落とした。

 しかし、散開した敵を先兵一人で追い回すのは得策ではないと考えた静香は、神兵の軍団を繰り出した。

 金剛大将の師団が密集隊形で押し出してきた。

 隊形が整っていない甲魔兵は次々に神兵の軍団の波に呑み込まれていった。

 神兵は討たれても直ぐに補充されるので、隊形が乱れることがない。甲魔兵は一人一人の武術は優れていたが、神兵の組織力に太刀打ちできなかった。

 甲魔将軍はそれを見て、甲魔兵に合体の指示を出した。甲魔兵は余分な一対の腕を組んで、密集した塊をいくつも作った。甲魔の塊は、あたかも戦車のように突撃して、神兵の隊形を崩して切り込んだ。

 流石の神兵も合体甲魔の戦車にはてこずった。整然としていた神兵の隊形が崩され、甲魔の合体戦車にあちこちで蹂躙された。

 甲魔の合体戦車に悪鬼のように襲い掛かったのは静香だった。

 静香は合体降魔を九龍の太刀を使って、ずたずたに切断して回った。一時神兵を混乱させた合体甲魔も静香に分断されると勢いを失って神兵の波に呑み込まれていった。

 甲魔軍には手がなくなり、神兵の軍団が優位になった。

 戦況不利と見た甲魔将軍は全軍に退却を命じて、自ら真っ先に高速の亜空間移動で逃走した。甲魔の亜空間移動は速い。退却の指示が出ると一瞬で甲魔軍は戦場から姿を消した。

 静香は甲魔が敗走したので、神兵を霊山龍神宮に戻した。神兵の大軍はまるで幻だったかの如く一瞬で消えた。

 戦場に残されたのは、伍部浄のウゴロ兵だけだった。伍部浄軍は甲魔軍が静香と神兵の軍団に蹴散らされたおかげで、比較的軽い損害で済んだ。

 伍部浄は静香とその軍団の強さを目の当たりにし、ますます何とか自分のものにしたいと思った。

 この軍団を手に入れることができれば、全亜空間の平定も夢ではない––––––

 伍部浄の野望は膨らんだ。

 取り敢えず伍部浄は、甲魔軍に対する戦勝を自分の新たな功績として付け加えた。

「須弥族の正統、降魔大将の伍部浄が甲魔軍を打ち破ったぞ!」

 伍部浄は声高に叫んだ。

 静香は敗走する敵を追わなかった。深追いして魔族の地に入ると何が待ち受けているか予測し難い。その危険を静香は冒さなかった。

 慎吾の作戦は大成功を収め、静香の軍団は初戦を飾った。静香は次の一手も慎吾とよく相談して、手筈を整えてから実行に移すつもりだった。慎吾は電撃剣の雷撃で戦闘でも目覚ましい戦果を挙げ、降魔戦士としての力を遺憾なく発揮した。しかし、それ以上に静香にとってありがたかったことは、摩訶天眼の慎吾という頼もしい軍師を得たことだった。

 静香はいったん魔族のいない地域まで軍を退くことにした。

 気がつくと姫白龍が消えていた。龍の娘は魔族の大軍を前にしてじっとしていられなかったのだ。

 

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