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change  作者: 虚虎 冬
終章
96/98

2:change

「ねえ、他に何か方法は無いの?」

 リゼリアはアグにそう尋ねた。アグは目を白黒させている。

「他って、何だ?」

「他は他だよ」

 「龍」を助けられるくらいの、肩代わりとなるようなエネルギーはないか。そういうことだ。

 リゼリアのその言葉を聞いて、アグはその顔を哀しそうに歪めた。

「……それを聞いてくると思ったんだ」

 嫌だったのに。そんなアグの、彼らしくない、感情が籠もった声を聞いて、リゼリアは困惑した。

「何で、哀しそうなの?」

 リゼリアは分かっていない。彼と――変化へんげしたアグと、二度会ったことに。

 初めて会った時は、<楽園サラダ>でバイトをしていた。ずっとムーシャが明るくて、リゼリアは暗く沈んでいた。当時の旅の連れ合いが、「俺、ビックリした」等と言い続けたのも、無理は無い。アグ(アノ)もそう思っていたから。リゼリアは決して、大人しい少女では無く、かなり活発な少女だったのだ。

 <科学都市>でも彼女の行動を見ていて――。

 その時、思った。カミが宿ったのがこの子で、大丈夫か。彼女は自分の命を投げ出してしまうのではないか――。

 それは単なる、カミの直感だったのに、今、その直感が当たったと、確信した。

「……早く言って。何かあるんでしょ?」

 言いたくないのに。

「……リゼリア。君が器に選ばれたのは、偶然じゃない」

 元々第一位世界に行ける器が無ければ、カミはその体に宿らない。

「リゼリアは、世界にいる時の、その場にいる力――位置力が強い。だから……」

 彼女の、人間としての力を注げば。代わりに龍達を助けられる。

「この『龍』達、そしてリゼリアの中にある雷神(トーラ)の命を犠牲にするか、リゼリア自身の、人間としての力を犠牲にするか、しかない」

 どちらにするんだ、と尋ねるアグも、既にリゼリアの返事は分かっている。

人間(わたし)を犠牲にする。……別に、()は死なないでしょ?」

 笑って言った彼女に、念押しをする。

「いいのか。……ずっと生き続けるのは、辛いぞ」

「大丈夫」

 それでも、楽しい事はあるはずだから。リゼリアは軽い調子で言ってのけるのだ。

――いいやつを選んだな、雷神(トーラ)

 アグは、リゼリアに伝え始める。世界と世界の切り離し方を。


 柱の間に手を差し込む。光が指に触れた。

 瞬間、世界が変わる。

 いや、リゼリアの思考が何処かへと飛んだのだろうか。見えないが、何かを感じる。

――丸? 二つ、並んでる様に……

 歪な丸を感じた。二つの丸は、近づいたり離れたりを繰り返している。

 片方の丸に、郷愁を感じた。懐かしい匂い、だろうか。

――ああ、これって、世界なんだ

 唐突にリゼリアは思った。第一位世界と第二位世界。二つの世界まる。郷愁を感じるのは、そこが自分の故郷だから。

 ああ、この二つの世界は、自分の故郷。自分が好きな人達がいる世界(ところ)

 繋げたら、壊れてしまうよ。

 そっと、その丸に手を伸ばす――二つの丸を繋ぐ、道を千切る為に。

 改めて自分の中に意識を向けると、二つの力が混ざっている気がした。カミの力と自分自身の力。もう、二つを分ける事は出来ない気がする。

 その力をイメージで掬って、丸の間の道に注いだ。注ぐ、というのは間違いか。刃の様に尖らせて、その道を力で叩き斬った。

 簡単だったよ――意識を、アグの方へ戻して言おう。そう思ったのに、どうやら自分の意識はそこに戻れない様だ。

 でも、死なない気がする。リゼリアの心は、穏やかだった。


「……やったのか」

 塔の中、唯一人立ちつくしていたアグは、にっこり笑った。

「ムーシャ、アルト……。お前達は素晴らしい友を持っているな」

 リゼリアの体が、すうっと透ける。彼女の透けた体からは、金色の石が光って出てきて、それは他の珠と共にくるくると回る。実に、楽しげに。

 塔は静かに揺れ始めた――役目を果たし、その姿を消し去ろうとしている。

 アグは、静かに舞う五つの珠が、空遠くへ飛んでいくのを見た。

「おめでとう」

 次の瞬間、アグの姿も、珠の姿も、何処にも見られなかった。

 後に残るのは、崩れ始めた灰色の塔のみ。

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