エピローグ:金色の鳥
大陸中央部に位置するサラトゥル帝国。国の更に中央に、形ばかりの城が建っている。周りの家々よりは少しは立派、という程度。
その城にある一室で、少し年老いた女性が、ゆっくりと絵本を朗読している。
「……そうして、世界は救われたのです。おしまい」
彼女がパタンと本を閉じると、周りにいた子供達がわあわあと騒ぎだす。
「ねえ、じゃあおばあちゃんは冒険したの? 他の国に行ったの?」
「そうねえ」
「すっげー」
「私も、いつか、外に行ってみたいな」
そうやって、国の外へと夢を膨らませる中、一人の男の子が聞いた。
「おばあ様。リゼリアさんと、ユウさんはどうなったのですか」
瞬間、女性の体が固まった。彼女の異変に気付いて、周りの子供達もしいんとなる。
「リゼ――リゼリアは、今もどこかを歩いているわよ。散歩が好きなんだって」
そうして女性は次に、しわの入った指を、部屋のある方へと指差した。そこには、蒼い綺麗な卵。
「……? おばあ様、あれは触ってはいけないリュウの卵、ですよね?」
「ええ。ひねくれ屋だから、子供に突かれると出たくなくなるそうよ。それと、あの卵は『龍』の卵」
そっと強調して、その賢しい男の子に教えてあげた。男の子の目はまあるく広がる。
そのまま男の子は、ひそひそ声で女性に尋ねる。
「じゃあ、あの卵はユウさんなのですか?」
「ええ。生まれ変わりよ」
他の子には秘密よ、と言って、女性は人差し指を口に当てた。
「ええ、言いません」
男の子はにっこり笑って、既に騒ぎ始めた子供達に混じっていく。
――あの子は、賢いけれど、ませてると言った方がいいかもしれないわね……
女性は椅子に座り直し、マフラーを編みながらぼんやりと考える。
ふっと思い立ち、卵を見やる。全く生まれる気配がない。
――いつ生まれるのかしら
自分が生きている内だと、いい。女性はそれだけ願った。
もう一つ、願いはあるが、それはきっと叶わないだろう。先程子供に「散歩している」等と言ったが、本当はどうなのか分からないのだから。
女性――ムーシャは、子供達にばれないよう、小さな小さなため息をついた。
騒ぎ始めた孫達は、部屋に茶を届けに来てくれたアネルにじゃれついている。初めこそ子供の扱いに困っていたアネルだが、彼女もだんだん、穏やかな顔で子供達と接する様になってきた。
もう、彼女が剣を握らなくなって、何年経ったろうか……。既にこの国では、争いが起きる事はない。第二の<楽園サラダ>とも呼ばれる様になった。
――良かった、けど。やっぱり、リゼとユウ君が、この場にいたら良かったのにな……。
と、視界の隅に金の何かが過る。
はっとして、窓の外を見た。
窓枠には、小さな金色の鳥。首を傾げたりも、羽を毛繕いしたりもせず、その小さな目をこちらへと向けている。
ムーシャは一度、部屋の中を見渡した。孫が走り回っている。先程読んだ絵本が、綺麗に本棚に納められていた。隅には、やはり動かない卵。
もう一度窓を見ると、まだ小鳥は停まっていた。
その小鳥に笑いかけると、小鳥は何度か首を前後に揺らし、やがて窓枠から飛び立っていった。
そのまま、小鳥が飛んでいくのを見送る。すると、後ろの方でピシリ、と小さな音が立った。卵の殻に、少しだけ割れ目が入っている。
――リゼ、だったよね?
――ユウ君の事、起こしに来てくれたの?
――それとも、私の事を見に来てくれたのかな。
――どっちでもいいや。リゼ、元気ですか?
――私は今、幸せです――
fin.
今まで読んで下さり、本当にありがとうございました!




