1:国の中の
ただ不安に襲われていても、仕方がない。リゼリア達は、恐る恐るその国へと近づいて行った。
近づけば近づくほど、その国は奇妙に思えた。川がある。地図には無い川が。確かこの砂漠、川が一本も入っていないはずなのだが。
そして、穏やか。
特に、リゼリア達が近づこうと、警戒の色も無い。人はさっぱり出てこない。
「……あー! もういいや、走る!」
何にも起きない事に焦れたのか、リゼリアは一気に駆けだす。
「え、ちょっ!? 待ってよ、リゼ!」
アルトが慌てて追いかける……が、ユウはそのまま、険しい顔だ。
ムーシャがユウに、
「……どうしたの? 行かないの?」
「何となく、行きたくない……」
そう言っても仕方がないことは、ユウも分かっていた。ムーシャと二人頷いて、リゼリアの後を追う。
門に着けば、更に疑問は増すばかりだ。
門の取っ手は珊瑚だろうか。足元には貝殻が散らばっている。ここは海から遠く離れているはずなのに、おかしいことだった。
「……これ、いいの? 門番もいない」
<楽園サラダ>にだって、物見がいたというのに。リゼリアは国のおかしさを感じた。もしやこの国、今までで一番歪んでないか。
アルトが肩を竦めて言った。
「今更、入らないって選択肢は選べないじゃん……開けるよ」
彼の手によって、門はあっさり開かれた。
「お邪魔しまーす……」
と一応声をかけるも、アルトの声に反応するものはいない。リゼリア達は立ち呆けた。何をすればいいのやら。
暫くして、ようやく人がやって来た。青い髪の女性だ。
「……あ、お客さんですか~。いらっしゃいませ~」
そんな、的外れな事を言う。
「……えっと? 私達、ここでちょっくら休んでいいんですか?」
フリーズから何とか立ち直り、リゼリアは彼女に聞いた。
「ええ~。ごゆっくりどうぞ~」
まったく危機感の無い会話。どうやら、想像していた様な野蛮人ではなさそうだ。
そのままフリーズしていたアルトが、立ち去る女性に尋ねる。
「あの……この国が出来たのは、最近ですか?」
「いえ~。ここは――<水上古都>と呼ばれています。昔からある、由緒正しいお国なのです~」
ますます、この国が分からなくなった。
「よく分からないけれど、ここでしばらく休んで良さそうだね」
リゼリアが何とか会話を始めた。<水上古都>ののんびりした風景に、少し気を抜かれてしまったのだ。
リゼリア達は、適当に見繕った店で休憩していた。ムーシャは果物――国の特産物だと言う、マイモモが載ったケーキをちょっとずつ口に運んでいる。リゼリアとアルトは、マイモモを丸かじりである。
「……んく。ユウ、食べないの?」
果物の汁を払いながら、リゼリアはユウに聞く。彼は目の前の果物に全く手を付けていない。
「……食べる気がしない」
そのまま、力無く立ちあがり、ふらふらと店を出て行った。
「おかしいね」
ムーシャが言うと、
「うーん。いつもなら、絶対全部食べるのになあ。甘い果物なのに」
リゼリアの返事に、ムーシャは嘆息。
「入る前から、何かおかしいの。……アルト君、ユウ君の変わったところ、見てない?」
「さあ? ……俺に話しかけてくれないのは、いつもだけど」
アルトがしょんぼりしてしまったので、とりあえず話は打ち切りとし、三人はユウを探しだした。
ユウは、国の中央にある広場のベンチで、ただ座ってぼうっとしている。ベンチは、噴水を囲むようにして置いてある。噴水の水は、だんだん光っている様にも見えた。
光を強める噴水。
それと共に、だんだん暗くなっていくユウの瞳。
その光の動きは、しかし三人が駆け寄ってくる音で止まり、次の瞬間、噴水は元の様子に戻っていた。
「ユウ! こんなとこにいたの!?」
先程までいたのは、国の端にある店。ユウはあんなにふらふらとしていたのに、ここまで来ていたのか。リゼリアはユウの頭をべしっと叩いた。
いつの間にか、彼の眼には光が戻ってきている。
「痛い。暴力反対、だよ。リゼ姉」
「へいへい」
彼らの調子は、いつもと変わらないように見えた。
「ん? ……あれって、<水上古都>に入った時の女の人?」
「本当だ」
アルトとムーシャが、遠くから歩み寄ってくる影に気付く。
「皆さん~。泊まる宿はお決まりですか~」
四人は顔を見合わせた。確かに、一泊したいところだ。
彼女が、自分の家へ、と薦めてくれたので、ありがたく泊まらせてもらうことにした。




