表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
change  作者: 虚虎 冬
水上古都編
84/98

2:宿の中の

 例のごとく、ムーシャとアルトは同じ部屋に押し込め、ユウとリゼリアは二人部屋に入った。

 部屋に入ると、ユウはがたがたと震え始める。

「どうしたの、ユウ」

 流石に、様子が変だという事に、リゼリアも気付いていた。十歳ながらもしっかりしている彼が、ふらふらと歩き出すのがおかしいのだ。

「……ちょっと、だけ」

 彼はかすれた声で言うと、急にリゼリアに抱きついてくる。

 体がずっと、震えていた。

 腰の辺りにしがみついた、子供らしい子供の頭を、リゼリアはゆっくりと撫でる。

「……明日には、この国、出ようか」

 穏やか。歪んだ所が無い様に見える<水上古都>。しかし、<楽園サラダ>の様に、活発な訳でもない、不気味な国――。何より、ユウがずっと不調だったのだ。

 この国は、すぐに出るべきだ。リゼリアはそう思った。

 しがみついて、無言でユウはこっくりと頷く。彼は声も出さずに泣いていた。

 リゼリアは、ユウが泣き疲れて寝るまで、ずっと頭を撫でていた。


――まさか明日でも、遅くなるとは。その時のリゼリアは考えもしなかったのだ。


 どんな国だろうと、朝日は平等に人を照らす。ベッドからもぞもぞと起き上がったリゼリアは、ぐっと伸びをして、隣のベッドを見る。

 ユウが、いない。

 慌ててリゼリアは、部屋中を探す。ベッド下も、クローゼットの中も。

 ユウは、部屋にいない。

「アル、ムーシャぁ!」

 扉を無理やり開くなり、リゼリアは叫んだ。

「な、何?」

 二人はちゃんと、別々の布団に入って寝ていたが、そんな事はどうでもいい。

「ユウ、こっち来てない!?」

「え……」

 アルトとムーシャは、彼女のその一言で察した。一気に顔が青ざめる。

「……ユウ君、いないの?」

 リゼリアの顔は蒼白だった。その顔が全てを物語っている。

 ただ単に、散歩に出かけたならいい――三人は言いようもない不安に包まれながら、女性の家を飛び出した。手分けをして探す。リゼリアは、広場の方へ。


 少し走れば、見えてくるのは昨日の広場。噴水が盛大に噴き上がっている。昨日とは比べ物にならない程に。

 ユウが、噴水の元にいた。

「ユウ!」

 昨日と同じように叫んだのに――リゼリアの声は、彼には届かない。水の音で、かき消されている。

 いや、それも違うだろうか。

「ユウ! 返事しろってば、おい!」

 駆け寄って、肩を掴んで揺らしても、彼は無反応。目が、何も映していないという事に気付き、リゼリアは身を震わせた。

――遅かった……!

 遅かった、何もかも。昨日中に、夜に、国を出ていれば良かったのだ。初めからこの国に入らなければ――。

 もう、遅い。

 噴水は盛大に噴き上がり、光輝いた。それはとても綺麗なのに、感嘆の声を上げる物のはずなのに。リゼリアには、それが命を吸い取る蛇にしか見えなかった。

 噴水が、爆発を起こす。

 水で、リゼリアの服もユウの服も、ずぶ濡れだった。しかし今は、そんな事はどうでもいいのだ。

「ユウ!」

 一度、大きく肩を揺する。と、彼の目に光が灯った。

「あ……リゼ、姉」

 ゆるゆると顔を上げ、リゼリアを見上げたユウは、一瞬で顔をくしゃくしゃに歪ませた。

「ごめん」

「ごめんって何が!? とにかく、ここを出よう! 今すぐ! ね?」

 腕を引いて、走り出そうとしたのに、ユウは首を振って動かない。

「……ごめん」

 また、謝るユウの声は、涙に濡れていた。

――なんで、謝るの!?

 何となく、リゼリアも分かっていたのだ。しかし認めたくなかった。

 ユウが、消えるなんて。

「リゼ姉、短い間だったけど、楽しかった。じゃあね」

 無理に笑うその顔は、孤児院で出会った時の様で。でも、泣き顔で。

 そのまま、彼の体は透け始める。

「ちょっと! ……訳分からないってば、何してんの!? ふざけないでよ、こんな所で魔法使って、からかうなんて……」

 リゼリアの顔も、酷かった。ユウと同じで、無理に笑おうとして。その声は震えている。

「リゼ姉、」――大好きだよ。

 口を動かしても、声が届かない。ユウが最期ににっこり笑うと、その姿は掻き消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ