平凡な一日(二)
リーン… リーン…
森の奥深く、暗闇が包み込む場所で
音が森中に響き渡り、小さな光が空中に漂っている
ただ月明かりだけが、高い空で輝いている
…
サワサワ…サワサワ…
森の木々の間で音が割り込む
一つの影が闇の中を滑るように進むように進む
腰には小さな筒がたくさん下げられ
短い二本の刀が鞘に収まっている
……
ザッ
小さな葉が地面に静かに落ちる
影が白い鼻先の方へ体を伸ばす
目の前には巨大な洞窟
爪の跡と砕けた骨片がそこら中に散らばっている
強烈な匂いが空間全体に広がっている
………
太一は顔を上げて小さなノートを一瞥し、、再び洞窟の方へ振り返る
目を細め、手を鼻に当てて覆う
「あの連中の言った通りだ。」
「やっぱりここに隠れているな。」
…
ギュッ!
太一の目が突然金色に変わり、両手で頭の紐を強く握りしめる
「始めるか。」
……………………………………………………………………
グルル…グルル…
洞窟の中、大きな骨片が散らばる周囲
装備の破片が強烈な匂いの間に横たわっている
巨大な体に、腕全体を覆う甲冑
体中に伸びる傷跡
大きな岩の間に身を縮こまらせている
手はまだいくつかの頭蓋骨の上に置かれている
…
コロ… コロ…
突然外から音が近づいてくる
小さな瓶が連なって大きな生き物のほうへ転がっていく
…
…
シューー…
オレンジ色の煙が全ての瓶から立ち上る
徐々に洞窟の隅々まで広がっていく
…
クン… クン…
生き物の鼻が突然動く
……
ドドドドッ…
洞窟の方から音が響き渡る
小さな石が連続して震える
…
…
グオオオッ!!
暗闇の中から、月明かりの下に熊が姿を現す
体は木々のてっぺんよりも巨大
至る所に甲冑がびっしり覆っている
牙と爪は刀のように長く伸びている
…
ゴシゴシ…
しかし熊の目は連続して閉じられ
体を無理に高く伸ばし、鼻を月の方へ向ける
…
シュッ
一直線に、熊の体を横切る影
手に武器を持った影
濃い赤色が厚い毛に染み込んでいく
…
バシャッ
影の方から水の流れが熊に向かって飛ぶ
赤が水に滲んで広がっていく
……
ドサッ…!
熊の体がまっすぐ前方へ倒れる
周囲の木々が激しく揺れる
熊は両手で目を覆おうとし
口からはただ一つの声だけが響く
グルァアアッ!!
…
シューー…シューー…
気体の瓶が至る所に広がる
オレンジ色の煙が空間全体を覆っていく
そしてその中心に立つ、孤独な影
顔を覆った太一、両手にしっかりと刀を握る
「これで終わりにしよう。」
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街は今や至る所が暗闇に包まれている
人の影は一つもなく、漂う気配もない
ただ一ヶ所だけ、まだ明かりが灯っている場所があった
数人の影がまだ中を行き来している
…
バンッ!!
大きな家の扉が今、大きく開かれる
周囲のテーブルはきちんと置かれたまま
何人かの影が手に高い紙の束を持っている
そして依頼の紙がびっしり貼られた大きな掲示板
…
グイッ… グイッ…
太一は歯を食いしばりながら、熊を引きずり込む
手を引き、熊を中へ引きずり込む
…
タタタッ…
緑色の制服を着た一人の女の子
少し顔をしかめ、手を何度も振る
「太一くん。」
「それを無理に中へ連れてこないで!」
「人呼んでくるから、ちょっと待ってて!」
…
ドサッ…
太一は慌てて熊を地面に落とす
顔に満面の笑みを浮かべ、目が突然輝く
「はい、セリーヌさん。」
……………
ヘタッ…
太一の体が大きな椅子に長く横たわる
腕を目に当て、もう片方の手は指一本動かせない
…
トンッ
セリーヌが太一のテーブルに近づく
手に金貨の袋をそっと置く
もう片方の手には×印だらけのノート
「太一くん。」
「今回の依頼はギルドが完了として記録するわ。」
「でもいつものように……」
「ギルドは君が任務を達成したことを公表しない。」
「今夜起きたことを誰にも教えない。」
「報酬も20%減額される。」
「文句はないわね?」
…
ハァ… ハァ…
「はい……ありません……」太一は腕を少し開け、セリーヌの方をちらりと見る
「いつもの通りで……いいです……」
…
パタン
セリーヌはノートを軽く閉じ、太一の方に目を向ける
「それではギルド側は全て完了としたわ。」
「今は……」
……
バンッ!!
セリーヌは強くテーブルを叩き、顔をしかめる
体を太一の方へまっすぐ伸ばす
「君は何を考えてるのよ!!!」
「夜の森に入るなんてどれだけ危険かわかってるの?」
「村で一番の冒険者でもそんなことしないわよ。」
「もし何かあったらどうするつもりなの?」
…
へへ…
太一は腕を目から外し、顔に明るい笑みを浮かべる
「そんなことになるわけないじゃないですか?」
「姉さんも僕のこと知ってるでしょ。」
…
はぁ…
「本当にどうしようもない子ね。」セリーヌは軽く首を振り、目を閉じる
「せめて家にいる子たちのことを考えてあげなさいよ。」
「君は冒険者じゃないんだから、こんなことずっと続けてもダメよ。」
…
ガバッ…
「姉さんもわかってるでしょ。」太一は体を起こし、目を細める
「僕、登録できないんだから。」
「家にいる子たちのせいで、こうして続けなきゃいけないんだ。」
…
「そうね……あの女……」セリーヌの唇が小さく動く
…
…
ギュッ
セリーヌは手を伸ばし、太一の手を強く握る
目が優しくなり、顔を近づける
「どんな理由であっても……」
「私は太一がここに来てほしい。」
「もうこんな仕事はしなくていいように。」
…
「セリーヌさん、僕……」太一はセリーヌに視線を向ける
…
「知ってるわ。」セリーヌは指を太一の唇に軽く当てる
「あと数ヶ月だけよ、君ならできる。」
「だから最近、難しい依頼をわざわざ選んでるんでしょ。」
…
「焦らないで。」セリーヌは体を傾けて見つめる
「私たちはいつもここで君を待ってる。」
「ギルドマスターも君に必要なものはもう準備済みよ。」
「だからもう無茶はしないで。」
「君には待ってる人がいるんだから。」
…
…
「セリーヌさん、実は……」太一の喉が急に詰まり、顔が少し赤くなる
「言いたいのは……」
…
パンッ
セリーヌは太一の手を離し、後ろの方へ視線を向ける
顔に笑みを浮かべ、指で小さな箱の方を軽く指す
「そうね。」
「ギルドマスターが仕事から帰ってきてお土産を送ってくれたの。」
「全部他の街の美味しいお菓子ばかりよ。」
「太一も家に持って帰って、みんなに分けてあげなさい。」
…
太一の体が突然起き上がり、目を見開く
両手で慌てて金貨の袋を掴み、お菓子の袋の方へ向かう
視線を出口の方へまっすぐ向ける
「ごめんなさい。」
「急用ができたので今すぐ帰ります。」
「明日また来ますね!」
…
「急がなくていいわよ!」セリーヌは扉の前に立ち、太一に向かって手を振る
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太一の影が夜の闇に溶け込んだ後
後ろから一つの影が近づいてくる
そして小さな声が響く
「先輩。」
「あの子のことは言わないんですか?」
「あの子、なんだか……」
…
「大丈夫よ。」セリーヌは軽く扉に手を置き、頰に一筋の涙が伝う
「あの子なら大丈夫。」
「あの子は……とても強いから……」
…
ポタ…
「ごめんね、太一くん。」セリーヌは唇を小さく動かし、体が扉に沿って崩れ落ちる




