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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第9話 王子、追放を疑う

 静まり返った謁見の間に、足音が響く。


 ライベルトは一人、玉座の前に立っていた。


 あの日と同じ場所。


 リディエルを断罪した、あの位置。


(……なぜ、こんなにも広い)


 以前は感じなかった空虚が、空間を満たしている。


 側近も、廷臣もいる。

 政務は滞りなく進んでいる。

 王都は平穏だ。


 問題は、何もない。


 それなのに。


「殿下?」


 宰相の声に、我に返る。


「ああ、続けてくれ」


 報告は頭に入らない。


 最近、些細なことで思考が逸れる。


 紅茶の香り。

 廊下の足音。

 金色の髪。


 思い出すのは、いつも彼女だ。


 断罪の日。


 糾弾の声。


 そして――


「早く断罪してください」


 あの、落ち着き払った声。


 怯えも、取り乱しもなかった。


 まるで。


 すべて承知していたかのように。


(あれは……敗者の顔だったか?)


 自室に戻る。


 机の上には書類が積まれている。


 だが視線は、窓の外へ向く。


 王都の空。


 整然とした街並み。


 完璧だ。


 完璧すぎる。


 ノック。


「失礼いたします」


 入ってきたのは近衛騎士。


「辺境の港町より報告が」


「……何だ」


「交易量が急増しております。新たな海路が開拓されたとか」


「誰が?」


「不明です。ただ、現地では“金髪の令嬢”の噂が」


 心臓が、わずかに跳ねる。


「……噂だろう」


「は」


 騎士が去る。


 ライベルトは椅子に深く腰掛けた。


 笑いが込み上げる。


「まさか」


 だが否定しきれない。


 彼女は、あの日も笑っていた。


 未来を知る者のように。


(私は……何を断じた?)


 証拠は揃っていた。


 証言もあった。


 だが決定的だったのは――


 空気だ。


 学園の空気。


 皆が、そう望んでいた。


 悪役令嬢の断罪を。


 彼もまた、その流れに乗った。


 王子として。


 正義として。


 けれど。


「……本当に、正義だったのか」


 問いは誰にも届かない。


 リディエルは、直接的な害を加えていなかった。


 冷たい態度。

 鋭い言葉。


 それだけだ。


 それを“罪”と呼んだのは――


 誰だ?


(私は、楽だったのではないか)


 彼女を悪役に据えることで、物語はわかりやすくなる。


 ヒロインは輝き、王子は正しく、国は安泰。


 単純な構図。


 だが現実は、単純ではない。


 机の引き出しを開ける。


 そこには、古い舞踏会の招待状。


 差出人の名は、リディエル。


 達筆で、無駄のない文面。


『お時間が許すなら、一曲』


 断った。


 政治的に不適切だと判断して。


 今思えば。


 それはただの、誘いだったのかもしれない。


「殿下」


 再びノック。


 今度は側近だ。


「学園より報告です。最近、レティシア様の周囲が静かになったと」


「静か?」


「以前ほどの注目がないようで」


 ライベルトは目を閉じる。


 当然だ。


 敵がいなければ、物語は盛り上がらない。


 ――敵。


 その言葉が胸に刺さる。


 彼女は本当に“敵”だったのか。


「……馬車を用意しろ」


「どちらへ」


 一瞬、迷う。


 王子としての義務。

 国の均衡。

 外聞。


 だが。


「辺境の港町だ」


「は?」


「視察だ。公式な、な」


 側近は驚きつつも頭を下げる。


「承知いたしました」


 一人になる。


 鼓動が早い。


 確認したい。


 断罪は正しかったのか。


 彼女は本当に、追放されるべき存在だったのか。


 それとも――


「……私は、間違えたのか」


 その答えは、王都にはない。


 ならば。


 探しに行くしかない。


 ライベルトは立ち上がる。


 玉座の間よりも重い決意を胸に。


 王子は初めて、自らの判断を疑った。


 それは後悔か。


 それとも。


 物語の、修正か。

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