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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第8話 第三島:海賊の島

 遠くからでもわかった。


 港に並ぶのは、いびつな帆船。

 帆には補修の跡、船体には古い傷。


「やめとけ」


 船乗りが低く言う。


「ここは元海賊の島だ。気性が荒い」


「“元”ですのね?」


「今は交易してるがな。腕っぷしは現役だ」


 リディエルは微笑んだ。


「でしたら問題ありませんわ」


「何がだ」


「交渉は、力のある相手とするものですもの」


 船が接岸すると、屈強な男たちがじろりと睨んだ。


 腕に古傷。

 耳に金輪。

 腰には剣。


「なんだ、嬢ちゃん」


 髭の男が鼻で笑う。


「観光か?」


「ええ。ついでに商談も」


 ざわ、と空気が揺れる。


「商談?」


「わたくし、王都の貴族でしてよ」


 その言葉に数人が吹き出す。


「帰れ帰れ。ここは舞踏会じゃねえ」


「存じておりますわ。だからこそ参りましたの」


 リディエルは一歩前へ出る。


 視線が刺さる。


 怖くないわけではない。


 けれど王都の視線もまた、鋭かった。


 あれに比べれば、こちらは単純だ。


「あなた方は、元海賊」


「だったらなんだ」


「海路に詳しい。航海技術もある。船も扱える」


「……だから?」


「王都は今、遠洋交易を広げたがっておりますの」


 男たちの表情がわずかに変わる。


「だが、腕のある船乗りが足りない」


「……」


「正式な契約で雇えば、略奪より安全で儲かりますわ」


 沈黙。


 風が帆を鳴らす。


 やがて、髭の男が笑った。


「信用できるかよ、貴族様」


「信用など不要ですわ」


「は?」


「条件を対等にすればよろしい」


 リディエルは指を立てる。


「前金は出さない。成果報酬制」


「ほう」


「代わりに、航路の独占権を保証する」


「独占?」


「一定期間、その海域はあなた方の管轄に」


 男たちの目が鋭くなる。


「裏切ったら?」


「王都の商会すべてがあなた方を敵に回しますわ」


「脅しか」


「契約です」


 即答。


 揺らがない。


 髭の男はじっと彼女を見る。


「怖くねえのか」


「怖いですわよ」


 あっさりと答える。


「ですが、怖い相手だからこそ、きちんと話すのです」


 笑う。


 優雅に。


 王都で鍛えられた笑み。


「力で従わせるのは簡単。ですが、誇りを守ったほうが長続きいたしますわ」


 沈黙。


 やがて、誰かが低く笑った。


「誇り、だとよ」


「久しぶりに聞いたな、その言葉」


 髭の男が腕を組む。


「嬢ちゃん、名は」


「リディエル」


「……いいだろう。話だけは聞く」


 周囲がざわつく。


「頭領!」


「黙れ。面白え」


 リディエルは小さく息を吐いた。


(第一段階、成功)


 その後は具体的な条件の擦り合わせ。


 航路の範囲。

 利益配分。

 罰則条項。


 男たちは荒いが、計算は早い。


 理屈が通れば納得する。


 最後に頭領が言った。


「一つ聞く」


「なんでしょう」


「なんでそこまでする。貴族の嬢ちゃんが」


 リディエルは少し考え、肩をすくめる。


「退屈しのぎですわ」


 男たちが爆笑する。


「正直だな!」


「王都は退屈でしてよ」


 それは嘘ではない。


 役割の中で生きるだけの日々。


 ここでは違う。


 自分の言葉で動かせる。


 交渉が成立すると、頭領は手を差し出した。


「契約成立だ、リディエル」


「ええ。良き航海を」


 握手。


 ごつごつした手。


 強い力。


 だが敵意はない。


 船へ戻る途中、船乗りが呆然と言う。


「本気でまとめやがった……」


「当然ですわ」


「何者だよ、あんた」


 リディエルは海を見た。


 荒々しく、広い。


「ただの旅人ですわ」


 第三島は喧騒に満ちている。


 怒鳴り声。

 笑い声。

 酒樽の音。


 静寂の修道島とは正反対。


 だが、どちらも悪くない。


 静かな場所も好き。


 騒がしい場所も嫌いではない。


 重要なのは――


 自分で選んでいること。


 船が出航する。


 港では元海賊たちが手を振っていた。


「裏切るなよ、嬢ちゃん!」


「そちらこそ!」


 リディエルは笑う。


 悪役令嬢の微笑みではない。


 交渉を終えた一人の人間の笑みだった。


 第三島制覇。


 そして彼女はまた一つ知る。


 敵対よりも、対話のほうが強いことを。

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