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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第5話 王都の違和感

玉座の間は、妙に静かだった。


 ――断罪は終わった。


 悪役令嬢リディエルは辺境へ追放された。

 物語は本来ならここから甘やかに転がり落ちるはずだった。


 正義は勝ち、悪は去り、王子とヒロインの距離は縮まる。


 そういう構図。


 そういう予定。


 だが。


「……最近、噂が減りましたね」


 側近がぽつりと呟いた。


 第一王子ライベルトは書類から顔を上げた。


「噂?」


「はい。以前は毎日のように“悪役令嬢の新たな嫌がらせ”が話題になっておりましたが……」


 今は静かです、と側近は続ける。


 静か。


 その言葉がやけに重い。


 王都の社交界は、常に何かを求めている。

 刺激。

 劇場。

 敵と味方。


 だが今は、舞台の中央が空席だ。


「平和なのは良いことだろう」


 ライベルトは淡々と言った。


 そう、良いことだ。


 彼は正しい判断を下した。

 王子として、国の秩序を守るために。


 ……そのはずだ。


 廊下を歩くと、令嬢たちの視線が一斉に集まる。


「殿下、ご機嫌よう」

「この前の断罪、さすがでございましたわ」


 称賛の声。


 だがどこか、熱が足りない。


 以前ならば。


 リディエルの名が出るたびに、空気はざわついた。

 怒りや嫉妬や興奮が混じっていた。


 今は、整いすぎている。


 整然とした称賛。


 無難な会話。


 安全な距離。


 ライベルトはふと、庭園を見下ろした。


 そこにレティシアの姿がある。


 数人の令嬢に囲まれ、柔らかく微笑んでいる。


 以前よりも穏やかだ。


 以前よりも……目立たない。


「最近は落ち着きましたね」


 側近が再び言う。


「レティシア嬢も、ずいぶん静かになられました」


「……そうか」


 ライベルトは視線を戻す。


 断罪前、レティシアは常に守られる存在だった。


 誰かが囁く。


「またリディエル様が……」


 そこから物語が始まる。


 慰め、怒り、正義。


 だが今は。


 守るべき敵がいない。


 レティシアは人気者だ。

 しかし、中心ではない。


 物語が動かない。


 その日の午後、ライベルトはレティシアを呼んだ。


「最近、困っていることはないか」


 王子としての問い。


 レティシアは少し考え、首を横に振った。


「いいえ。皆さま優しくしてくださいます」


 完璧な答え。


「……そうか」


 沈黙。


 風が薔薇を揺らす。


 以前ならばここで、何かがあった。


 陰口。

 挑発。

 視線の火花。


 今はない。


 レティシアが小さく言った。


「リディエル様、元気でしょうか」


 ライベルトの胸がわずかに揺れる。


「……なぜそう思う」


「その、あまり悲しんでいるように見えませんでしたから」


 あの時の笑顔。


 満面の。


「ありがとうございます、殿下」


 あれは感謝だったのか。


 皮肉だったのか。


 それとも――


「辺境は厳しい土地だ」


 ライベルトは言葉を切る。


「きっと後悔している」


 そうであってほしい、と心のどこかで思う。


 だが思い出す。


 彼女は一度も振り返らなかった。


 泣かなかった。


 助けを求めなかった。


 あれは、敗者の背中ではなかった。


 執務室へ戻る。


 机の上は整っている。


 本棚もきっちり揃っている。


(五ミリずつずらす、と言っていたな……)


 思わず視線を向ける。


 もちろん、何も変わっていない。


 だがその冗談を思い出してしまう自分がいる。


 ライベルトは椅子に深く腰掛けた。


 王都は平和だ。


 問題はない。


 秩序は守られている。


 なのに。


 どこか、色が薄い。


 まるで主役がいない舞台のように。


「殿下?」


 側近が呼ぶ。


 ライベルトは顔を上げる。


「……いや、何でもない」


 何でもないはずだ。


 断罪は正しかった。


 悪役は退場した。


 物語は終わった。


 ――本当に?


 窓の外に目を向ける。


 遠く、見えない海の方角。


 今頃あの悪役令嬢は、何をしているのか。


 王都には違和感だけが残った。


 静かすぎる、という違和感が。

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