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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第23話 王都召喚命令

 白い帆の伝令船は、逃げ場を塞ぐように正面から近づいてきた。


 海は静かだというのに、空気だけが張りつめている。


「……来ましたわね」


 リディエルが呟く。


 船同士が横付けされ、整然とした足取りで使者が乗り込んでくる。


 王家の紋章。


 そして、その背後に控える近衛騎士。


 今度は貴族連名ではない。


 王の名による正式な命だ。


 甲板に三人が並ぶ。


 風が強く吹き抜ける。


「王太子ライベルト殿下」


 使者が深く一礼する。


「国王陛下より、正式な召喚命令です」


 巻物が差し出される。


 赤い封蝋。


 重い、国家の印。


 ライベルトは受け取り、ゆっくりと開いた。


 低く、読み上げる。


「王太子は速やかに王都へ帰還せよ。随行者も同様に――」


 一瞬、言葉が止まる。


「元公爵令嬢リディエルの身柄を確保の上、同行させよ」


 静寂。


 レティシアが息を呑む。


「確保……?」


 使者は淡々としている。


「拒否は許されません。これは命令です」


 視線がリディエルに向けられる。


「あなたは王都へ戻るのです」


 ――物語が、呼んでいる。


 悪役令嬢は舞台に戻れ、と。


 予定調和の破滅へ。


 リディエルは数秒間、何も言わなかった。


 ただ、海を見つめる。


 波は穏やかだ。


 だが見えない流れが、確かに彼女を引き戻そうとしている。


「理由は?」


 静かな声。


「王都に混乱をもたらしているため」


 使者は答える。


「あなたの存在が、王太子殿下の立場を不安定にしている」


「英雄視されているからですか?」


 火山島の件はすでに広まっているのだろう。


 使者は否定しない。


「民は単純です。悪役が英雄になるなど、物語が崩壊する」


「物語」


 リディエルは繰り返す。


「王都は、まだそれを信じているのですね」


「秩序のためです」


 冷たい答え。


「悪役は悪役らしく。王子は王子らしく。ヒロインは王妃らしく」


 レティシアが一歩前に出る。


「私は、その“らしさ”を望んでいません」


 使者の眉が動く。


「これは国家の問題です」


「人の問題です」


 静かだが強い声。


 ライベルトが巻物を握り締める。


「私が拒否したら?」


 甲板の空気が凍る。


「殿下」


 使者の声が低くなる。


「それは反逆と見なされます」


 近衛騎士の手が剣にかかる。


 緊張。


 だが。


「やめてくださいな」


 リディエルが軽く言った。


 全員の視線が集まる。


「剣を抜くほどの話ではございませんわ」


 微笑む。


「わたくしは逃亡者ではありませんもの」


「では、同行するのですね?」


 使者の声にわずかな安堵。


 リディエルは少しだけ考える。


 王都。


 断罪の舞台。


 笑いものにされた広場。


 だが今は違う。


 悪役ではない。


 ヒーローでもない。


 ただの旅人。


「……戻れば、また悪役に戻されますわよ?」


 ライベルトに問いかける。


「分かっている」


「それでも?」


 彼は迷わない。


「逃げ続けるだけでは終わらない」


 静かな決意。


「物語が私たちを呼ぶなら、書き換えに行けばいい」


 一瞬、風が止まったように感じた。


 使者が目を細める。


「殿下、それは――」


「帰還する」


 はっきりと言う。


「だが」


 リディエルの手を取る。


「彼女を罪人としてではなく、私の客人として連れて行く」


 ざわめき。


「無礼です!」


「命令に条件は――」


「これは私の決定だ」


 王子の声。


 初めて、役割ではなく意思で発せられた響き。


 使者は沈黙する。


 やがて、深く頭を下げた。


「……承知しました。帰還の準備を」


 伝令船が離れていく。


 甲板に残る三人。


「戻るのですね」


 レティシアが呟く。


「ええ」


 リディエルは空を見上げる。


 遠い王都の空を思い浮かべる。


「物語が呼ぶのなら」


 小さく笑う。


「一度くらい、顔を出して差し上げますわ」


 怖くないわけではない。


 だが逃げないと決めた。


 悪役に戻るためではない。


 終わらせるために。


 海は変わらず穏やかだ。


 だが航路は王都へと向き直る。


 物語は彼女を舞台に引き戻そうとする。


 ならば。


 その舞台ごと、塗り替えてしまえばいい。


 船は方向を変える。


 島巡りの旅は一時中断。


 次なる舞台は、王都。


 かつて断罪が行われたあの場所へ。


 物語と正面から向き合うために。

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