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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第22話 王子の決断

火山島を離れて三日。


 海は穏やかだったが、ライベルトの胸中は荒れていた。


 甲板の端に立ち、水平線を見つめる。


 潮風が髪を揺らす。


「難しい顔ですわね」


 背後から声。


 振り返らずとも分かる。


「……少しな」


 リディエルは隣に立った。


「火山島の件、王都に伝われば騒ぎになりますわね」


「すでに伝わっているだろう」


 王都の貴族たちは黙っていない。


 悪役令嬢が英雄視され、王太子が共に行動している。


 物語は崩れ、秩序は揺らぐ。


「近いうちに正式な召還が来る」


 低く告げる。


「王都へ戻れ、と?」


「ああ」


 そして、選べと言われる。


 王位か。


 彼女との旅か。


 リディエルは少しだけ考える素振りを見せた。


「でしたら戻られます?」


 軽い問い。


 だが核心。


「……分からない」


 正直な答え。


 王位は責務だ。


 生まれたときから背負ってきたもの。


 国を守る義務。


 民の期待。


 だが。


(彼女を失う未来は)


 想像するだけで胸が締めつけられる。


「殿下は、王になりたいのですか?」


 静かな声。


「それが役目だ」


「望みではなく?」


 言葉に詰まる。


 望み。


 自分の。


 考えたことがあっただろうか。


「私は……」


 海を見つめる。


 王都では常に囲まれていた。


 期待と、評価と、視線に。


 だが今は違う。


 潮の匂い。


 笑い声。


 島民の感謝。


 砂まみれの城。


 嵐の中で並んだ背中。


 火山島で必死に走る彼女の姿。


「王である前に」


 ぽつりと呟く。


「一人の人間でいたいと思った」


 初めて口にした本音。


 リディエルは驚かない。


「素敵ですわ」


「無責任だ」


「いいえ」


 きっぱりと否定する。


「王であることと、人間であることは両立できますもの」


「簡単に言うな」


「簡単ではありませんわ」


 彼女は海を見つめたまま言う。


「わたくしは悪役をやめました。レティシア様はヒロインをやめました」


 一拍。


「でしたら殿下も、“王子”をやめてみればよろしいのでは?」


「やめられるものか」


「完全にではなくても」


 少しだけ微笑む。


「肩書きを外した自分で、選んでみてくださいな」


 選ぶ。


 王位か。


 彼女か。


 ――本当に、二択なのか?


「もし私が王位を捨てたら」


 喉が乾く。


「後悔しないか?」


 その問いは、彼女への確認であり、自分への問いでもあった。


 リディエルはきょとんとする。


「なぜわたくしに聞くのです?」


「お前が原因だ」


「光栄ですわ」


 くすりと笑う。


 そして真顔になる。


「殿下」


「何だ」


「わたくしは、殿下に何かを捨ててほしいとは思いません」


 はっきりと言う。


「王位も、責務も、国も」


 視線を合わせる。


「わたくしを理由にしないでくださいませ」


 胸を突かれたようだった。


「選ぶのなら、殿下自身の望みで」


 それは拒絶ではない。


 依存の否定。


 対等であるための言葉。


「わたくしは旅を続けます」


 穏やかに。


「殿下が王になろうと、ならなかろうと」


 揺るがない。


「ですが」


 ほんの少しだけ視線を逸らす。


「一緒に来てくださるなら、嬉しいですわ」


 その一言が、すべてを揺らす。


 王位より重い言葉。


 レティシアが甲板の向こうから二人を見ていた。


 静かに近づく。


「王都からの伝令船が見えます」


 遠く、白い帆。


 いずれ来ると思っていた瞬間。


 決断の時が近づいている。


 ライベルトは目を閉じる。


 王として生きる未来。


 旅人として生きる未来。


 どちらも正しい。


 どちらも困難。


 だが。


(選ぶのは私だ)


 目を開ける。


 潮風が吹き抜ける。


 隣には、悪役をやめた少女。


 少し離れて、ヒロインを再定義した少女。


 そして自分。


 王子という役割を問い直す男。


 伝令船は近づいてくる。


 決断はまだ口にされない。


 だがその胸の奥で、確かに何かが固まり始めていた。


 王子の決断は、もうすぐ海に投げられる。

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