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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第21話 第六島:火山島

 第六島は、遠目からでも異様だった。


 空に向かって立ちのぼる、灰色の煙。


 島の中央にそびえる黒い山。


「あれは……」


 レティシアが不安げに呟く。


「火山ですわね」


 リディエルは落ち着いていた。


 だが船が近づくにつれ、空気が変わる。


 硫黄の匂い。


 地面の微かな震え。


 港は騒然としていた。


「山が鳴ってるぞ!」


「早く荷をまとめろ!」


 島民たちの顔には焦りが浮かぶ。


 ライベルトがすぐに状況を聞き出す。


「噴火の兆候が出ているらしい。小規模だが、いつ大きくなるか分からないと」


「船は?」


「足りないそうだ」


 避難用の船が圧倒的に不足している。


 島民は数百人。


 出航できる船は半分にも満たない。


 レティシアの顔が青ざめる。


「そんな……」


 そのとき、地面が大きく揺れた。


 ゴォォン、と腹の底に響く音。


 山頂から赤い光がちらつく。


 悲鳴。


 混乱。


 誰かが叫ぶ。


「もう間に合わない!」


 ――その瞬間。


「落ち着きなさい!」


 澄んだ声が響いた。


 リディエルだった。


 港の木箱の上に立ち、声を張る。


「全員が一斉に動けば混乱しますわ! 子どもと高齢者を優先! 若い方は荷の運搬を手伝って!」


 自然と人々の視線が集まる。


 その声には、妙な説得力があった。


「船は何隻ありますの?」


「五隻だ!」


「定員は?」


「一隻四十人ほど!」


「では三回往復すれば足りますわね」


「そんな時間が――」


 再び揺れ。


 灰がぱらぱらと降る。


 リディエルは一瞬だけ山を見上げ、計算するように目を細めた。


「殿下」


「何だ」


「沖に停泊している我々の船も使いますわよ」


「あれは小型だ」


「往復回数を増やせばよろしい」


 即断即決。


「レティシア様、子どもたちを集めてくださいませ。泣いている子を優先に」


「はい!」


 二人が動く。


 ライベルトは一瞬、呆然とした。


(指示を出しているのは……彼女だ)


 かつて断罪された“悪役令嬢”。


 今は、誰よりも前に立っている。


「殿下!」


 呼ばれて我に返る。


「若い男性を集めてくださいな。桟橋の補強が必要ですわ。揺れで壊れたら終わりです」


「……分かった!」


 命令ではない。


 だが従いたくなる。


 島民たちも自然と動き始めていた。


「お嬢様の言う通りにしろ!」


「急げ!」


 混乱は、統率へ変わる。


 再び大きな轟音。


 山頂から火柱が上がる。


「リディエル様!」


 レティシアが叫ぶ。


 港の端に取り残された老人がいる。


 崩れた荷の下敷きになって動けない。


 周囲は灰で視界が悪い。


 リディエルは迷わなかった。


 駆け出す。


「危ない!」


 ライベルトの声。


 だが彼女は止まらない。


 熱風が頬を打つ。


 息が苦しい。


 それでも。


「大丈夫ですわ」


 老人の手を握る。


「立てますか?」


「……すまん、足が」


 迷う時間はない。


 リディエルは周囲を見回し、近くの板をてこ代わりにして荷を持ち上げる。


 力任せではない。


 冷静な判断。


「今ですわ!」


 駆けつけたライベルトと共に老人を引き出す。


 直後、背後で爆ぜる音。


 地面が崩れる。


 間一髪。


 港へ戻ると、島民たちが歓声を上げた。


「助かった……!」


「お嬢様が!」


 リディエルは肩で息をしながらも、にやりと笑う。


「まだ終わっておりませんわよ!」


 その姿は、もはや悪役ではない。


 ヒロインでもない。


 誰よりも前に立ち、誰よりも早く動く。


 ただの旅人。


 だが――


(ヒーローだ)


 ライベルトは確信する。


 最後の船が出航する。


 島を離れた直後、山が大きく噴き上がった。


 赤い光が夜空を染める。


 だが、港は空だ。


 全員が避難できた。


 甲板に座り込んだリディエルが、小さく息を吐く。


「……間に合いましたわね」


 レティシアがその手を握る。


「はい」


 ライベルトが近づく。


「無茶をするな」


「計算済みですわ」


「そういう問題ではない」


 だが声は優しい。


 島民たちが口々に礼を言う。


「命の恩人だ」


「本当にありがとう」


 リディエルは照れたように目を逸らす。


「わたくしは島を制覇しただけですわ」


「制覇の意味が変わっているぞ」


「進化です」


 強がりの笑顔。


 しかしその瞳は、どこか誇らしげだった。


 悪役令嬢は拒絶した。


 ヒロインは再定義された。


 そして今。


 第六島、火山島。


 彼女は誰かに与えられた役割ではなく、自分で選んだ行動で人を救った。


 本当のヒーローは、名乗らない。


 ただ次の航路を見つめる。


「さて」


 灰に染まる空の向こうを指差す。


「次の島ですわよ」


 船は進む。


 火山の赤を背に、自由な旅人たちは新たな海へと漕ぎ出すのだった。

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