表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/36

第18話 物語の修正力

 第五島を発った翌朝。


 港町に戻った船着き場には、不釣り合いな一団が立っていた。


 揃いの黒い外套。

 無駄のない動き。

 そして、いかにも「王都の匂い」がする整然とした空気。


「……殿下」


 リディエルが小さく呟く。


 ライベルトも表情を引き締めた。


「来たか」


 先頭に立つ男が一礼する。


「王太子殿下。ご無事で何より」


 その声音は丁寧だが、目は笑っていない。


「何の用だ」


「王都よりの正式な通達です」


 封蝋付きの文書が差し出される。


 赤い紋章。


 王家ではない。

 有力貴族連名の印。


 ライベルトは眉をひそめた。


「……読み上げろ」


 男はわずかに口角を上げた。


「元公爵令嬢リディエルは、王都追放後もなお王太子殿下へ接触を続け、影響力を及ぼしている疑いがある。よって――」


 レティシアが息を呑む。


「王都への帰還を禁じ、監視下に置くこと」


 静寂が落ちる。


 リディエルは、ぱちりと瞬きをした。


「まあ」


 他人事のような声。


「物騒ですわね」


 男は続ける。


「さらに、殿下がこのまま彼女と行動を共にする場合、王位継承権について再考する必要があるとのこと」


 圧力。


 露骨な。


 レティシアの顔が青ざめる。


「そんな……」


 ライベルトの拳が握られる。


「……ふざけるな」


「殿下。王都は混乱しております。悪役令嬢が大人しく辺境で慎ましくしていれば、物語は美しく終わったのです」


 男は言った。


「しかし今の彼女は違う。楽しげに旅をし、殿下を振り回し、島民に慕われている」


 冷たい視線がリディエルへ向けられる。


「それでは困るのです」


 リディエルは首を傾げた。


「困る?」


「“悪役”が幸福であっては、困るのですよ」


 空気が凍る。


 レティシアが震える声で言う。


「……誰が、そんなことを決めたのですか」


「王都の秩序です」


 男は淡々と答えた。


「物語には役割がある。貴女は光。彼女は影。それで均衡が取れていた」


 リディエルは、ふっと笑った。


「まあ」


 楽しそうに。


「わたくし、配役変更は受け付けておりませんの」


 男の眉が動く。


「ご自覚がないようだ。貴女が存在する限り、殿下の評判は揺らぐ。王妃候補であるレティシア様の物語も濁る」


 レティシアが顔を上げる。


「私の物語、ですか?」


「ええ。清らかで健気なヒロインが、悪役令嬢を乗り越え、王子と結ばれる――それが民の望む形」


 沈黙。


 レティシアはゆっくりと首を横に振った。


「……私は、誰かを踏み台にした覚えはありません」


 その声は静かだが、強い。


 男は視線を逸らさない。


「ですが、構図というものは自然に出来上がるものです」


「自然ではありませんわ」


 リディエルが口を挟む。


「今、あなたが必死に“戻そう”としているでしょう?」


 にこり、と微笑む。


「それを、修正力とお呼びになるのかしら」


 男の目が細くなる。


「貴女は危険だ」


「光栄ですわ」


「殿下をお返しいただく」


 その瞬間、護衛たちが一歩前に出た。


 緊張が走る。


 だが。


「断る」


 低い声。


 ライベルトだった。


 全員が息を呑む。


「私は自分の意思でここにいる」


「殿下、それは――」


「王位継承を盾に脅すつもりなら好きにしろ」


 強く、言い切る。


「だが、彼女を悪役に戻すための道具にはならない」


 リディエルが目を丸くする。


「殿下……?」


 男は一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに冷静さを取り戻す。


「後悔なさいませぬよう」


「後悔は、もうした」


 静かな言葉。


 あの日の断罪。


 勢いで下した判断。


 物語に流された選択。


「今度は、自分で決める」


 沈黙。


 潮風が吹き抜ける。


 男は深く一礼した。


「……本日は引きます。しかし王都は諦めません」


 一団は去っていく。


 緊張が解ける。


 レティシアが小さく息を吐く。


「怖かった……」


「申し訳ありません、巻き込んで」


 リディエルが言う。


 だがその表情に、怯えはない。


「怖くありませんの?」


 レティシアが問う。


「少しは」


 リディエルは正直に答える。


「ですが、わたくしは島を制覇するのに忙しいのですわ」


 きっぱりと。


「悪役に戻る暇はございません」


 ライベルトが思わず笑う。


「強いな」


「当たり前ですわ」


 胸を張る。


「だってこれは、わたくしの物語ですもの」


 王都が望む筋書き。


 整えられた役割。


 押し戻そうとする力。


 それでも。


 波は止まらない。


 船は進む。


 悪役令嬢は、笑って地図を広げる。


「さて、次の島ですわよ」


 物語の修正力など知らぬ顔で。


 彼女は、今日も自分の航路を選ぶのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ