表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/36

第14話 第四島:嵐の孤島

 空が、急に低くなった。


 さきほどまでの青は消え、鉛色の雲が海を覆う。


「嫌な風ですわね」


 リディエルが空を見上げる。


 帆船はすでに第四の島へ接近していた。

 岩肌が剥き出しの、小さな孤島。


「引き返すか?」


 ライベルトが問う。


 船乗りが首を振る。


「今から沖に出るほうが危ねえ。島影に入ったほうがまだましだ」


 その瞬間、突風。


 帆が激しく鳴る。


「帆を畳め!」


 怒号。


 雨粒が叩きつけるように落ちてきた。


 船が大きく傾く。


「……っ」


 ライベルトは手すりを掴む。


 酔いよりも、純粋な恐怖。


 自然は、王都の秩序など気にも留めない。


「殿下、下へ!」


 リディエルの声。


 だが次の瞬間、船体が岩に擦れた。


 嫌な音。


「座礁しかけてる!」


 船乗りの叫び。


 どうにか浅瀬へ押し込み、錨を打つ。


 完全な停泊ではない。

 嵐が抜けるまで、持ちこたえるしかない。


 島へ渡るしかなかった。


 


 ――


 


 岩だらけの岸。


 容赦ない雨。


 風が身体を揺らす。


 簡易の荷を運び出し、岩陰へ避難する。


「洞窟がある!」


 誰かが叫ぶ。


 小さな天然の洞窟。


 全員が入れる広さはない。


「船はどうする」


 ライベルトが問う。


「帆柱がもたねえかもしれねえ」


 判断を迫られる。


 王子として命じるべきか。


 だがここは王都ではない。


 専門は彼らだ。


「あなた、帆の固定具、わかりますわね」


 リディエルが船乗りに向く。


「おう」


「なら殿下と一緒に補強を」


「殿下が?」


 驚きの声。


「人手は多いほうがよろしいでしょう」


 彼女は迷わない。


「殿下、できますか」


 試すような視線。


 ライベルトは頷く。


「指示をくれ」


 風雨の中、再び船へ戻る。


 足場は滑る。


「そこを押さえろ!」


「こっちだ!」


 荒々しい声。


 王子の手が、濡れた縄を掴む。


 重い。


 滑る。


 だが離さない。


「力任せじゃなく、風に合わせろ!」


 船乗りの指示。


 言われた通り、動きを合わせる。


 嵐は暴力だ。


 だが、隙はある。


「今だ!」


 固定具を締める。


 帆柱がわずかに安定する。


 その間にも、リディエルは岸で人員をまとめていた。


「荷は奥へ! 水に濡らしてはいけないものから!」


 的確な判断。


 声は風に負けない。


 命令口調だが、不思議と反発がない。


 嵐の中、彼女の金髪が濡れて張り付く。


 それでも一歩も引かない。


(強い……)


 王都で見ていた姿は、何だったのか。


 やがて雷鳴。


 全員が洞窟へ退避する。


 息が荒い。


 衣服はずぶ濡れ。


 だが船は持ちこたえた。


 暗い洞窟の中、雨音が反響する。


「……無事、か」


 ライベルトが問う。


「今のところは」


 リディエルが答える。


 二人の視線が合う。


 初めて、同じ状況を乗り越えた目。


「指示が的確だった」


 ライベルトが言う。


「殿下も、よく動かれましたわ」


「命じるだけでは、足りなかった」


 王都では命令で済む。


 だがここでは、自分の手が必要だった。


 リディエルは小さく笑う。


「共闘、ですわね」


「共闘?」


「ええ。悪役令嬢と王子の」


 冗談めかしている。


 だがどこか、誇らしげ。


「もう悪役ではないだろう」


 思わず口に出る。


 彼女は目を瞬く。


「そうでしょうか」


「少なくとも、今日のあなたは違う」


 嵐の音が少し弱まる。


 沈黙。


 だが気まずくはない。


「殿下」


「何だ」


「嵐は嫌いですか」


「好きな者はいないだろう」


「ですが、晴れだけでは船は進みませんの」


 外を見やる。


「風があるから、進める」


 嵐は試練だ。


 だが、同時に動かす力。


 洞窟の入口から、わずかに光が差す。


 雨が弱まってきた。


「……抜けそうだな」


「ええ」


 立ち上がる二人。


 濡れた衣服。


 泥のついた手。


 王都では決して並ばなかった姿。


 嵐の孤島で、彼らは初めて並んで戦った。


 命令と反発ではなく。


 断罪と被告でもなく。


 ただ、生き延びるために。


 洞窟の外へ出る。


 雲の切れ間から、光。


 荒れた海面がきらりと光る。


 リディエルが息を吐く。


「生きておりますわね」


「ああ」


 単純な確認。


 だが重い。


 嵐は去りつつある。


 そして二人の間にあった対立もまた、少しだけ形を変えていた。


 初めての共闘。


 それは断罪よりも強く、確かな記憶として刻まれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ