番外02 ゴルダさんといっしょ4
さて、ゴルダさんのお休みの日。
待っていた森の中への遠征だ。
いつもの採取場所までは普通におしゃべりしながら歩いた。
そうしていざ、森へ入るところで注意を受けた。
「ああいった茂みの先へ進むときは、そこに魔獣が潜んでいないか注意しろ」
少し先の茂みに向けて、ゴルダさんが剣を向ける。
私はそっとゴルダさんに続いて、足音を忍ばせて歩く。
茂みにさしかったとき、何かが飛び出してきた。
ゴルダさんの剣がさっと切り伏せる。
倒れていたのは、アライグマくらいの大きさの魔獣。
「茂みに隠れて様子を窺い、不意をついてくることが多いんだ」
「ゴルダさん、これがいるのわかっていたの?」
「経験だな。ああいったところには、大抵いる」
なるほど。やはりひとりだと危なかった。
注意するといっても、どこをどう注意したらいいのかわからないと、無駄に疲れるだけだ。
「浅い場所だとまだ大丈夫だが、蛇型の魔獣なんかは木の上に潜む。あと鳥形は上空からいきなり襲ってくる」
うん。聞いてもどこをどう注意したらいいのかわからない。
「オレの元仲間は、魔法で魔獣のいる場所を察知していたが、そういうのは使えんのか?」
ゴルダさんの言葉に、私はしばし考えた。
周囲に魔力を広げてサーチするとかはどうだろう。
ぽわんと周囲に広げて、そこに引っかかったものを知らせるとか。
でも魔獣の気配って、どう見分けるのかな。
魔力で察知できるのか、生き物すべてを察知するのか。
なんとなく、ぽわんと魔力の膜を広げる感覚で使ってみた。
すぐ隣の大きな存在はゴルダさん。
なるほどこんな感じか。
おっと、少し離れた木の根元に、何かが潜んでいる。
あれは魔獣なのかな。
「ゴルダさん、あそこ、何かいる?」
私の言葉にゴルダさんが向かうと、さっきのアライグマみたいな魔獣がいた。
ずんぐりした見た目に反してすばしこく、噛みつく力が強いそうだ。
こまめに魔力サーチをしながら進むことになった。
魔力の減り具合が心配だけど、それで様子をつかんだ方がいいからと。
森の中を少し進むと、開けた場所に出た。
そこは第一採取ポイントだという。
「うわあ、青澄花が咲いてる!」
上級ポーションの材料だ。
月下草もある。いい場所だ。
「王都の森は広いからな。最初の段階は、ここらあたりまでか。泉の方にも色々あるから、そちらにも足を伸ばすぞ」
私が希望した、上級ポーションのための採取場所を教えてくれているんだ。
「もっと奥へ行くと、色々と出る魔獣の対策が必要だからな」
「この森、お城の管理する森にもつながっているって、本当ですか?」
「そう聞くな。まあ結界で阻まれて城の森には入れんと聞くが」
お城とつながっているのならかなりの広さだと、頭に地図を思い浮かべる。
なるほど。奥へ進むにしても、段階を踏むのは確かに必要だ。
「あとは、もう少し先の沼地も行くか。あそこには万能解毒薬の材料もあると聞く。その間にキノコなんかもあるし、当面はそのあたりで充分だろう」
ゴルダさん。私が希望しそうな場所を把握してくださっている。
ありがたい。
「ついでに沼ガエル相手に討伐練習をしておくか。群れの魔獣を相手にする場合の練習に、あそこはちょうどいいポイントだ」
そうして私は、攻撃魔法のスパルタ特訓を受ける羽目になった。
「魔法で対処できん場合は、ちゃんと短剣を使え!」
「ええ、待……あああああっ!」
言われても咄嗟に体は動かない。
私に接近した沼ガエルは、ゴルダさんが斬ってくれる。
「この沼ガエルをどうにかできない間は、奥へ行くのは禁止だ」
「うはあ、はい!」
次から次へと飛び出す沼ガエル。
接近した獲物を集団で沼に引きずり込み、溺れさせてから食べるのだという。
つまりガッツリ肉食だ。しかも大物狙いだ。
異世界のカエル、怖い。
足下に向けて鉄砲もどきの石つぶて。
右に左に、カエルの眉間を狙う。
ちなみに毒をもっていて、その毒袋が万能解毒薬の材料になる。
しばらくすると、カエルたちの攻撃が一時止まった。
倒した獲物を空間魔法で回収して、もう帰ろうとゴルダさんの手を引いた。
ちょっと、態勢を整えてから再挑戦でないと、このままはツライ。
ゴルダさんは意外そうな顔をしたあと、すぐに頷いて二人で沼地を離れた。
サーチ魔法で安全確認した茂みを抜け、ひと息つく。
「ゴルダさん、厳しい」
「これが冒険者の現実だ。嫌なら森の奥は目指すな。まあ、しっかり引き際を見極められるのは、いいことだ」
なるほど。ゴルダさんは私に現実を教えたいのか。
進むも引くも私次第。
上を目指すなら、厳しいとか文句を言っていられない。
乗り越えなければならない壁だ。
ただし無理は禁物。命に関わるからだ。
「それよりティナ。それは空間魔法か」
ゴルダさんに言われて、私はカエルの回収で無意識に空間魔法を使ったことに気づいた。
頷くと、ゴルダさんは頭の痛そうな顔になる。
「本当にお前は……人前で使うなよ。珍しい魔法だ」
「ゴルダさんは知っているの?」
「昔の仲間が使っていたからな。ずいぶん助けられたし、便利な魔法だ」
それは、注意が必要なほど珍しい魔法じゃないのでは?
そう思った私を見透かしたみたいに、ゴルダさんは厳しい顔を向ける。
「奴はある種の天才だ。冒険者の中でもトップ争いが出来る実力ある魔法士だ」
なるほど。どうやらすごい人らしい。
じゃあマーベルン先生もすごい人なのかな。
「ギルドで初めて会ったときにおかしいと思ったんだ。ポーションを鍋で出しただろう」
あのときから、もしやと思っていたそうだ。
「空間魔法を知らない連中にはわからないだろうが。まあ、今までうまく隠していたのなら、今後もオレ以外にはちゃんと注意しろよ」
私が素直に頷くと、ゴルダさんはまだ心配そうに言葉を重ねる。
「あまりにも有能だと、変な連中に目をつけられて厄介なんだ。お前はまだ子供だ。トラブルに巻き込まれないようにした方がいい」
心配の理由をきちんと言われて、今度はしっかりと頷いた。
さて、今のカエルとの戦闘でお腹が減った。
昨日張り切って作ったお弁当を空間魔法から取り出す。
「お弁当とか言っていたやつか」
私の雰囲気と、包んでいる葉っぱからお昼ご飯だとゴルダさんも理解した。
差し出された手にゴルダさん用の大きなお弁当を乗せる。
「待て。この包み、温かくないか?」
「私の空間魔法は時間停止なんです。作りたてですよ」
ゴルダさんはまた頭が痛そうな顔になった。
「本当に知られないようにしろよ。作りたての食事を簡単に持ち運べるとか、とんでもなく便利だからな。ちなみにオレの元仲間は、時間停止は出来なかった」
おっと、本当に珍しい魔法なんだ。
え、じゃあマーベルン先生はその人よりすごいの?
お弁当はサンドイッチとおかずだ。
残念ながらお米は見つかっていないので、おにぎりはない。
いつか市を隅々まで回って見つけようと思っている。
「おっ、この茶色い肉、うまいな!」
ゴルダさんが唐揚げに反応した。
そうだろう、そうだろう。頑張って下味もつけて作ったんだ。
ちなみに一角ウサギのお肉を使った。
鶏肉にすごく似た味だったからね。
サンドイッチも、卵焼きだって美味しく出来たと思う。
「おお、こっちも美味い。お前、すごいな!」
ふふふふふ、ゴルダさんの胃袋を掴んだぜ。
こっちの食材の癖をつかめば、私もこのくらいは作れるんだ。
「このあいだ、あれだけマズイ飯を作ったとは思えないな」
「あれは、素材が悪かったの!」
つい数日前の失敗を、ゴルダさんが口にした。
ベーコンみたいな干し肉があったから、普通に野菜と炒めたんだ。
そうしたら、野菜がすっごくマズくなった。
あとからゴルダさんが、あのお肉は単独調理向きだと言われた。
お野菜に独特の臭みがうつってしまうんだとか。
早く教えといてよオオオオーっ!
二人でマズイマズイと言いながら食べる羽目になった。
食材はもったいないし、体に害はないので、お残しは禁止なのだ。
でもゴルダさん、私の倍は食べてくれたから、文句は言えない。
マズイ食事の記憶はさておき、お弁当はとても美味しく出来ていた。
二人で大満足の昼食を終え、もう一度カエル討伐に挑戦。
そのあとはゴルダさん最後のお勧め採取ポイント、泉へ行った。
泉にもいくつか、本で見た素材が生えていたので採取。
沼地のような危険はなく、茂みに潜む魔獣対策をすればいいそうだ。
そうして帰ろうかという頃だ。
「人の声が聞こえるな」
ゴルダさんの眉が寄った。
森の中で、あまり大きな声は出すものではないそうだ。
魔獣を引き寄せてしまうことがあるから。
「行ってみよう。オレから離れるなよ」
駆けつけた場所には大きな魔獣がいた。
大型の熊みたいなやつだ。
立ち上がって威嚇する状態で、ゴルダさんの三倍ほどの大きさがある。
「森の奥から連れてきちまったのか。厄介な」
追われて逃げるような冒険者たちがいる。
戦闘中に逃げて、追いかけてきた魔獣が一緒に来てしまったようだ。
「この辺にいないはずの魔獣を放置するとまずい。討伐しとかねえとな」
ゴルダさんは苦い顔で口にする。
「ここらはまだ低ランク冒険者が来る場所だ。高ランク魔獣と鉢合わせするはずがない場所にあんなのがいたら、大変なことになる」
なるほどと私も頷いた。
このあたりは、ようやく攻撃魔法を覚えた私が連れてこられるような場所だ。
あんな化け物がいたら、安心して採取できない。
まず私は自分で出来ることをしようと、血だらけで倒れている人にポーションをぶっかけた。
私の作ったポーションは残念ながら大怪我には効かない。
でも大量にかければ、ある程度の効果は期待できる。
鍋ごとぶっかけたので、その人は呻いて痛そうながらも起き上がった。
とはいえ傷がちゃんと塞がったわけではなさそうだ。
「無理をするな。そのまま転がっていろ」
「あ、ゴルダさん!」
その冒険者はゴルダさんのことを知っていたようだ。
「お、おれたち魔獣から逃げたら、追いかけられて、こんなところまで連れてきてしまって」
「すみません! なんとかしたいけど、どうすりゃいいのか」
冒険者たちがゴルダさんを頼る。
頷いたゴルダさんは、覚悟を決めたように前に出て剣を構えた。
「ギルドに助けを走らせるには、初心者がいつ来るかわからない場所に近づきすぎたな。ここで仕留めるぞ」
次で番外2は終了予定。明日か明後日の更新です。




