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番外02 ゴルダさんといっしょ3


「最近、必須のいろんなポーションが潤沢になってきたな。解毒薬や麻痺解除薬なんかもティナが作ってくれているんだろう」


 夕食のとき、ゴルダさんからそう声をかけられて私は胸を張った。

「解毒薬と麻痺解除薬は失敗なく作れるようになったよ!」


 冒険者ギルドで違和感がないように、私は言葉の癖を直している。

 ゴルダさんから丁寧過ぎて、変な注目をされるから気をつけろと言われた。


 周囲の言葉を聞くと、なるほど。

 窓口業務のマリアさん並に丁寧な言葉になっていた。


 使用人の言葉遣いを真似たけれど、それでも冒険者たちと比べれば丁寧なんだ。


 私が砕けた言葉を使うようになったことで、ゴルダさんとの距離も縮まった。

 何かと頭を撫でてくれるようになった。


 ただし、髪をぐしゃぐしゃにされることがあるので、その点は注意をしている。




「熱冷ましと痛み止めも作れるようになったけど、あれも売れるのかなあ」

 冒険者が使うポーション類以外に、一般的な薬も作ってみた。

 あれはどこに売ればいいのか。


「冒険者ギルドでいったん買い取りして、商店に卸すこともできる。熱冷ましや痛み止めも大事な薬だが、品質にばらつきがあるからな。冒険者ギルドで品質チェックして買い取りしたものは、喜んで買ってもらえる」

「じゃあ明日にでもマリアさんに言ってみるね」


 ちなみにポーションは魔法薬だけど、病気の薬は漢方薬みたいなものだ。

 魔力も少し使うけれど、ポーションみたいに劇的な効果はない。


 この世界、病気に対してはまだまだ治療方法が難しい。

 あとポーションも万能ではない。

 怪我をしてすぐに使えば治るけれど、時間が経った怪我は治らない。


 解毒薬も簡単な毒だけで、複雑な毒物にはもっと上質の魔法薬が必要だ。




「色々なものを作れるようになってきたから、そろそろ森のもっと奥にも行ってみたいなあ」


 採取してポーションを作るにあたり、ゴルダさんからは森の入り口付近で充分だろうと、採取ポイントを教えてもらっていた。

 そこから先には、魔獣も出るからあまり入るなと言われている。


 教わった採取ポイント付近で採れる物は、あらかた把握した。

 森の手前の草原、水辺、岩場など、それなりの種類があった。


 でもやはり上級ポーションを作るには、森の奥へ入る必要がある。


 するとゴルダさん。ちょっと難しい顔で私を見て。

「お前、そもそも戦えるのか?」

 そんな心配をされた。


「人混みを歩くときも、ちょっとどんくさいだろう」


 どんくさいって言うな!

 まあね。ゴルダさんの心配はわかる。

 アリスティナちゃんは、ちょっとどんくさい。


 元の私はそうでもなかった。

 残念ながらアリスティナちゃんの体では、思うように動かないんだよ!

 歩き回るようになり、これでも以前より動けるようになったんだよ!




「武器は使えるのか?」

「ナイフは採取に使うだけで、戦いはしてないかな」

「魔法は?」

「水や火を出したり、石を飛ばすとかは出来るけど、攻撃魔法ではないかな」


 アリスティナちゃん、色々と魔法の才能はあるけど、攻撃魔法はさっぱりだ。

 私もゲームや小説の攻撃魔法をイメージして使ってみるものの、思ったほどうまくいかない。


「……採取のときはどうしてたんだ」

「身体強化はできたので、走って逃げてました」


 そう。防戦と逃げの一手だ。

 いざとなったら身体強化で殴るつもりはあった。

 ただし森の浅い部分で出るのは、小動物的な魔獣だ。


 たとえば一角ウサギという魔獣は、角を向けて跳ねて来られると危険だ。

 でも見た目は可愛いウサギなんだ。

 あれをもし殴って攻撃したらどうなるか。

 吹っ飛ぶくらいならいいんだけど、ぐちゃっとなったりしたら。


 なんだかトラウマになりそうで、攻撃する気はない。


 増えすぎると困るので、魔獣討伐も冒険者の仕事。必要ならやる。

 しかし手段が問題だ。

 魔法なら罪悪感は少ない気がするけど、殴って潰すと最悪だ。




「短剣は持っていないのか?」

「必要を感じなかったので、持ってないですね」


 丁寧な言葉に戻ったせいか、ゴルダさんが眉を寄せた。

 まだ無意識に口調が戻ってしまうことがある。


「身体強化が出来るなら、オレが教えてやれる。ちょっと表に出ろ」


 ちょっと表に出ろなんて、ケンカが始まりそうな言葉だなと思う。

 ゴルダさんにそんな気はないだろうけど。


「短剣を構えてみろ」

 家から漏れる明かりの中、ゴルダさんから借りた短剣を構えてみせた。

 すぐに姿勢を直される。


「これじゃあ動きが硬くなる。膝は少し曲げておいた方が、すぐに動ける。剣は片手でこう持て。片手が無理なら両手でもいいが、そこまでガチガチに握るな」


 これからは毎朝出勤前に、短剣を振る動作を見てくれるという。




「短剣は、あとは慣れだな。で、魔法はどうなんだ?」


 ゴルダさんに、火を出す、水を出すといった魔法を見せた。

 でも前に向かって出しても、攻撃としての勢いはない。

 ファイアボールをイメージしたのに、ひょろひょろと火の塊が前に進むだけだ。


 魔法の火や水は、その現象を起こすというものだ。

 魔法の火を出してお肉を焼くことは出来るけれど、種火にはならない。

 なんとも不思議だ。


 私のひょろひょろ攻撃魔法を見て、ゴルダさんは頷いた。


「的を攻撃するところから初めてみろ。そこへ向かって、魔法で射貫くイメージをするんだ」

 ゴルダさん、もっともらしく言葉で指導してくれる。

 でも見本を見せてくれるわけではない。


「オレは攻撃魔法を使えるわけじゃないが、魔法は見てきた。これでも元は冒険者だったからな」


 なるほど。

 元仲間の攻撃魔法イメージを教えてくれているわけだ。


 私はゴルダさんが出してくれた的を見据えて、それを射貫くイメージでファイアボールを出した。

 一点突破というイメージだ。




「おおーっ! すごい!」


 自画自賛した。

 炎の矢が的を見事に射貫いた。


 なるほど。ボールより矢だ。それはそうだ。

 ビームみたいなイメージをしたので、高熱できっちり貫通している。


 水なら高圧洗浄みたいなのの、さらに鋭い勢いをイメージすればいいか。

 前に向けて飛ばすイメージだと、ただの水鉄砲だ。

 あちらの世界の記憶で、水圧で物を切る機械があった気がする。あれだ。


 水で鋭く的を射貫くイメージを固めて、水圧一点突破をイメージした。

 見事に水の矢が的を貫く。


「すごい! ゴルダさん、できました!」

「よくやった。ちょっと教えただけで、たいしたもんだ」


 ゴルダさんも満足そうに笑っている。




「戦う手段があるなら、まあ奥へ進んでも大丈夫だろうが、最初のときはオレも一緒に行くからな」

「え、いいの?」


 実はひとりで森の奥へ進むのは、少しだけ怖かった。

 なにせ知らない場所だ。

 ちょっと様子見程度でも、一緒に行ってもらえるのはありがたい。


 勝手がわかったら、ひとりで出入りしても大丈夫だろう。


「しばらく先になるが、森で活動するときの注意点も教えたいからな」

「じゃあ昼食は私が作りますね!」

「昼食?」

 ゴルダさんがきょとんと目を瞬く。


 そう。森の奥地へ遠征するための昼食。

「お弁当!」




 ゴルダさんは不思議な顔をしていたけれど、当日の昼食は任せてねと伝えた。


 そうして毎朝の短剣の特訓が日課になった。

 体術についても教えてもらった。


 いつもの採取に行き、攻撃魔法の訓練もする。

 かわいそうだけど一角ウサギを狙って炎の矢をイメージしたら、見事に仕留めることが出来た。


 他にも水の矢、石つぶても鉄砲の勢いでイメージして飛ばす。

 順調に五匹も仕留めて、冒険者ギルドで解体をお願いすることにした。


 午前に買った食材とあわせて、今日はウサギ肉のトマトシチューだ。

 私の仕留めた魔獣肉をゴルダさんと食べるんだ!




「マリアさん、魔獣を仕留めました! 解体お願いします!」

 窓口で意気揚々と報告をしたら、奥からゴルダさんが立ち上がった。


「短剣か!」

「魔法です!」


 ゴルダさんの肩が落ちる。

 いや、だって短剣の扱いはまだ自信がないよ。


「五匹仕留めました! お肉は持って帰ります」

「じゃあ解体依頼の窓口に案内するわね」


 にっこり笑ったマリアさんが、解体依頼の場所に案内してくれる。


「角はどうする? 初めて仕留めた魔獣の牙や角をアクセサリーにして、冒険者タグにつける人がいるの」

「じゃあ持ち帰って加工方法を考えます! あ、あと毛皮も」

「魔石は?」


 私は少し考えてから。

「じゃあ魔石も記念に持ち帰ります」

「解体費用がかかるけれど、いいかしら」




 結局、いちばん立派な角と、いちばん大きな魔石。そして毛皮と肉はすべて持ち帰りにした。

 四体の魔石や角などの素材から解体費用を差し引いて、少しだけ報酬が出た。


「魔獣討伐よりも、ポーション作りの方が稼げますね」

「おお、あんたはポーションのお嬢ちゃんか。いつも助かってるよ」


 解体係のおじさんが笑って私の頭を優しく撫でた。

 ゴルダさんのゴリゴリ撫でと違い、髪の崩れない撫で方だ。


「嬢ちゃんにとってはそうかも知れないが、討伐依頼が出ている魔獣なんかは素材以外に討伐報酬が出るからな。魔獣討伐で稼ぐ冒険者は多いぞ」


 だよね。私も冒険者イコール魔獣討伐というイメージがある。


「森の入り口の魔獣は、初心者用だ。そのうち森の奥で立派な魔獣を仕留めたら、魔石だけでもそれなりの値がつくさ」


 なるほど。

 そういえば魔獣の強さが魔石の大きさに比例すると聞いたことがある。




 その夜のトマトシチューは、絶品だとゴルダさんも喜んでくれた。

 一角ウサギのお肉は柔らかくて、本日のお勧め野菜のトマトとの相性が良い。


 ゴルダさんの次の休みは三日後だ。

 私はお弁当のメニューを本格的に考え始めた。


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