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番外02 ゴルダさんといっしょ2


 翌日、ゴルダさんの仕事が休みだったので、買い物へ連れて行ってくれた。


 以前一緒に行ったときは、自分の買い物ついでに店の場所を私に教えてくれた。

 今回は、行きつけのお店に私を紹介してくれるのだ。


「お使いがしたいなら、食材の買い物なんかは頼めるな」

「やります!」


 私はやる気まんまんだ。

 働き過ぎのゴルダさんを助けなければならぬ。

 それなりの年齢なんだから、無理すると過労で倒れちゃうよ。




 ゴルダさんはごつい体格なのに人混みをすいすい抜ける。

 対してこちらは、大人たちに埋もれて人に流されそうになり、必死でゴルダさんを追いかける。


 気づいたゴルダさんが戻ってきて、手を差し出した。

「人混みではぐれそうだから、今は手をつないどけ」


 温かく大きな手に、ちょっと照れくさい。

 お父様とは違うけれど、父親らしさを感じる。

 もしかしてゴルダさん、今は独りだけど子供とか家族がいたのかな。


 手をつないで歩くと、ゴルダさんの顔見知りか不思議そうに見てくる人がいる。

 ゴルダさんは気にせず歩く。


 やがて野菜を置いた露天の前で立ち止まった。

 前にも来たことはあるけれど、お店の人はほとんど会話をしなかった。

 突っ立っているのっぽの店主に、ゴルダさんが声をかけた。


「こいつはティナっていうんだ。うちで面倒を見ることになった」


 ゴルダさんよりも大きく、ちょっとぬぼっとした感じの店主だ。

 顔が厳つくて無表情なので、一般的には怖がられる感じだ。


 いらっしゃいと言うでもなく、ゴルダさんの言葉に黙って私を見た。




「これからオレにかわって買い物に来ると思う。いい品を教えてやってくれ」

「ティナと申します。買い物に来たときは、よろしくお願いいたします」


 私が声を上げると、ちょっと瞬きをしてから頷いた。

 反応はちゃんとしてくれるけど、声は聞こえない。


 あれ、店主じゃないのかな。

 露天の店主なら、接客業として声を出すよね。あれ?


「ここの野菜は彼が丹精込めて作った野菜だ。品がいいんだ」


 なるほど。生産者さんだったか。

 直接販売をしている系なんだ。

 いや、でもやっぱり販売するのに無口って、アリなの?


「顔見知りになれば、お勧めの野菜を教えてもらえる。今日のお勧めはなんだ?」


 ゴルダさんの呼びかけに、彼はそっと根菜らしい大きな野菜を差し出した。

 返事するかと思ったのに声はなしか。え、接客業的にアリなの?


 戸惑う私の心境は置いて、ゴルダさんは彼のお勧めもあわせて何種類か野菜を購入した。




 他にもお勧めのお肉屋さん、果物屋さん、乾物など雑多なものを売っているお店を案内してくれて、それぞれの店主に私を紹介してくれた。

 ゴルダさんの人柄だろうか、店主たちはみんな温かい目を向けてくれる。


 その翌日から、買い物は私のお仕事になった。

 野菜の露天は午前の短い時間だけなので、買い物時間には注意が必要だ。


 おつかい用にメモを渡されて、指定された商品を買う。

 お野菜やお肉はお勧めを購入と書かれることもある。


 その買い物中にふと、この材料ならシチューが作れそうだなと思った。

 材料を切って煮込めばいいので、シチューなら私でも作れる。

 こちらの食材は予想外の素材もあるけれど、どうにかなるだろう。


 思い立ったらやってみるべしだ。

 帰宅してすぐ、私はシチュー作りに取りかかった。


 本日のお勧め野菜はモロヘイヤみたいな菜っ葉だ。

 ゆがいてみると、少し癖はありそうだけど、おひたしでも食べられそうだ。


 あとからシチューに乗せればいいやと、私はシチューを作る。

 途中で味見をして、クリームシチューの味にちゃんとなっていたので満足した。


 よし、これでゴルダさんを驚かせてやろう!

 帰ってきたら「ご飯できてるよ!」と出すのだ。

 びっくりサプライズ晩ご飯計画だ。




 そろそろ帰りそうだという時間、私は食卓に夕食を並べた。

 ゴロゴロ野菜とお肉のシチューにパン、サラダ。

 シチューにモロヘイヤみたいな菜っ葉をのせれば、彩りもいい。

 ゆがいてあるので、盛り付けのときにやればいい。


 ちょうど支度ができたところで、扉が開く音がした。

「ゴルダさん、お帰りなさい!」

「ただいま……ってオイ、飯作ったのかよ!」


 ゴルダさんはテーブルを見るなり、私に困惑した顔を向ける。

 私が言う前に気づかれた。


「ちゃんと美味しくできました。シチューの味見もしたよ」

「それは……おう、ありがとな」


 ゴルダさん、ちょっと照れた顔でお礼を言う。

 むふふふふふ、サプライズ成功! ヤッタネ!




 ゴルダさんはテーブルの上を見て、まだ困惑顔だった。

 私は気にせずさっさと食べようとシチューをスプーンで混ぜようとして。

「混ぜるな!」

 強い口調で言われた。え、何?


「いや、その……これはオレが元気になるように作ってくれたんだな。ありがとう」

 またお礼を言われるけれど、ゴルダさんの態度が少しおかしい。

「だが、その……この草は混ぜるな。まずは上のこれだけ食う」


 んん?

 なんだかゴルダさんが変だ。

 首を傾げながら、モロヘイヤもどきをゴルダさんが口にするのを見守る。

「うん。これはこれで美味いよな。うん」


 私も食べた。

 さっき味見をしたときと同じ、少し変わったおひたしだ。

 まあ、悪くない。




 そしてゴルダさん、モロヘイヤもどきをあらかた食べたあと、乗せたためにシチューと混ざった部分をそっとスプーンですくい、がっと口に入れて飲み込んだ。


 ん、飲み込んだ?


 本当に変な態度だ。

 なんだろうかと思いながら、私も混ざった部分を少し食べてみる。


「うっ、何コレ!」


 すごく口の中がエグい。

 ミルクの甘さに苦みとエグさが入り、とんでもなくマズイ。


「そこは一気に飲み込め。この草は体にいいんだ」

「え、何なんですかコレ」

「ミルク系と混ぜるとエグくなるんだ。だが体にいい。飲め!」

「うう」

「躊躇するとマズさにやられる。飲め!」


 ゴルダさんに言われ、私も混ざった部分を慎重にすくい、口に入れてすぐに飲み込んだ。

 うえええー、マズイ!


 水を一気飲みして、ぷはっと息を吐いた。




「うん。このシチューは美味いな」

 ゴルダさんはシチューの部分だけをすくい、満足そうに食べている。

 草が混ざっていないところは美味しそうに食べてくれる。


「え、今の何?」

「あー……この草な、ミルク系の味と混ぜると、とてつもなくえぐいんだ」

「ちょっ!」

 教えてくれよ、露天で出会ったおっさん!


 今日はお客のおっさんが、これは体にいい菜っ葉なんだよと購入しながら私に説明してくれたから買ったんだ。

 店主も頷いていたし。


 そんな落とし穴があるなら、注意事項も言ってくれよ!


「オレも昔やったなあ。おお、マズイマズイ。これ、この味だ」

 混ざった部分をまた飲み込んで、ゴルダさんは笑った。


「ってゴルダさん、その部分まだ食べるの?」

「元気でいられるようオレを気遣って作ってくれたんだろうが。働いて腹減ってんだ、食うに決まってるだろう」


 ゴルダさんはまた食べて、まずいなあと笑う。

 私も食べて、うええマズイ!と叫んで笑った。


 もちろん口直しはシチューだけをおかわりして食べた。

 とても美味しくできていた。




「オレも料理に挑戦して、色々と失敗したからな。今日のアレは懐かしかった」

 ゴルダさんはそう笑い飛ばしてくれた。


 美味しくないものを作ったのに、笑ってくれた。

 子供の失敗を、なんでもないと笑い飛ばしてくれる大人。

 うん。いいお父さんだ。


 心の中でアリスティナちゃんが、お父様を恋しがる。


 悲しみ、諦め、絶望。

 そんな感情に振り回されていたアリスティナちゃんの心が動く。


「またお料理するね。今度は失敗しないように!」

 私は宣言した。


「おう、期待してる。シチューもサラダも本当に美味しかったぞ」

 ゴルダさんも嬉しそうに返してくれた。


まだちょっと続きます。

ちなみに同居時代エピソードとして回想的にさらっと書いていた部分を、ちょっと丁寧に書き直している感じです。急ぎ足で完結に向けて書いたので、もったいなかったかなあという部分を書きました。

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