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【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第三章

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53.詳しい人に聞いてみよう

 ネロ君に監督されながら、私とリドリアさんはせっせと働いた。いつになく集中したことで、仕事もある程度が片付き、一段落つけられる。

 もうすっかり夕方だけど、まだ定時には少しだけ早かった。

 リドリアさんは大きく背伸びをする。


「くぅー……終わりましたねぇ」

「そうですねぇ」

「休憩は後にしろ。話を聞きに行くんじゃないのか?」

「そ、そうでした……ネロさんはまったく疲れていませんね。私たちの三倍はお仕事をしてくれていたのに……」

「今のボクはゴーレムだからな。人間と違い疲労は感じない」

「……」


 リドリアさんが羨ましそうにネロ君のことを見つめる。何を考えているのか察したのか、ネロ君は大きくため息をこぼす。


「自分もゴーレムになりたいと思っているな」

「うっ……はい」

「思うのは勝手だが、あまりおすすめはしないぞ。確かに疲れを感じない。睡眠や食事もこの身体なら必要なくなった。とっているのは趣味のようなものだ」

「う、羨ましい」

「そう思うだろう? なってみればわかる。必要なくなったというだけで恋しくなる。自分が人間ではなくなったことを痛感させられるのも、中々嫌な気分だぞ」


 ネロ君はそう語りながら、疲れたようにため息をこぼし、窓の外を見つめる。

 以前、自分は失敗したからここにいると語っていた。人として生き、人として死ぬ。ゴーレムとなったネロ君は、もう普通の人間として生きることはできない。

 それを失敗と表現していた。私はまだ若く未熟だから、ネロ君の感覚はわからないけれど、なんとなく寂しさは感じ取れる。


「まぁ、なりたいなら方法を教えてやってもいいぞ? ゴーレムになれば疲れは感じなくなる。つまり、好きなだけ……永遠に仕事ができるからな」

「ひ、ひぃ! それは最悪ですよ」

「ふっ、そう思えるなら人間として精進するんだな。疲れも生きている証拠だ。噛みしめておけ」

「は、はい……」


 ネロ君のありがたい助言を貰ってから、私たちはリドリアさんの案内でカラリスさんの研究室へと足を運んだ。


「ここです」


 研究室前にたどり着き、リドリアさんがコンコンとノックをする。


「カラリスさん、リドリアです」

「室長? はい、どうそお入りください」

「失礼します」


 扉を開けて研究室に入る。そういえば、他人の研究室に入るのは初めてかもしれないと、今さらながらに思い出す。

 ちょっぴり緊張しながら、リドリアさんの後ろに隠れて中に入った。

 中の造りは私たちが働いている研究室と変わらず、テーブルの上に仕事の書類が積み上げられていたり、研究中の魔導具が転がっていたり。

 なんだか安心した。

 魔導具師の研究室は、大体みんな似たような環境になるらしい。


「室長がこちらへ来るなんて珍しいですね。それに……」

「はい。フレアさんと助手のネロさんです」

「こんにちは」

「お邪魔します」


 ネロ君が元気に明るく挨拶をした。彼の正体を知っているのは、私やフレアさん、殿下と親衛隊の方々だけだ。

 ここでのネロ君の素性は、ダンジョン探索の道中で見つけた拾い子であり、優秀な才能を持っていたから私の助手になった。

 というちょっと無理がある理由をでっちあげている。

 彼の正体を公表すれば、きっと多くの人々が興味を持ち、接触を図ろうとするだろう。自律型のゴーレムというだけでも特別なのに、中身は大昔の魔法使いだ。

 注目するのはいい人間ばかりではなく、悪い人間も含まれる。

 公表するほうが面倒なことが増えそうだがから、今もネロ君のことは公表していない。

 そういうわけで、私達以外の人がいる前では、ネロ君は無邪気で元気な少年を演じるようにしていた。


「なんというか、違和感しかありませんね」

「どうかしましたか?」

「――い、いえ、なんでもありません」


 ネロ君は笑顔でリドリアさんに視線を向けた。余計なことを口走るなと、笑顔の圧力がとても恐ろしくて、私まで背筋がビクッとする。


「フレアさん、ですよね?」

「はい」

「お噂はかねがね聞いております。私はカラリスです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 カラリスさんは丁寧に挨拶をしてくれて、私もそれに合わせてお辞儀をする。

 見た目は優しそうな男性で、歳は私たちよりは上だろうけど、そこまで離れているとは思えない。二十代後半……三十代?

 そのくらいに見える。

 挨拶を終えたところで、カラリスさんがリドリアさんに尋ねる。


「室長、今日はどうされたのですか?」

「はい。カラリスさんはルーレウトの魔導具検査を担当されていますよね?」

「そうですね。あそこは私の管轄ですよ」

「ですよね。ルーレウトの街についてお話を聞かせてほしいんです。少しだけお時間を頂くことはできませんか?」

「構いませんよ。ちょうど仕事も片付いたところですので」


 カラリスさんは快く了承してくれて、応接室に場所を移すことにした。研究室は散らかっていて、ゆっくり話すスペースもない。

 カラリスさんはちょっぴり恥ずかしそうに断っていたけど、そういうところも、同じ魔導具師として共感できる。

 移動中に軽く話して、年齢は今年でちょうど三十五歳だということがわかった。


「全然見えませんね」

「はははっ、よく言われますよ。実際の年齢より若く見えると」

「羨ましいですねぇ」


 そんな風に言っているが、リドリアさんも十分若くて綺麗だ。若く見られたい気持ちは、女性ならみんな共感できると思う。


「男性にとってはあまり嬉しいことではありませんよ。少なくとも私にはですが」

「そうなんですか?」

「ええ。若く見られるということは、頼りがいがなさそうだったり、大人よりも子供に近く見られているということでもあります。それは裏を返せば、頼りがいがなさそうという風に見られている、ということですから」

「ああ、そういう見方もあるんですね」

「初めて知りましたよ。てっきり男性も若く見られたいとばかり」


 リドリアさんの意見に私も頷く。

 老いから逃げられない人間にとって、若さは何よりも大切にしたいものだと思っていた。カラリスさんは笑いながら言う。


「大抵の人はそうですよ。ただ中途半端に歳をとると、そういう後ろ向きなことも思ってしまう、というだけです」

「なるほど……今度男性に歳の話をする時は気を付けないと」

「お前はまず相手を探したほうがいいだろうな」

「――! 何か小言が聞こえたような……」

「気のせいじゃありませんか?」


 ニッコリ笑顔でネロ君はそう言った。気のせいではないことは、私もリドリアさんもわかっている。

 なぜかリドリアさんには厳しいネロ君だった。

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