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爆走腐男子くん  作者: らんたお
23/23

季節外れのサンタさん!3

 しくしくめそめそしている理由は、勿論栄くんのせいである!! 急に僕のお腹に足が降ってきたんだよ!!

 僕の叫び声で朝が始まった。


「寝相が悪いぞって先に言っといただろうが」

「だからってお腹に踵落としなくてもいいじゃないか!」


 てか、寝相とかいうレベルじゃなかったし!! 僕が隣で泣いているにも関わらず爆睡してたし!! 6時に起こされたよ。

 泣き腫らした目のまま朝ご飯とお弁当を作っている僕を見つけた起き抜けの生徒会長は、何があったんだと驚いていたけど、事情を知って同情の視線を送るだけで済ました。


「まぁ、俺も常々不思議だったんだよなぁ。親子水入らずの川の字で寝るのって、寝相の悪いやつが一人でもいたらどうすんだろうってな」


 子供を真ん中に挟んで寝るのとか怖くて出来ねぇよなぁと生徒会長。そういう問題じゃない!! 栄くんの悪びれのない言動を叱ってよ!! 当の本人は、事前に警告しといたから悪くないの一点張りだし!!

 てか、子供って何だ!! 僕のこと!?


「あぁそうだ、今日泊まりに来る奴は、久佐賀と夜宮先輩と粟森先輩と……お前をプレスした倉橋だ」


 わざわざプレス部分を強調しなくていいから!! 親指も立てるな!!

 というか、風紀委員長と前生徒会長と前生徒会副会長とか、すっごいゴージャスな組み合わせだね。そこに栄くんとか、中々ない取り合わせかも。

 因みに八雲くんはどうしても外せない用事があるんだって、物凄く謝られた。気にしなくてもいいのにね。で、生徒会長に至っては、俺を待ってる女がいるんでな、とどうでもいい情報をくれた。知らぬ!!


 今度はもう栄くんに殺されないように、部屋で寝ることにするもんね! 後、被害を最小限にするために御三方を栄くんと同じ部屋にはしない!! 絶対に!!






 お泊りが始まって2日目の今日知った事実。前生徒会副会長は古武術の使い手だった!! 徒手系の古武術が得意なのだとか!! 徒手というのが何なのか分からないけどなんか凄い!!


「分からねぇのかよ」


 馬鹿が、という栄くんのお言葉は聞き流す!!

 さすがお代官様だ。武術が使えるとは!! 合気道も会得しているという。

 って、あれ? 潔癖症はどうなるのだろう? 組手とか、悪夢じゃない?


「康晴は潔癖症じゃないよ? ちょっとだけ、不潔なものが嫌いなだけ」

「同じ意味じゃないんですか?」


 ちょっとだけの部分のちょっとがどれだけのレベルなのかは分からないけど。まぁ、だから僕お風呂やトイレ掃除を完璧に行ったからね!! お布団だけはどうしてもどうにもならなかったから、布団乾燥機をガンガン使ってほっかほかにして置いたんだけど大丈夫だろうか。

 因みに、前生徒会副会長にはお先にお風呂に入ってもらうことにした。一番風呂だったら大丈夫だろうと信じて。

 風紀委員長は来るのが遅くなるって言ってたから最後になるかもだけど。というか、お風呂長くない? かれこれ一時間ぐらい経つけども。

 様子を見に行くかぁ。



「前生徒会副会長? 何か不備がありました?」


 さすがに遅いですよとは言えないので、脱衣所の扉をトントン叩きながらそう聞くと、何やら脱衣所だと言うのにジャーっていう水の音が鮮明に聞こえる。お風呂の扉空けてるのかな?


「未来か。すまないが、レンチはあるだろうか?」


 レンチ? お風呂でレンチなんて使う? なんて疑問に思っていると、脱衣所の引き戸が開いて……


「洗面台の蛇口が壊れているみたいだ。栓を閉めるからレンチを持って来てくれるか?」

「ほぁ~~~!?」


 何ってせくしぃ~に出て来たのこの人!! いや、服はちゃんと来ているんだよ!? だけどね! 頭から水を被っちゃったのか、水に濡れたシャツは第二ボタンまで空いてて、しかも眼鏡外してる上に右手で髪の毛かき上げながら出て来たんだよ!? いけない雑誌の表紙みたいだよ!!


「濡れお代官様ぁ~!!」

「なんだ、濡れお代官様って」


 僕の奇声に驚いて飛んできた栄くんに、来た早々呆れられる。そもそもお代官って何だよと。


「え!? 栄くんったら、お代官様のこと知らないの!?」

「粟森先輩のことは知ってるが、お代官様っていうネーミングは知らん」


 その上、また人様に変なネーミングつけて回ってんのか迷惑だなとか言ってのけちゃって……なんだよ迷惑って!! しかも栄くん、いい加減役職名で呼ぶのもやめろ長いからとか言って来た。

 それは個人の自由でしょ!? 僕がどう呼ぶかは別にいいじゃんと反論しつつ、前生徒会副会長のこんなオフショットを撮らないなんて有り得ない!! な僕は葛藤中。肖像権的に勝手に撮るわけにもいかないから、泣く泣く心のシャッターを切るだけに留めよう。


「とか言いつつ、さっきからお前スマホであらゆる角度から連射してんぞ」

「ほわっつ!?」


 心とは裏腹に、手が勝手に!! もう一人の僕、何してんの!?


「もう一人とかいねぇよ、全部お前だ」


 もうっ、さっきから栄くん煩い!!

 前生徒会副会長はというと、僕の興奮顔にどう反応していいのか困惑って感じで固まっている。因みに、蛇口の水を左手でずっと押さえ続けていた。

 は!! いけない!! 前生徒会副会長を濡れお代官様のままにしていたら、風邪を引いてしまうではないか!! 見ていたいけども!! このままずっと見ていたいけども!!


「タオル~!! 予備のタオル~!!」

「背伸びしても届かねぇよお前絶対」


 洗面台の上のタオルに手を伸ばすが、僕では届かない。それを揶揄する栄くんに怒っている時間も勿体なくて、睨みを利かせつつ無視することに決定!!

 すると、誰かの手が後ろから伸びてくる。誰かと思ったら、前生徒会長だった。


「これでいいの?」

「はい、そうです!」


 すると前生徒会長、そのまま前生徒会副会長の頭からタオルを被せて……


「康晴、大丈夫かい?」

「あぁ、ありがとう」


 前生徒会風会長のことを拭き始めたぁー!! その様はまるで、パートナーの髪をタオルで拭くかの如く……ぐはぁ!! 爆心力高い!!


「主よ!! この瞬間を僕にお与えくださってありがとうございますー!!」

「いつからお前はキリスト教徒になったんだ。つか、言いながらスマホ連写真すんなって」


 お前はむしろ子リス教の教祖だろとか、わけの分かんないことを言うな!! 何、子リス教って!! ないからそんなの!!

 こんなオイシイ場面に遭遇して、普通の顔してるなんて無理!! 神様!! ありがとー!!

 あ、そういえばレンチでしたね。もうそんなの正直どうでもいいんだけど、前生徒会副会長が風邪を引いちゃうとマズいから持って来なくちゃと思っていると、ちょうど風紀委員長が家に来た。一度家に寄ると言っていた用事の方は、どうやら終わったみたい。因みに玄関を開けに行ったのは栄くんだ。


「今日は風が強いから、物音で不審者を見極めるのは大変そうだな」


 とか言いつつ、明らかに竹刀が入ってそうな紺色の布を握りしめているぅー!! 不審者侵入絶対不可な武器を携えていらっしゃった。それとなく、玄関正面から垣間見える僕等の不審な構図を目にし、何してるんだと尋ねてくる。


「洗面台が壊れちゃったので、工具箱を取りに……は!! 風紀委員長!! 竹刀貸してください!!」

「何故?」


 だって工具箱、地下室にあるんだもん!! 地下室って言っても物置の半地下だけど。

 坂道の家だから、どうしても平坦に家を作ろうとすると坂の傾斜分だけ空間が空いちゃうんだよね。だからそこを有効活用しようってことで半地下を作っているんだけど、昨日の椅子みたいに使用頻度が高い可能性があるもの以外はそこに置いているから、今からそこに行かなくてはいけない。

 ほとんど使われない部屋だから、電気が壊れちゃって点かないというオマケ付き……行きたくない!! 絶対行きたくない!!

 だってほら、ホラー映画の定番は地下室じゃない!! 地下室で大体何か起こるじゃない!?


「映画の見過ぎ。つか、何もねぇところだった記憶しかねぇが?」


 精々天井に備え付けられてた扇風機とお掃除ロボットが稼働してたくらいだろ、と栄くん。いや、そうなんだけど!! 何もないんだけど!! 夜という環境では、それも一変するじゃないか!! 暗い、埃っぽい、高く積み上げられた物、狭い通路。真っ暗な中で何か出てきたらどうするの!?


「狭いなら、竹刀は有効な武器ではないぞ?」

「そ、そんなぁ」


 風紀委員長のお言葉にガックリ。確かに、竹刀を持って暴れちゃったら色々な被害が出そう。でも、武器も持たず行くなんて怖いよぉ。


「んな怯えんなら、俺が行って来てやるから懐中電灯貸せ」

「工具箱の場所分からないでしょ?」


 栄くんが立候補してくれたけど、行くのならばせめて僕もいないと駄目だ。その間ずっと前生徒会副会長に蛇口を持っててもらうわけにもいかないから、タオルでぐるんぐるんにして置いたし、再びお風呂に入ってもらう。

 それにしても、なんで蛇口壊れちゃったんだろう? 普段からトイレの横の洗面所ばかり使って、脱衣所兼洗濯機の洗面所は使わないとはいえ壊れるなんて変なの。まぁ、いいや!


 懐中電灯を装備し、僕と栄くんは悪魔の巣窟へと足を運ぶのだった!!


「運ぶのだったじゃねぇよ。つか、なんだこの懐中電灯。手持ちの部分長くね?」

「ちょっと!! ちゃんと前を照らしてよ!!」


 そんな、懐中電灯に興味持たないでさ!

 確かに、海外ドラマのお巡りさんが持っている警棒代わりにもなる懐中電灯なんて、日本ではなかなか見ないものだから気になるのは分かるけども。因みにコレ、お姉ちゃんの趣味で集めた資料の一つ。何に使うために取り寄せたのかは未だ不明だけど、懐中電灯としての役割を遺憾なく発揮している。

 気分はまるで、大冒険へと繰り出した冒険者だ。鬱蒼としたジャングルを突き進む、探検隊!!


「行け!! パ〇ラッシュ!!」

「設定がめちゃくちゃだぞお前」


 冒険者なのか探検隊なのか世界〇作劇場なのかどれかにしろ、と栄くん。その角を左だよ、と僕が言った直後。


「わぁ!!」

「ぎゃん!?」


 な、なんだぁ!? 背後からおっきな声がぁ!!

 そのままの勢いで栄くんにしがみ付き、爆発しそうな心臓を抱えて恐る恐る振り返ると……パシャリ!!


「ぜんせいとかいちょお……」

「びっくりした?」


 悪戯っ子な顔してカメラを向けていた。こっちはそれどころじゃなぁ~…力が抜けるぅ……






 うぅ~ん…月と戦車が正面衝突……


「どんな夢だよ。つか、絶対戦車が負けるだろ」

「は!! 太陽が大爆発!!」

「それ、俺等も死ぬ」


 ど、どうしよう。ちゅどーんってなってた!! てか、ん? ガバッと起き上がると、何故かそこには人人人!!

 コイツ頭おかしい、と頭を掻きながら言っている栄くんと正反対なのは、前生徒会長。大丈夫ごめんねと、すっごい謝られた。何故?

 意味が分からないでいると、前生徒会副会長が教えてくれた。


「レンチを取りに行っている時に後ろから脅かされたんだろう? すまんな、こいつのせいで」

「ごめんね未来くん。まさか未来くんがこんなに繊細だったなんて」

「夜宮先輩安心してください。こいつ、繊細じゃないっスから」

「単純に緊張の糸が切れただけだろうな」


 栄くんの言葉に一々腹立つ!! 風紀委員長は、冷静に分析し過ぎ。てか、僕は気を失ってしまったのか!!

 いやしかし倒れてしまうとは……栄くんの言葉を擁護したくないけど、僕繊細じゃないのになんでだろうと自分のベットの上で思っていた。

 あれ? そういえば、誰が運んでくれたんだろう?


「つか、お前軽すぎ。マジでリス並じゃねぇか」

「そんなわけあるか!! え!? 栄くんが運んでくれたの!?」

「そうだよ。レンチは僕が康晴のところに持って行ったんだ。本当は、未来くんが心配だったからついて行きたかったんだけどね」

「あれはそう、未来が前に言っていたお姫様抱っことかいうやつだったな」

「What!?」


 風紀委員長の告白に我が耳を疑い、ばっと栄くんを見るがしれっとしている。更には、リスを救護しただけと素っ気ない。誰がリスだ!!

 自分でなければオイシイ場面だ!! いやしかし、自分だったばかりに見逃した上に、写真が撮れなかったなんて!! 悔しいぃーと思っていたら、前生徒会長は仰った。


「写真なら撮ったよ? もしかしたら、未来くんが喜ぶかもしれないと思ってお詫びにね」

「ナイス!!」


 思わず、上級生相手に親指を立てて言ってしまう。気にしていないようで良かった良かった。

 ともかく、早速見せて貰うと……うん、コレジャナイ感。僕自身だから萌えないとか、そういう次元じゃない。

 僕をお姫様抱っこした栄くんの頭が天井にごっつんこしていて、天井備え付けの扇風機が顔に被っていた。これじゃあ、扇風機おばけにお姫様抱っこされる僕である。しかも、天井が低いせいで屈み気味という何とも言えない間抜けな構図……

 いやしかし、究極の状態で僕のために撮ってくれた貴重な写真だ。感謝しないといけない。


「あ、ありがとう…ございます……」

「あれ? 嬉しそうじゃないね?」

「それはそうだろう。責めて物に被らないように撮ってあげればいいものを」

「画角を気にして後ろに下がった結果でしょう。狭い通路でよく頑張って撮影したと思いますが」


 落ち込む僕に、前生徒会長の疑問と前生徒会副会長や風紀委員長の指摘。オイシイ場面だったはずなのに、もの悲しい気持ちになったよ。しまいには栄くんが。


「お前らしいオチで良かったじゃねぇか」


 な・に・が!? 全然良くないよぉー!!

 まぁでも、濡れお代官様と前生徒会長と前生徒会副会長の仲睦まじい写真が取れたから良しとする。

 後でお姉ちゃんに報告したら、全ての事案でさすが私の弟っと興奮気味に喜ばれたけども、お姫様抱っこの件まで喜ばれた理由は謎。

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