第9話
第9話
"王と呼ばれし者"
一方…
「…あら、あなたが私の電話に出てくれるなんて、珍しい事もあるものね。ひょっとして恋?」
『切るわよ』
「まぁ待ちなさいって…」
茜が電話を掛けた相手は、D細菌を製作した武器商人、沢村明美だった。
『…何の用?こっちは今忙しいのだけれど』
「武器が欲しいのよ。2つ程ね」
『武器?どうしてまた…』
「あぁ、私の武器じゃないわよ?武器を持っていない子が2人居るの」
『…あなた今どこに居るの?』
「榊原町よ」
『………』
「どうしたの?」
『…駅前の廃ビルに来なさい。そこに居るわ』
「わかったわ。少し待っててね」
茜は電話を切ると、梨沙と恵美に視線を移した。
「さぁ行きましょうか。駅前に居るらしいからね」
「な、何をするんですか…?」
不安な様子の梨沙。
「そうね…」
茜は少し考える素振りを見せた後、ニヤリと笑ってこう答えた。
「"お買い物"よ」
現在居る場所から駅前までは、約10分と言った所。
捕食者との遭遇は何度かあったものの、一同は予定通りに駅前に到着できた。
「捕食者が居ない…?」
恵美が辺りを見回しながら、そう呟く。
「…でも、捕食者が居た事は確かみたいよ」
そう言った梨沙が指差したのは、地面の所々に溜まっている緑色の液体だった。
「という事は、誰かがここで捕食者を殺したって事か…」
「誰かが…ね」
その時、梨沙の足元に、突然銃弾が飛んでくる。
「な、何…!?」
「あっち」
「…?」
梨沙は困惑しながら、風香が指差した方向を見てみる。
そこには廃ビルがあり、3階の1室に人影が見えた。
「狙撃…!?」
「いえ。彼女なりの挨拶よ」
茜の言葉を聞き、苦笑を浮かべる梨沙。
「あ、挨拶って…そんな乱暴な…」
「会えばわかるわ。…変人なのよ、あいつは」
4人が再びビルの方を見た時には、既に人影は消えていた。
「神崎茜さんですね?」
廃ビルに入った一同の元に、1人の女性がやってくる。
「えぇ。…失礼だけど、どちら様?」
「キングの部下の、藤堂と言う者です」
「下の名前は?」
「え?紗也香ですけど…」
「藤堂紗也香ちゃん…容姿だけじゃなくて名前も可愛いわね…。年齢は?」
「…こちらへ。キングがお待ちです」
一同は藤堂紗也香と名乗った女性を先頭に、階段を登り始めた。
「紗也香ちゃん。さっき私の名前を言ってたけど、どうして知ってるの?」
階段を登っている最中、茜が紗也香にそう訊く。
「キングから聞きました。…かつて、"クイーン"と呼ばれていた事も」
「その話はしないで」
茜の様子が、急変した。
「…失礼しました」
「…うふふ。良いのよ」
再びいつもの様子に戻る。
茜の過去を知らない梨沙と恵美はその話に興味を持ったが、先程の彼女の急変ぶりを見た2人は、とても訊く事などできなかった。
「この部屋です」
3階に到着し、通路を数分歩いた所で先頭を歩いている紗也香が立ち止まる。
茜が扉を開けて中に入ると、窓際の机に腰掛けている明美の姿があった。
「ちょっと前に、朝霧と凛ちゃんを見たわ。…やっぱり集まるのね、私達は」
「運命の赤い糸ってヤツね」
「何を言っているのやら…」
明美は立ち上がって机の引き出しを開け、その中から2丁の銃を取り出した。
「そこの2人、これで良いかしら?」
そう訊かれ、明美が取り出した銃を見つめる梨沙と恵美。
「えーと…」
「大丈夫…です…」
しかし、どの銃が良いかなど当然わかるハズも無く、2人は困惑したままぎこちなく頷いた。
「そう。それじゃ、3本で良いわよ」
「3本?」
「値段よ。5本と言いたい所なのだけれど、見た所学生ね。仕方ないから30万で…」
「3千円ね?私が払っておくわ」
茜が会話に割り込む。
「…バカにしてるの?」
「え?3本って言ったら普通3千円でしょう?」
「30万よ。これ以上は負けられないわ」
「え?300円で良いの?あなた優しくなったわね。好きになっちゃいそうよ」
「…いい加減にしなさいよ」
「あら、私に刃向かう気?襲うわよ?今夜」
「………」
明美はしばらく黙り込むと、深い溜め息を吐いてこう言った。
「…あんたのツケにしておくわ。さっさと持って行きなさい」
「うふふ…恩に着るわ」
「(良いのかな…)」
「(気まずいよ…)」
梨沙と恵美は、明美に軽く会釈をしてから、机の上の銃を手に取った。
「あなた達、名前は?」
「綾崎梨沙です」
「久遠恵美です」
「梨沙ちゃんに恵美ちゃんね。私は沢村明美よ。好きなように呼んで貰って構わないわ」
「あけみんって呼んであげてね」
「呼んだら殺すわよ」
「は、はい…」
震え声で返事をする梨沙。
「(目を合わせるのは止めておこうかな…)」
恵美も、すっかり怯えていた。
「…にしても、他に種類は無かったの?2つ共見たことすらないわ」
茜が2人の銃を見ながら、明美に愚痴を言う。
「うるさいわね。いらないなら返しなさい」
「恵美ちゃんのは…M4?梨沙ちゃんの銃はさっぱりわからないわね」
「彼女の方はHK417。そっちはM14EBR。あまり出回っていないのは確かだけれど」
「EBR?」
「エンハンスドバトルライフル。M14の強化型だから、そのままの意味ね」
「…マニアック過ぎるわよ。もうちょっとシンプルな銃が良いわ」
「シンプルな銃?」
「火縄銃とかシブいわね」
「………」
茜の相変わらずの調子に、明美は心底呆れた様子を見せた。
「これが弾薬よ。初回サービスという事で無料であげるわ」
「あ、ありがとうございます…」
渡された弾薬を大事そうにポケットにしまう2人。
「さ、もう用は済んだでしょう?さっさと行きなさい」
明美がそう言ったにも関わらず、茜は出口とは反対の窓際に向かって歩き出し、こう言った。
「つれないわねぇ…。少しお話でもしましょうよ」
「あんたと話す事なんて何もないわ。消えなさい」
明美は茜から目を逸らして鼻で笑う。
「そうかしら?面白い話ならあるわよ」
「何の話よ」
「人を喰らい、死体に幼体を産みつける不思議な生き物の話」
それを聞いた明美は、ゆっくりと茜を再び見た。
「…奴らを見たの?」
「当たり前じゃない。その為に銃を調達しに来たんだから」
「その様子じゃ、既に何度か戦ったようね」
「こうして生きてるけどね」
「ふん…」
明美は鼻で笑うと、部屋の奥にあるソファーの元へと歩いていった。
「来なさい。話を聞いてあげるわ」
「あら、お茶ぐらい出したらどう?」
「ふざけた事を言ってないで、さっさと座れと言っているのよ」
「せっかちねぇ…。そんなんだからいつまで経っても胸が小さいままなのよ」
「…座りなさい」
「あら怖い顔…」
明美と向かい合うように座る3人。
出口の扉を塞ぐように立っていた紗也香も、扉の鍵を閉めて明美の隣にやってきた。
「茜、奴らの名前は知ってるの?」
「捕食者…でしょ?」
「どこでそれを?」
「さぁねぇ…。風の噂…とでも言っておくわ」
「真面目に答えなさい」
「うふふ…。"特兵部隊"の一員から聞いたのよ」
「彼女達がどこでそれを知ったと言うの?」
「そんな事までは知らないわよ。私はただ話を聞いただけ。…本当よ?」
明美はしばらく茜を睨んだ後、呆れたように目を閉じて溜め息を吐いた。
「…それが本当かどうかは知らないけれど、今は深く訊かないでおいてあげるわ」
「あら、優しいじゃない?」
「別に…私には関係無い事だからよ」
「うふふ…。それもそうね…」
「あの…」
そこで、梨沙が遠慮気味に話に加わる。
「特兵部隊って何ですか?」
その質問には、いつの間にか缶ジュースを手に持っている風香が答えた。
「特殊兵器対策部隊。患者とか、今回みたいな化け物とかが絡んだ事件に、大体現れる組織の事」
「特殊兵器…対策部隊?聞いた事無いな」
首を傾げる恵美。
「公表されるような事は無いだろうからね。それに、"お国の連中"からは良く思われてないと思うし」
「?」
「ん…何でもない。忘れて」
「う、うん…」
恵美は彼女の言った言葉の意味がわからなかったが、訊き出そうとは思わなかった。
「さて、今度は私が訊く番ね」
「待ちなさい。他に情報は無いの?」
茜の話を遮る明美。
「そうねぇ…。奴らの弱点なら知ってるわよ?」
「それは?」
「その前に、あなたの話も聞きたいわね」
怪しい笑みを浮かべる茜を、明美は忌々しそうに睨み付けた。
「私に対等な取引を持ち掛けるなんて、身の程知らずも良い所ね」
「あら、何様のつもりなのかしら?」
「…まぁいいわ。紗也香、例の書類を」
「はい」
指示された紗也香は、先程明美が銃を取り出した机の元へと向かう。
すると、茜がその後ろ姿を見ながら、明美にこう訊いた。
「ねぇ明美…あの子いくつ?」
「何で知る必要があるのよ」
「意地悪しなくたって良いじゃない。教えなさいよ」
「なら、捕食者の弱点の話を聞かせなさい。それなら教えてあげない事も…」
「心臓よ」
「………」
「ほら教えたわよ?早く早く!」
「…21とか言ってた気がするわ」
「21!?食べ頃じゃないの!」
「(相変わらずね…こいつ…)」
明美は1人で盛り上がっている茜をバカにするかのように、小さく鼻で笑った。
「お持ちしました。こちらです」
一同の元に戻ってきた紗也香が、机から持ち出した書類を明美に渡す。
「まずはこれを見なさい」
そう言って、それを茜に渡した。
「これは何かしら?」
「よく見てから訊きなさい。…捕食者の観察記録よ」
「観察記録?」
「えぇ。奴らの特徴や生態などを纏めてあるわ」
「誰がこんな物を?」
「馴染みの情報屋から買った物よ。詳細は教えられないけれど」
「あっそ…」
そう言って、茜は手元の書類に目を落とす。
捕食者の幼体についてや、成体への進化に必要な条件が書かれていた。
「へぇ…。進化するには、"お食事"をしなければいけないのね」
「死体に幼体を産みつける行動が確認されてるわ。恐らく、その為ね」
「なるほど…」
茜は書類を明美に返し、ソファーから立ち上がった。
「世話になったわね。私達は行く所があるから、これで失礼させてもらうわ」
「そう。何かわかったら連絡しなさい」
「私にそんな義務は無いハズだけど?」
「情報次第で、銃の料金を負けてあげない事も無いわよ?」
「…上手いわね」
「あなたに任せるわ。それじゃ、せいぜい喰われないように気をつけなさい」
明美も立ち上がって、出口の方まで歩いていく。
それについていくように4人が出口に向かう最中、茜が顔を正面に向けたまま、明美にこう訊いた。
「…最後に1つ、訊いても良いかしら?」
「何?」
「奴ら、誰かの作品よね?」
「…でしょうね」
「心当たりは?」
「あったら今頃拉致してるわよ」
「うふふ…。それはそうよね…」
4人は部屋から出て、階段を降りていった。
第9話 終




