第8話
第8話
"D-07"
体育館…
「…騒がしいですね」
先程よりも、辺りの喧騒が大きくなっている事に気付く恭香。
「恭香お姉ちゃん。様子を見に行ってみようよ」
美由の提案に、恭香は首を横に振って見せた。
「…いえ、ここで待ってた方が良いでしょう」
「でも…」
「確かに、お2人が帰ってこないのは変です。でも、2人が帰ってきた時に私達が居なかったら、2人を混乱させてしまいますよ」
一瞬、迷った素振りを見せる美由。
しかし、すぐに納得した。
「そうだよね…。ごめんなさい」
「ふふふ…。謝る必要なんて無いですよ?」
その時、恭香の元に、同級生の少女がやってくる。
「ねぇ峰岸…。さっき体育館を出てった2人って、あなたの知り合い?」
「えぇ、知り合いのようなものですが…。どうかしたのですか?」
「えーと…」
少女は自分から話しかけておきながら、少しだけ話すのを戸惑った。
「その…今ね、校舎の方から、銃声が聞こえてきたの」
「銃声?」
恭香は当然、驚いた。
「…間違いないのですか?」
「うん。他にも聞いた人が居るから、間違いないと思うよ」
「そうですか…」
黙り込む恭香。
「恭香お姉ちゃん…?」
美由が呼び掛けると、恭香は出口の方へと歩き出しながら、美由にこう言った。
「前言撤回です、美由さん。今すぐ2人の所に行きましょう」
「うん…!」
体育館を出る2人。
すると、すぐに校舎の方から銃声が聞こえてきた。
「…美由さん、私から離れないでくださいね?」
「わかった…」
美由は恭香の手をぎゅっと握り締める。
「(何か…異常が起きているという事ですね…)」
2人は校舎へと向かった。
校舎に入ると、すぐに彩達4人の姿が視界に入る。
当然、扉を開ける音で、4人もこちらに気付いた。
「お前ら!?何で来たんだよ!?」
「久遠さん!どういう状況なんですか!?」
「うるせぇ早く戻れ!」
「お断りします!」
その時、何とか死守していた玄関が破られ、大量の捕食者がなだれ込んでくる。
「こりゃたまらんな…下がるで」
「そうですね…」
前線で戦っていた楓と凛が後退する。
そして、楓が他の4人にこう言った。
「お前ら、体育館に戻りながら戦うで」
「もう後が無いわよ?」
「そん時はそん時や。行くで」
「楽天家ね…」
呆れた様子で、先に扉を開けて出て行った楓と凛を追う彩。
「私達も行くぞ。…って、美由ちゃんまで来たのかよ?」
「1人で待たせるのは可哀想だったので…」
「全く…。うんざりするくらい優しい奴だな…」
「ふふふ…。そうですか?」
今来たばかりの3人も含め、残りの一同も体育館へと戻っていった。
「幸いな事に、長い通路ね」
校舎と体育館を繋ぐ一方通行の通路。
迎え撃つには、丁度良かった。
「少しずつ下がりながら戦うんや。体育館の前が最後の砦やで」
「突破されたら?」
「…さぁな」
「あらら…不安ね…」
正面の捕食者に発砲を始める楓と彩。
美由と恭香以外のメンバーも、それに倣って発砲を始めた。
「久遠。弾渡しとくで」
楓が真希に、予備の弾倉を2つ渡す。
「サンキュ。…って、これだけか?」
「予備の拳銃の予備の弾なんて仰山持ってるワケ無いやろ。我慢せえや」
「ちっ…わかったよ…」
そう言いながら再装填した真希の手付きを見て、彩が眉をひそめた。
「…やけに手慣れてるわね」
「え?…気のせいだろ」
「もしかして、発砲経験あり?」
「あるワケねぇだろ?…ただ、ゲームとか映画とかでよく見てるから、そのお陰かもな」
「ふーん…ゲームねぇ…」
こんな状況でありながらも、彩は真希の意外な趣味に驚いた。
そんな一方…
「…あなた、どこかで会ったかしら?」
凛は恭香を見て、既視感を抱いていた。
「いえ、初対面だと思いますが…」
「どこかで見た事あるような気がするんだけど…。気のせいかしら?」
「恐らく、気のせいではないかと…」
「ふむ…」
思い出せそうで、思い出せない。
「(言葉遣いといい、雰囲気といい、誰かに似てるのよね…。誰だっけ…?)」
結局思い出す事は無かったが、凛は確かに、彼女の顔に見覚えがあった。
「ちっ…。少し下がるか…」
楓の言葉を聞いた一同は、発砲を止めずに後退する。
「まだ体育館まではかなりあるけど、このままじゃジリ貧ね…」
彩が残りの距離を目で計り、そう呟く。
「…この生物、どこから出てきてるのかな?」
美由がふと呟いたその言葉に、楓が反応した。
「確かに変やな。いくらなんでも多すぎちゃうか?」
「発生源を突き止めますか?」
「どないするつもりや、宮城」
「体育館の2階から見渡せば、玄関の様子を一望できるハズです」
それを聞いた楓は一瞬も迷う事なく、こう返答した。
「なら、お前行ってこいや」
「…私ですか?」
「足早かったやろ、お前。全力疾走で行ってこい」
「な、何で私が…」
「…ほう、ウチに逆らう気か?」
「…行ってきます」
楓の圧力に屈した凛は、アサルトライフルを恭香に渡した。
「それ、使ってて良いわよ。火力は維持しとかないとね」
「よろしいのですか?」
「うん。弾はこれを使って。使い方は…そこの眼帯冷酷関西人に訊いてね」
「…聞こえてるで」
「い、行ってきまーすッ!」
凛はその場から逃げ出すように、体育館の方へと走り出した。
「けっ…。あいつ最近妙に生意気になったな…」
「女の子は生意気な方が可愛いモノよ」
彩はそう言うが、楓は溜め息をつく。
「生意気なんて腹立つだけや。好みは人によるで」
「もしかして、あなたレ…」
「お前ぶち殺すぞ」
「冗談よ…」
その後、迎撃をしばらく続けていると、楓の携帯に着信が入ってきた。
「宮城か?」
『はい。…どうやら、少し離れた場所にあるマンホールから湧いてるみたいです』
「やれやれ…また地下か…」
『どうしますか?』
「そこ、行けそうか?」
『一応、そう遠くはないので。…まさか』
「お前確か手榴弾持ってたな。ぶち込んでこいや」
『…マジですか?ライフル無いんですけど』
「拳銃持ってたやろ。…なんや、出来へんのか?」
『うーん…。せめてあと1人居れば行けそうですけど…』
「なら、雪平をそっちに行かせるさかい、ちぃと待ってろや」
『了解です…』
凛の不服そうな返事を何とも思わずに、楓は電話を切った。
「私が凛ちゃんの所に行けばいいのね?」
「そういう事や。指示は宮城が出す。頼んだで」
「わかったわ」
彩は返事をすると、すぐに凛が待つ体育館へと向かった。
「…さて、もう少しの辛抱や。気ぃ抜くなよ、お前ら」
楓の号令で、気を引き締め直す一同。
しかしその時、突然捕食者達の動きが、ピタリと止まった。
「…?」
思わず、スナイパーライフルのスコープから目を離す楓。
すると、捕食者達の集団が居る場所の左側の壁が突然崩れ、一同の視界があっという間に粉塵で覆われた。
「…何や?」
「おい…何か居るぞ…」
粉塵が飛び交う視界の中、真希が何かを見つける。
それは、右手に大きな爪を持ち、捕食者よりも一回り大きな体の、D-07と呼ばれる人型の生体兵器だった。
D-07は、辺りの捕食者を次々と爪でなぎはらいながら、こちらにやってくる。
そして、一同の視界を遮っていた粉塵が消えると、D-07の姿はハッキリと一同の目に映った。
「な、何ですかあれは…」
「…随分と根性がありそうなのが出てきたな」
苦笑いを浮かべる恭香と真希。
そんな中…
「…懐かしい奴やな」
楓だけは、D-07の事を知っていた。
「何だよ朝霧、お前知ってんのか…?」
真希が訊く。
「名前は忘れたけどな。一筋縄じゃどうにもならん奴やで」
「そりゃ見ればわかる気がするぜ…。どうするんだ?」
真希の質問に、楓は捕食者達を見ながら答えた。
「ウチらだけじゃ、勝てるかはわからん。せやけど、化け物同士は仲が悪いみたいやないか。そこを利用する」
「どうやって?」
「さぁな」
「…は?」
「ほっときゃ喧嘩始めるんとちゃうか?下がりながら様子見るんや」
楓はそう言うと、銃を下ろして体育館の方へと歩き始めた。
「そんなに都合よくいくかね…?」
半信半疑ではあるものの、真希は楓についていく。
「大丈夫…なのかな…?」
「わかりませんが…とにかく皆さんについていきましょう…」
美由と恭香も、その場から離れた。
一方捕食者達は、突然現れたD-07を取り囲み、ひたすら威嚇をする。
しかし、そんな事で怯むハズも無く、D-07は取り囲んでいる捕食者の1体を爪で串刺しにして、左手で頭をもぎ取った。
その瞬間、捕食者達は痺れを切らし、一斉に襲い掛かる。
その様子を見た楓は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「上手くいったみたいやな」
「化け物同士だから味方…ってワケじゃないのか」
「人間と同じや」
「なるほどな…」
真希は嘲笑気味に笑った。
その後、見る見るうちに捕食者達はD-07に蹴散らされ、残っている一同の敵は捕食者数体とD-07のみとなった。
「さて、これなら何とかなりそうやな」
「奴も弱ってるみたいだな。仕留めんのか?」
「当たり前やろ。1体残らず蹴散らすんや」
「簡単に言うねぇ…」
「簡単やからな」
攻撃を再開する一同。
残りの捕食者達と弱ったD-07が動かなくなったのは、それからすぐの事だった。
戦闘を無事に終えた一同は、体育館へと戻り始める。
「朝霧さんよ。あの2人と連絡取った方が良いんじゃねぇのか?」
道中、真希が楓にそう言った。
「おう、せやな。忘れとったわ」
「(忘れてたのか…)」
楓は携帯を取り出して、凛に電話を掛ける。
しかし…
「…?」
凛は電話に出なかった。
第8話 終




