第7話
第7話
"狙撃銃と突撃小銃"
「峰岸恭香…聞いたことねぇな。私の妹…久遠恵美は知ってるか?」
恭香の顔をましまじと見つめる真希。
「はい。…久遠さんのお姉様ですか?」
「あぁ。真希だ。よろしくな」
「よろしくお願いします。…と言っても、お2人と話した事は、あまり無いんですけどね」
恭香はそう言って、照れ臭そうに笑った。
「恭香ちゃんは、外の状況は見た?」
彩が訊く。
「それが…早めに避難したので、何が起きているのかはよくわからないんです…」
「そう…。まぁいずれにしろ、知る事にはなるでしょうね…」
「は、はぁ…」
すると、捕食者の姿は見えなかったが、窓の外を見つめながら、美由が真希に話し掛けた。
「真希お姉ちゃん…」
「どうした?」
「あの変なの、何なのかな…?」
真希は少しの間、考える素振りをする。
しかし、すぐに止めて、溜め息を吐いてこう言った。
「何なんだろうな、私にもわからねぇ」
「そうだよね…」
「だが…仲良くできねぇって事だけはわかるな」
「なかよく…?」
「あぁ。殺されねぇ為に殺し合う。一番平和にならねぇ関係だ」
「そう…なんだ…」
不安が見え隠れする表情の美由。
そんな彼女の頭を、真希はがさつな手付きで撫で回した。
「大丈夫だ、私が守ってやる。彩も居るじゃねぇか。安心しろよ」
「…うん!」
美由は、いつもの明るい表情に戻る。
その時、出口の辺りに居る生存者達が、ざわつき始めた。
「…何だ?」
「行ってみましょう。2人はここで待ってなさい」
椅子から立ち上がった彩を、真希が止める。
「私も行くのか?」
「当たり前でしょう。ほら、早くしなさい」
「ちっ…お袋に似てんなあいつ…」
彩と真希は、美由と恭香を置いてざわついている生存者達の元へと向かった。
「何かあったの?」
生存者達の中の、この学校の生徒と思われる少女に彩が訊く。
「げ、玄関に…化け物が居るらしくて…」
それを聞き、2人は顔を見合わせた。
「化け物…捕食者か?」
「多分ね。見に行くわよ」
「お、おい待てよ…!」
2人は体育館を出て、校舎の方へと向かう。
玄関にはすぐに到着した。
「…居るな。1体だけじゃない」
真希は耳を澄まし、捕食者がバリケードを叩いている音を聞く。
その時、2人の背後から、足音が聞こえた。
「誰?」
素早く振り返り、銃を構える彩。
同時に、そこに居た足音の主の女性も、手に持っている大きなスナイパーライフルの銃口を彩の眉間に突き付けて、こう言った。
「相手見てから、銃構えた方がええで」
「………」
動けなくなる彩。
すると、足音の主の女性は鼻で笑った後、スナイパーライフルをゆっくりと下ろした。
「見た所、人間か」
「どこからどう見ても人間じゃない…」
彩も彼女に倣って、銃を下ろす。
そして、目の前にいる女性の顔を、改めて見てみる。
その女性は、左目が眼帯で覆われていた。
「楓さん。職員玄関には居ませんでした」
そう言いながらその場にやってきたのは、至る所がカスタムされている重々しいアサルトライフルを肩に掛けた少女。
「おう。こっちには何体か居るみたいやで」
「…誰ですか?その人達」
2人に気付いた少女は、警戒の眼差しで2人を見た。
「さぁな。ウチも知らん。今会った所や」
「敵では…無いですよね?」
「さぁな」
「えぇ…」
そんな2人に、彩が話し掛ける。
「あー…一応、敵意は無いつもりよ。私達にはね」
「ほう。何モンや、あんたら」
「私は雪平彩。しがないパン屋の店長よ」
「しがないパン屋の店長がハジキ持っとんのかい」
「それは…色々な事情があるのよ…」
苦笑しながら目を逸らす彩に、楓と呼ばれた女性は嘲笑気味に笑う。
「…ま、何でもええわ。ウチは朝霧や。よろしゅうな」
彼女に倣って、もう1人の少女も口を開く。
「私は宮城凛です。雪平さんと…えーと…」
「…あぁ、私は久遠だ。久遠真希。よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
自己紹介を終えた4人は、騒々しい玄関に視線を移した。
「さて、どないしよか」
「外の様子がわからない以上、現状はどうしようも無いですよね…」
「せやかて、奴らが扉ぶち破るの黙って見てるワケにはいかんやろ」
「それはそうですけど…」
捕食者を撃退する手立てを考える楓と凛。
彩と真希は、2人には聞こえないように、小声でこんな事を話していた。
「こいつら信用していいのか?とんでもねぇ得物持ってるぜ…?」
「大丈夫でしょう。敵ではないハズよ。素性は知らないけど…」
「敵ではないって、一体何の根拠があって…」
「うるさいわね…!ガタガタ言わないで平然としてなさい…!」
するとその時、ずっと叩かれていた玄関のバリケードの一部が僅かに破損し、複数の捕食者の姿が見えた。
彩が銃を構える前に、楓が全て撃ち抜く。
そして、ある事に気付いた。
「…何か、音が聞こえへんか?」
「音…?」
彩は訊き返して、耳を澄ましてみる。
どこかから、何かを叩いている音が聞こえてきた。
「私、見に行ってきます」
「頼むで。…雪平言うたか?一緒に行ってやってくれや」
「わかったわ」
彩と凛は、音が聞こえる方向へと走り出した。
「私達はどうすんだ?朝霧さんよ」
真希がバリケードの破損している部分を見ながら、楓に訊く。
「お前、ハジキ持っとるか?」
「いや」
「なら、これ貸したるわ。使い方わかるな?」
「何となく…」
「ほな、やるで」
「え?何を?」
「決まっとるやないか」
楓はバリケードの損害している部分から顔を出した捕食者を撃ち抜いて、こう言った。
「籠城や」
一方…
「凛ちゃん…だったかしら?」
「何です?」
どこかから聞こえてくる不審な物音の出所を突き止める為に、真希と楓と分かれた彩と凛。
「あなた…いくつ?」
「二十歳ですけど…それがどうかしましたか?」
「…いえ、何でもないわ」
若くして銃を持っているのは何故か、彩はそれを訊きたかったが、何か事情があるのだろうと思い、止めた。
しかし、そんな彼女とは裏腹に、気になった凛は訊き出そうとする。
「気になります…。言ってくださいよ」
「そうね…。じゃあ、その銃の詳細を教えてもらえるかしら?」
「…絶対出任せだ」
「え?何か言った?」
「いえ別に…」
凛は溜め息を吐いて、肩に掛けているアサルトライフルを彩に渡した。
「凄いわね…。かなり改造してあるでしょう?これ」
「はい。ベースはAK74Mです。下部のピカティニーレイルにはM26MASS。上部にはアイアンサイトの代わりにドットサイトを付けて、マガジンはダブルマガジン。今は外してますけど、フラッシュライトも装備してます」
「…日本語でお願いできないかしら」
「日本語ですよ?」
「嘘おっしゃい」
説明をしている時の凛は、どことなく楽しそうにも見えた。
その時、今歩いている廊下の窓に、不審な影が映る。
「…?」
何かと思った彩が窓に近付こうとした瞬間、凛が彼女を勢いよく引き寄せた。
「待ってッ!」
「ちょ…!?」
後ろに倒れる彩。
同時に、彩が近付こうとしていた窓が割れ、捕食者が姿を現した。
「…助かったわ」
「気をつけてくださいよ…」
凛の手を借りて、立ち上がる彩。
そして、正面の捕食者に顔を向けた。
「1体だけかしら?」
「いえ、奥に何体か見えます。5体…6体…いや、7体居ます」
その時、他の窓も一斉に割れ、そこからも捕食者が流れ込んでくる。
更に、窓が割れる音は、別の廊下からも聞こえた。
「なるほど…。一斉攻撃ってワケね…」
「一旦逃げましょう。この地形じゃ挟み込まれて不利です」
「そうね。2人の所に戻りましょうか」
Uターンして、玄関に戻ろうとする2人。
しかし、戻る事はできなかった。
「…何だか、次々と行動を読まれてるみたいね」
2人の退路は、既に捕食者が回り込んでいた。
「…雪平さん。とりあえずこちらの捕食者を全滅させましょう。後ろの連中に追いつかれる前に」
「了解したわ。…もっとも、私なんかが戦力になるのかしらね?」
「…信じてますよ」
「あらら…。信じられちゃったわ、私」
2人は、正面の捕食者の掃討に取り掛かった。
「後ろは完全無視で良いのよね?」
「接近されるまでは。…できれば、そうならないようにしたいと考えていますが」
「難しい注文ね…」
2人は隣り合わせになって、銃を発砲しながら、足を止める事無く前に進んでいく。
彩のハンドガンだけではどうなっていたかわからないものの、凛のアサルトライフルが捕食者達を次々と仕留めていった事により、2人はその場から逃げる事ができた。
「その下に付いてるの、ショットガンなのね」
「今更ですか…?」
「M26MASSと言われてわかる方が珍しいと思うけど…」
「常識ですよ」
「難しいわねぇ…」
玄関に到着すると、真希と楓も既に交戦していた。
2人に気付き、楓が凛に訊く。
「おう、どないやった?」
「この建物、捕食者に包囲されてるみたいです。一斉攻撃されてます」
「なるほどな…こっちもいきなり勢力増した所や。…奴ら、タイミングを狙ってたな」
「賢い連中ですね…」
凛は苦笑したが、楓は逆に、余裕の笑みを浮かべた。
「…いや、所詮は化け物や。戦闘力はウチらの方がある」
「…まさか、迎え撃つんですか?」
「当たり前やろ。体育館のガキ共置いてとんずらする気か?」
「それは…」
何も言えなくなる凛。
「気ぃ入れろや。ここ破られても、体育館にだけは近付かせん。ええな、お前ら」
楓の号令と共に、防衛戦が始まった。
第7話 終




