第10話
第10話
"最悪の事態"
「大分時間を使っちゃったわね…。大丈夫?」
「ちょっと、電話してみます」
茜に訊かれた恵美は、真希と連絡を取る事にした。
「姉貴。ボクだ」
『どうした?つーかお前何やってんだよ?』
「買い物をしていたのさ」
『はぁ?』
「まぁボク達は無事だよ。今からそっちに向かう所。…そっちの様子は?」
『今さっきまで、ドンパチやってた所だ』
「え、捕食者が来たのか…?」
『あぁ。だが、こっちも仲間が増えてね。お陰で犠牲者無しの完勝だったよ』
「仲間が?」
『眼帯付けた女と、改造しまくってあるライフル担いだメガネっ子だ』
「…よくわからないけど、良かったね」
『おう。早く来いよ』
「わかってるさ。それじゃ、切るよ」
恵美は電話を切って、茜を見た。
「捕食者の襲撃に遭ったみたいですけど、何とかなったみたいです」
「あら、そうなの?」
「眼帯付けた女と、改造しまくってあるライフル担いだメガネっ子が仲間に加わったそうです」
「へぇ…」
苦笑いを浮かべる茜。
風香も、同じような様子でこう言った。
「…案外、心当たりってあるもんだね」
「ホントね…」
その後、武器の調達を終えた一同は、やっとの事で榊原高校に向かう事ができた。
しかし、すぐに足を止める。
「お出ましね。みんな、構えて」
正面に、患者の死体を貪っている3体の捕食者が見えた。
捕食者もこちらに気付き、ゆっくりと近付いてくる。
「よし…」
「やってみるか…」
率先して銃を構えたのは、梨沙と恵美の2人だった。
2人は同時に、発砲を始める。
すると、銃が自分に合っているのか、恵美が狙った捕食者の方は、あっという間に倒れて動かなくなった。
「やった…!」
「指切り射撃とは中々やるわね、ボクっ子ちゃん」
そう言った茜の方に振り返る恵美。
「指切り射撃?」
「何発か撃って、一旦発砲を中断する。反動を抑える射撃方法の1つよ。…あら、その様子じゃ、知らぬ間にやってたみたいね?」
「みたいです…」
一方、梨沙は…
「何よこの銃…!?」
想像を遥かに絶する反動に、狼狽していた。
1発撃っただけで銃口が大きく跳ね上がってしまい、再び狙いを付けるのに時間が掛かってしまう。
更に、梨沙の肩へのダメージも決して小さい物ではなかった。
「その銃、慣れが必要みたいだね」
「私には使える気がしないわ…」
「大丈夫。最初はみんなそんなもんだから」
そう言ってショットガンを構え、引き金を引く風香。
銃声が2回鳴り響き、2体の捕食者の胸部に大きな風穴が開いた。
「3人居るなら、私の出番は無さそうね」
日本刀に手を着けてすらいない茜が、嬉しそうにそう言う。
「何言ってんの?兵器が出たらあんた1人でやるんだよ?」
「嘘でしょ?」
「ホントだよ」
「せめて援護を…」
「やだよ」
「えー…」
その場に居る捕食者を全滅させた一同は、先へと進んでいった。
「あら、今度は患者のお出ましよ」
まだ50メートルも歩いていない所で、4体の患者が現れる。
「私にやらせてください」
そう言ったのは、梨沙だった。
「患者なら良い練習台になりそうね。それじゃ、私達は見守りましょう」
茜にそう言われ、銃を下ろす恵美と風香。
梨沙は1度深呼吸をしてから、銃を構えた。
「その銃、威力はあるハズだから、とにかく当てる事だけ意識してみれば?」
「当てる事だけ?」
風香に訊き返す梨沙。
「そ。何度も当てるって考えないで、1発だけ当てて仕留めるって考えるの。多分、多少は変わると思うよ」
「やってみる…」
風香に言われた通り、梨沙は先頭の患者に狙いを付けて、1発だけ発砲する。
すると、狙った箇所には当たらなかったが、銃弾は患者の胸部を貫通した。
「あ、当たった…?」
「良い感じだね。慣れてきたら、頭を狙ってみなよ。そうすれば、それだけで仕留められるから」
梨沙はダメ元で、次の患者の頭を狙ってみる。
まぐれかは本人にもわからなかったが、銃弾は患者の眉間に風穴を開けた。
その患者は風香の話通り、倒れて動かなくなる。
「使い辛い銃は使いこなせば強力な物が多いの。頑張ってね」
「うん、ありがとう」
「…別に、教えただけだし」
風香は照れ臭そうに、そっぽを向いてそう言った。
そんな一方、茜と恵美は…
「どう?あの子教え方上手でしょ?自慢の恋人よ」
「どうして同性を好きになるのか、ボクは理解に苦しみますね…」
そんな話をしていた。
「あとどれくらいで着きそう?」
先頭を歩いている茜が、振り返って梨沙に訊く。
「20分か、それくらいで着くと思います。…敵と遭遇しなかったらの話ですけど」
「そう…。駅前まで行っちゃったのがミスだったわね…。却って遠ざかっちゃったわ…」
「でも、ボク達に武器が無かったとしたら、更に掛かってしまうのでは?」
恵美の言葉を聞いた茜は、どことなく不気味に見える笑顔を浮かべて彼女を見た。
「あら、良い事に気付いたわねあなた。好きになって良い?」
「こ、困ります…」
その時、恵美の携帯が鳴り出す。
「誰だ…?」
着信相手は、少し前に連絡を取り合ったばかりの真希だった。
「どうしたんだ?姉貴」
『恵美!学校には来るな!わかったな!?』
「え?」
電話はそこで切れた。
真希から恵美に電話が入る少し前、榊原高校の中で、ある異変が起きていた。
「…何だか体育館の方が騒がしいな」
一同が体育館の横を通り過ぎて、彩達と合流する為に裏口に向かっている時、真希がそう呟いて立ち止まる。
「………」
楓が引き返そうとすると、美由が彼女を引き止めた。
「見にいくの…?」
「怖いんか?」
「…うん」
「なら、ここで待ってろや。ウチと久遠だけで見てくる」
「…え、私も行くのか?」
「当たり前やろ。ほな、行くで」
「しょうがねぇな…」
「待ってください」
恭香が、真希を呼び止める。
「これを持って行ってください」
そう言って渡したのは、凛に借りているアサルトライフルだった。
「…そうだな。ありがたく借りていこう」
「お気をつけて…」
「…あぁ」
2人は体育館へと向かった。
「おい、何だこの騒ぎは?」
入ってすぐに、真希が近くの少女に訊く。
「あそこに居る子が気分が悪いと言って、少し前からずっとあんな様子なんです…」
「気分が悪い…?」
少女が指差した方向を見てみると、腹部を両手で押さえて苦しそうに倒れている少女が見えた。
「何だ…?」
「…まさかな」
「え?」
意味深な言葉を呟いた楓に驚く真希。
その時、体育館の中に、身が凍るような恐ろしい少女の悲鳴が響き渡った。
「行くで。…最悪の事態や」
「は?…おい待てよ!」
走り出した楓を追って、真希も走り出す。
「なっ…!?」
2人が走り着いた場所で見た物は、血まみれの地面と、腹部に大きな穴が開いた少女の亡骸だった。
「な、何があったんだよ!?」
「寄生されてたんやろ。多分な」
「寄生!?」
真希がそう言ったのと同時に、近くに居た少女が突然倒れて呻き始める。
「…この中の何人が寄生されてるんやろうな」
楓は忌々しそうにそう言って、血の痕が続いている倉庫の方へと歩き始めた。
「何だよあいつ…!おい!お前大丈夫か!」
真希は楓の後ろ姿を見て舌打ちをした後、倒れてうずくまっている少女に駆け寄る。
「た…助けて…」
「しっかりしろ!今助けてやる!」
そうは言ったものの、真希は何をどうすれば良いのかわからない。
「苦しい…苦しいよ…助けて…」
「…畜生ッ!」
何もできない自分に苛立ち、思わず吐き捨てるようにそう叫ぶ。
「嫌だ…死にたくない…!嫌だぁ…!」
少女がそう言った瞬間、真希の顔に鮮血が飛び散る。
真希は思わず放心して、少女の腹部を喰い破って出てきた幼体を、しばらくの間呆然と見つめていた。
そしてその瞬間、体育館の中に居る生存者達は、全員が完全にパニック状態に陥った。
辺りの悲鳴で我に返った真希は、少女から這い出てきた幼体を改めて見る。
「野郎ッ…!」
あろうことか、真希は幼体を足で踏み潰した。
「お前ら!全員外に出ろ!遠くに行くんじゃねぇぞ!」
真希の言葉を聞き、生存者達は体育館の外に出始める。
しかしそれは一部の生存者達だけであり、大半の生存者達は既に寄生されていた。
ばたばたと、次々倒れていく生存者達。
その光景には、真希自身も平静を保てなくなりそうになった。
「(畜生、気を確かに持てよ…私!まずは進化しちまう前に幼体を全滅させるんだ!…つーかあいつどこに行きやがったんだよぉッ!)」
気合いを入れ直して、行動に移る真希。
彼女は次々と現れる幼体を、片っ端から撃ち殺していった。
しかし、弾が切れるまで発砲した所で、重大な事に気付く。
「あ、弾貰ってねぇや…」
同時に、2体の幼体が真希に飛びかかった。
「(やべぇ…!)」
思わず、体が固まる。
その時、1発の銃声が鳴り響き、2体の幼体が同時に地面に落ちた。
「え…?」
何が起きたのかと思いながら、辺りを見渡す。
すると、倉庫の方に、スナイパーライフルを構えている楓の姿を見つけた。
「た、助かった…」
安堵の溜め息を吐く真希。
しかし、すぐに気を引き締め直した。
「ちっ…。何安心してんだよ私は!」
再び、幼体の掃討に取り掛かる真希。
しかし、ついに時間切れとなってしまった。
幼体の動きが止まり、1体1体が次々と進化していく。
「マジかよ…!」
真希が何かをする間もなく、全ての幼体が進化を遂げ、成体になってしまった。
「くそ…。まだ来るんじゃねぇぞあいつら!」
真希は携帯を取り出して、恵美に電話を掛ける。
『どうしたんだ?姉貴』
「恵美!学校には来るな!わかったな!?」
真希はそれだけ伝えると、一方的に電話を切ってしまった。
「こりゃ参ったなぁ、久遠」
そう言いながら戻ってきた楓を、真希は睨み付けるように見る。
「てめぇ…一体どこに行きやがってたんだよ…」
「逃げ出した幼体が居たさかい。追ってたんや。…まぁ、逃げられてしもうたけどな。そんな事よりも、さっきのウチの腕前見たか?1発で2体やで」
「…お前後で殴らせろ」
「好きにせぇや。…後でな」
楓がそう言ったのと同時に、捕食者達は一斉に襲い掛かってきた。
第10話 終




