第11話
第11話
"狂気の瞳"
「ほな、まずは扉閉めるで。外に漏れたらアカンからな」
「それってつまり、私達だけでこの数を相手にするって事だよな…?」
「当たり前やろ」
「だよな…」
2人は始めに、出口の扉に向かって走り出した。
「ウチが喰い止めるさかい。お前閉めろや」
「はいよ」
真希は楓に背中を託し、扉の取っ手に付いている鎖を引っ掛けて開かなくする。
その作業は10秒弱程掛かったが、その間に襲ってきた捕食者は全て楓が対処した。
「よし、終わったぜ」
「おう。ほな、次は2階に行くで」
「2階?」
「せや。階段で戦えば多少は楽になるやろ」
「なるほど」
2人は捕食者を避けるように隅を走って、2階への階段を目指した。
「…なぁ朝霧」
到着して階段を登り始めた時、真希が楓に呼び掛ける。
「数が…増えてねぇか?」
「なんやお前、気付いてへんのか?」
「?」
「1つの死体につき幼体1体っちゅうワケやないで。ほれ、見てみぃ」
楓が指差した死体を見てみると、既に1体の幼体が出てきた腹部から、更にもう1体の幼体が出てきた所だった。
「って事は、今居る数だけとは限らねぇってワケか?」
「そういう事や」
そう答えて階段を登り始めた楓を、真希は溜め息を吐いてから追いかけた。
2階と言っても、1階を見下ろせる細い通路があるだけであり、特別大きなスペースなどは見当たらない。
「(追い込まれたら、終わりやな…)」
楓は1階に見える大量の捕食者を見下ろしながら、心の中でそう呟いた。
「ところでよ、弾足りるのか?」
階段を登りきった所で、真希が不意にそう訊く。
「ウチは問題あらへん。お前は?」
「こっちはもう無いぜ」
「…何やと?」
「しょうがねぇだろ…弾貰ってねぇんだから」
「どないすんねん。まさかそんな拳銃だけで戦うつもりやないやろうな?」
「それ以外にどうしろってんだよ」
「ちっ…。こうなりゃ、なるようになれやな」
「マジかよ?」
2人がそうこうしている内に、捕食者達が階段を登ってくる音が聞こえてきた。
「とにかくやるで。弾切れるまでな」
「切れたらどうすんだよ」
「そん時はそん時や。覚悟せい」
「嘘だろ…?」
呆れる真希を無視して、楓は銃を構える。
「…どうなっても知らねぇからな」
「上等や」
2人は次々と階段を登ってくる捕食者を喰い止める為、発砲を始めた。
その頃…
「皆さん…?どうしたのですか?」
外で待っている恭香と美由は、体育館の中に居た生存者達が突然出てきた事に、当然驚いていた。
出てきた内の1人が、恭香の元にやってくる。
「み、峰岸…。寄生されてた人が居たの…!」
「寄生…ですか?」
その時、出てきた生存者の中の1人が、突然倒れてうずくまる。
「まずい…彼女も…!」
少女がそう言った瞬間、捕食者の幼体がうずくまっている少女の腹部から姿を現した。
「ひっ…!」
恭香の背中に隠れる美由。
他の生存者達も悲鳴を上げている中、恭香1人だけは、妙な程に冷静であった。
「…皆さんは逃げてください。裏口を出て進んでいけば、私達の仲間が居るハズです」
「恭香…お姉ちゃん…?」
「美由さんも一緒に行ってください。また後で、お会いしましょう」
「嫌だよ…!危ないよ…!」
「ふふふ…私は大丈夫です。さぁ早く、手遅れになる前に」
「嫌だ…嫌だ!」
「そこのあなた、この子を連れて行ってください」
恭香が近くの少女にそう言うが、その少女も困惑した様子を見せる。
「あんたはどうするのよ…!?」
「私なら大丈夫です。拳銃を持っていますので、それで応戦します」
「け、拳銃…!?」
「ふふふ…。仲間から貰った物ですよ。…とにかく今は急いでください。お願いします」
頑なに避難を促す恭香に押し負けた少女は、美由の手を握り、恭香にこう言った。
「絶対、死ぬんじゃないわよ…!」
「ふふふ…。わかっていますよ」
「…行くよ!みんな!」
その少女が裏口に向かって走り出したのがキッカケとなり、生存者達は全員その場を後にする。
美由はその間も、恭香の事を見つめていた。
「…さて」
生存者達の姿が完全に見えなくなった所で、恭香は振り返って幼体を睨む。
同時に、その幼体は進化を始め、成体となってしまった。
普段は優しい穏やかな表情の恭香も、今は真剣な表情になっている。
「(ふふふ…。拳銃なんて、持ってませんよ)」
不気味な笑みを浮かべた恭香の瞳には、狂気が孕んでいた。
一方…
「…あれ?捕食者、出てこなくなりましたね」
捕食者が湧き出てくるマンホールの付近で交戦していた、彩と凛の2人。
いつの間にか、辺りに捕食者は居なくなっていた。
「枯れたのかしら?…それとも、諦めたのかしら」
「枯れたと信じたい所ですね…」
そこに、体育館から避難してきた生存者達がやってくる。
「あらら?みんな揃ってどうしたの?」
「実は…」
美由の手を握っている先頭の少女が、現状を2人に説明した。
「なるほど…。体育館に居る2人は大丈夫だとして、恭香ちゃんが心配ね」
「(大丈夫だとして…?)」
苦笑する凛の隣を通り過ぎて、体育館の方へと戻り始める彩。
「見に行くんですか?雪平さん」
「えぇ。あなたは彼女達を見ててあげてね。私1人で行ってくるわ」
「わかりました。お気をつけて」
彩は凛に微笑みかけた後、その場を離れた。
「峰岸、大丈夫なのかな…」
美由の手を握っている少女が、不意にそう呟く。
「大丈夫だとは思うわよ?私の銃を貸してあるからね」
「そうなんですか?」
「うん。これぐらいの大きさのライフルを貸したの」
それを聞いた少女は、訝しげな視線で凛を見た。
「そんな銃…持ってませんでしたよ…?」
「…え?」
「真希お姉ちゃんが体育館に行く時に渡してたよ。恭香お姉ちゃん」
凛の額に、冷や汗が浮かんでくる。
「って事は…丸腰…!?」
「でも、峰岸は拳銃を持っていると言いましたけど…」
「…多分それは、みんなを安心させる為の出任せだよ」
「え…!?」
「まぁ、雪平さんが向かったから、大丈夫だと思うけど…」
そうは言ったものの、恭香が心配な凛は、顎に手を当てて彷徨き始める。
しかしその時、とある別の事が頭に浮かび、凛は立ち止まって体育館の方を見た。
「(あれ…?峰岸…恭香…?)」
彩が到着する前に、捕食者は恭香に襲い掛かる。
「………」
恭香は目を細めて捕食者を睨むと、左足を前に出して身構えた。
そして、捕食者が掴み掛かろうとした瞬間、恐ろしい速度で恭香の右足が捕食者の首を捕らえる。
蹴られた捕食者は衝撃で体勢を崩し、手摺りに頭部をぶつけて内容物を辺りに飛び散らした。
恭香は油断せずに、幼体がもう1体居る事に気付き、そちらに体を向ける。
幼体は恭香に威嚇すると、彼女の頭部に噛みつこうと飛びかかってきた。
恭香は右足を大きく上げて、幼体を下から蹴り上げる。
幼体は空中に吹っ飛び、地面に叩きつけられるように落下すると、そのまま動かなくなった。
「…ふぅ」
全滅を確認した恭香は、肩の力を抜いて安堵の溜め息を吐いた。
「…え?」
現れた彩が、溶け始めている捕食者の死体を見て呆然とする。
「ふふふ…。遅かったですね」
恭香の表情は、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「えーと…。これ、あなたがやったの?」
「いいえ、と言ってもバレてしまう事なので、肯定します」
「どうやって…?」
「実は私、空手の心得がありまして…」
「か、空手…!?素手で倒したの!?」
「際疾い所でしたけどね」
上品っぽく笑う恭香。
にわかには信じられない事に相対した彩は、気が抜けたように笑っていた。
その時、体育館の2階の窓が突然割れて、2人のすぐ側に大量のガラスの破片が落ちてくる。
「な、何…!?」
彩が上を見上げたのと同時に、割れた窓から真希と楓が飛び降りてきた。
「ふぅ。危機一髪やったな」
「もうお前とは二度と組まねぇ…」
「そりゃ残念や」
「あ、あなた達…」
困惑しながら2人に話し掛ける彩。
すると、楓が歩き出しながら、恭香と彩にこう言った。
「とりあえずここから離れようやないか。仲良く喋ってられる程、安全な場所ちゃうで」
「奴ら、まだ居るの?」
「全滅はウチらだけじゃ限界があったさかい。逃げ出させてもろうたわ」
「それであんな所から飛び降りてきたってワケね…」
彩はそう言って、2人が出てきた窓ガラスに視線を移す。
すると、その窓ガラスから、捕食者が顔を出してこちらを見下ろしてきた。
「あらら…。どうもこんばんは…」
「バカ!逃げるぞ!」
真希を先頭に、3人もその場から走り去った。
「…そういえば、梨沙ちゃん達はどうしたのかしら」
「あ…」
彩の呟きを聞いて、思わず立ち止まる真希。
「…真希?」
「さっき恵美の奴にこっちには来るなと連絡したんだが、戦闘中だったから合流する場所とか伝えてないままなんだよ…。急いで連絡しねぇと…」
携帯を取り出す真希。
しかし…
「…?」
今度は、恵美が電話に出なかった。
第11話 終




