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第48話


第48話

"十人十色"


榊原町で起きた、一連の騒動。


国が取った対処は、和宮町の時と全く同じものであった。


一同が町から脱出して、1日が経過した翌日の正午。


「こうしてまた、1つの事件が闇に葬られたワケか…」


「またって…どういう意味です?」


特殊兵器対策部隊の本部の屋上に、結衣と梨沙の姿があった。


「和宮町での騒動、知ってる?」


「おおまかな内容なら」


「それなら話は早いや。その事だよ」


「…?」


「和宮町での騒動も、結局国が隠してね。真相は公表されずに握りつぶされたの」


結衣の話を聞いた梨沙は、眉をひそめて訝しげに彼女を見つめる。


「…本当ですか?」


「本当だよ。…とは言っても、今の話は全部姉御の推測なんだけどね」


「姉御?」


「あぁごめんごめん。優子さんの事。…つってもわかんないかな?」


「いえ、雪平さんから聞きました。ここの部隊の方ですよね?」


「そーそー。あの人、おっとりしてるようで、洞察力はかなりのものだからね。考えは間違ってないと思う。…あ、その雪平さんって人、大丈夫だったの?」


彩の腕の事を思い出し、心配する結衣。


「義手を付けるそうです。勿論、リハビリが必要なんで、普通に生活ができるようになるまでは時間が必要みたいですけど…」


「そっか…」


そこで、2人の会話が一旦途切れる。


2人は屋上から見える景色をぼーっと見つめているだけであったが、しばらくすると、結衣が再び口を開いた。


「…梨ぃちゃんはさ、今回、何の為に戦った?」


「…はい?」


質問の意味がわからず、聞き返す梨沙。


「いや、そのままの意味。何かを守る為?生き残る為?」


「………」


「…梨ぃちゃん?」


「…わからないです。でも、戦ってみて、銃を手にしてみてわかった事はあります」


「それは?」


「…私は戦いたくないんだ、って」


「………」


押し黙る結衣。


「元々、誰かと何かを争うっていうような事が嫌いだったんです。…いや、嫌いになったのかな」


「と言うと?」


「最初は良かったんですよ。テストで1位になればそのままその結果が成績に残るし、部活で良い結果を出せば褒められて、周りからも尊敬される」


「なら、良いんじゃないの?」


「…でも、寂しくなっちゃって」


「…え?」


「少なからずは、そういう結果を妬む人だって居るんだって、最近気付いたんです。そうすると、その人は私に追い付こうと必死に努力する事になる」


「良いことじゃないか。切磋琢磨ってね」


「…私は嫌です。だってその人は、私には追い付けないから」


結衣は驚いた様子で、梨沙を見た。


「…随分な物言いだね。そりゃあ」


「凡人は天才には勝てない。と、雪平さんから聞いた事があるんです。自覚はありませんが、私は凡人ではないみたいなので」


「…まぁ確かに。凡人なら、私よりも足が速いなんて事は有り得ないしね」


「………」


「何だねその目は」


「いえ別に…」


再び、会話が途切れる。


沈黙を破ったのは、またも結衣であった。


「それで良いと思うけどな。大事なのは結果じゃなく、努力する事そのものなんだから」


「…その人は良いとしても、私が耐えられない」


「ほう?」


「追い付けないとわかっていながら、必死に努力する姿を見ているだけだなんて…私にはできない…」


「じゃあアドバイスでもなんでもしてやりゃあ良いじゃないの。見てるだけじゃなくてさ」


「そんな事したら、余計ダメじゃないですか」


「どうして?」


「自分で気付かないと、成長できないから…です…」


「偏見だね。そりゃあ」


結衣は即答した。


「確かにキミの言ってる事は間違ってない。でも、少し勘違いをしてる」


「勘違い…?」


「自分で気付けない事だってある、って事さ。それを他の人に教えて貰えば良いだけの事」


「でも…」


「要は自分で理解をすれば良いの。理解は、自分でなければできない。そうでしょ?」


「………」


「人に教えられ、理解して、自分の力にする。それって、理想のサイクルだと思わない?」


梨沙は他人の意見には聞く耳すら持たずに、持論を曲げない事が多い。


しかし、結衣の言葉には、素直に頷いた。


「…結衣さんの言う通りですね。私が間違ってました」


「キミの意見は決して間違っては無いよ。…っと、何か教師みたいな話し方しちゃったね。ごめん」


「いえそんな…。むしろ、嬉しかったです…」


「嬉しかった?」


「はい。雪平さん以外の方の話に納得したのは、結衣さんが初めてなので…」


「頑固者だねぇ?人の意見は尊重するもんだよ~?」


「はい…。えへへ…」


その時、屋上の扉がゆっくりと開く。


2人がその音を聞いて扉の方を見てみると、そこには晴香が居た。


「おはようございます。結衣さん。先輩」


「おはようハルちゃん…って、先輩?」


2人の関係を知らない結衣が、晴香の言葉を聞いて驚く。


「バイトの先輩と後輩って関係です」


すかさず、梨沙が教える。


「あ、そうだったの。って事は、梨ぃちゃんもパン屋さんの看板娘って事か」


「バイトです」


「看板娘?」


「バイトです」


「看板…」


「バイト」


「おぉ」


2人に用があってやってきた晴香は、用件を頭の中で整理しながら、話し始める。


「えーと…。まず、お2人に話しておきたい事がありまして。一昨日の件です」


「はいはい。何かな?」


「と言っても、既にご存知だとは思いますが…。榊原町は和宮町同様、国の指示によって隔離されました。勿論、簡易なフェンスではありますけど…」


「簡易なフェンス…?」


和宮町の様子を実際に見た事は無い梨沙が、オウム返しにそう訊く。


「まーその辺は割愛しましょう。簡単には説明できない事だから…ね!」


「…?」


首を傾げる梨沙に晴香は説明しようとも思ったが、結衣の意図を汲み取り、話を続けた。


「…続けますね。町に居た患者、及び捕食者は、私達が町に居た翌日に、突然姿を消したそうです」


「そりゃびっくりだね…」


「有紀奈さんの推測では、統制していた上位兵器"D-03"が生命活動を停止した事によって、町から姿を消し、何処かへと身を隠した…との事です」


「身を隠した…ですって?」


「はい。私にはわからないんですけど…有紀奈さんがそう言ってましたよ?」


「ふーん…」


梨沙は無愛想に、返事を返した。


「沢村姉妹はどうなったの?」


結衣が訊く。


「…行方不明です。部隊の中に、姿を見たと言う方もいらっしゃるんですが、真偽は何とも…」


「そっか…」


3人が黙り込み、その場が気まずい雰囲気になる。


「あ…!あと、伝言があります!」


慌てて思い出したように、晴香がそう言い出した。


「伝言?誰からだい?」


「結衣さんには有紀奈さんから、"話したい事があるから、後で地下資料室に来て頂戴"…です」


「それマジ?」


「はい。…何だかやけに真剣な様子でしたよ」


「…ばっくれようかな」


「あ、あはは…」


結衣の様子に苦笑した後、晴香は梨沙に向き直る。


「先輩には妹さんから、"早く来てよ!"…です。とっても可愛い妹さんですね」


「まぁ…子供っぽくてわがままなんだけどね…」


「えへへ…。だから可愛いんじゃないですか!…それに比べてウチの妹は…」


「そ、そんな溜め息吐かなくても…良いんじゃない…?」


途轍もなく大きな溜め息を吐いた晴香を見て、困惑する梨沙。


「…でも、あの子もあの子なりに可愛い所はあるんですけどね」


「そう。なら良いじゃない。姉妹は仲良くあるべきもの…よ」


「ただ強いて言うなら、もう少し家事を手伝ってほしいですね。あと、年上には敬語を使ってほしいですし、誰に対しても喧嘩腰な性格も治してほしいです。あと、もうちょっと素直になってほしいというのがありましてね。まぁあの子の根本的な性格はどうにもならないと私も思っていますけど。それでも相手の事を考えながら発言や行動をして欲しいとは思ってますね。"これをやったら相手は嫌な思いをするだろうな"という事を考えなければ相手を傷つけてしまうじゃないですか。それなのにあの子はそういうような事を…」


「わかったわ…!わかったからもう止めてあげて…!」


晴香の苦労は計り知れない。


梨沙は心底、同情した。



「そんじゃ行くかな…。遅れたらまた面倒な事になりそうだし…」


身体を伸ばして大きな欠伸をしてから、屋上の出口へと向かう結衣。


「結衣さん!」


彼女を、梨沙が呼び止めた。


「んー?」


「ありがとうございました」


「…何に対してだろう?」


「先程のお話、とてもタメになったので、そのお礼です」


すると、結衣はいつになく照れ臭そうに鼻で笑って、背を向けたまま右手を軽く上げ、屋上から出て行った。


「先輩。どんな話をしてたんですか?」


「ん、まぁ…その…」


興味津々な晴香の表情に、少し困惑気味の梨沙。


「タメになる話…だよ」


「それはさっき聞きましたよ。…って、待ってくださいよ!」


梨沙と晴香も、屋上を後にした。



「あ、晴香ちゃん。おはよう」


屋上から降りてきた2人の元に、偶然茜が通りかかる。


「おはようございます、茜さん。…今日は早いですね」


「うふふ…。昨日寝たのが早かったから、こんな時間に目が覚めちゃったの」


「そうだったんですか。…あ、お2人は既に顔見知りですか?」


晴香が梨沙と茜を交互に見ながら、2人に訊く。


「えぇ。…銃の時は、ありがとうございました」


「気にしないで。私は立て替えただけよ」


「ですが…」


「勿論、払って貰う物は払って貰うわよ?お金とは言わないけど」


「え?」


「うふふ…。ねー梨沙ちゃん…?」


「な、なんですか…?」


「お金が無い場合はどうするか…聡明なあなたなら…わかるわよね…?」


「な、なな、なにを言っているのか…さっぱりわかりませんね…」


「とぼけちゃってぇ…」


「そこまで!」


茜が梨沙の顔に手を伸ばした瞬間、3人の背後から、誰かが走ってくる。


「この気配…!風香ちゃんタイムッ…!?」


「ちぇすとっ!」


そしてその誰かは、茜の背中に、強烈なドロップキックをお見舞いした。


「ふぅ…。間に合った…」


言うまでもなく、現れたのは風香。


「ふ、風香…?どうしたのよ…?」


「いや、またあの変態が何かをやらかそうとしていた気がしてね。ダッシュで駆けつけてきたの」


「(恐ろしい第六感ね…)」


そこで、風香に蹴られて数メートル吹っ飛んだ茜が、ふらつきながら戻ってくる。


「流石ね…。猫背気味だった姿勢が治った気がするわ…」


「どういたしまして」


「褒めては無いわよ…?」


「そうなの?」


そんなやり取りを見て、呆れたように苦笑する晴香と梨沙。


「あはは…。気にしないでくださいね…。いつもの事ですから…」


「わかってるわ…何となく…」


2人は茜と風香を放っておいて、その場から静かに離れた。



「…ねぇ、晴香ちゃん」


寄宿舎への外通路の前までやってきた所で、梨沙が不意に立ち止まる。


「何ですか?」


「理想の姉って、どんな人間だと思う?」


「…え?」


予想外の質問に、面食らう晴香。


「優しければ良いのか…厳しければ良いのか…。時々、わからなくなるの」


「………」


晴香はしばらく黙り込んで梨沙を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。


「そんなもの、無いと思いますよ」


「…え?」


「美由ちゃんから見たら先輩は理想のお姉さんだとしても、風香や亜莉栖ちゃん、恭香さんや恵美さん、茜さんや明美さんにとっては、そうじゃないかもしれません」


「…なるほどね」


晴香の言葉を聞いた梨沙は、小さく笑って晴香を見る。


「人の意見って、やっぱり素晴らしいものなのね」


「はい…?」


「なんでもないわ…。じゃあね」


「あ、あの…どちらへ…?」


「決まってるじゃない」


梨沙は寄宿舎への外通路を歩き始めながら、こう言った。


「理想の妹の元に…ね」


第48話 終




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