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第47話


第47話

"姉妹の意見"


袋小路に突き当たり、明美に追い詰められてしまった梨沙。


逃げ場を失った彼女は、あろうことか、明美に向かって走り出した。


「そう…。やっと覚悟を決めたのね」


走ってくる梨沙に対し、身構える明美。


しかし、梨沙には戦う気など、微塵も無かった。


明美の目の前までやってきた所で、突然、跳躍する梨沙。


そして、彼女の頭に手を掛けて、そのまま彼女を飛び越えてしまった。


「な、何ですって…?」


梨沙に利用された自分の頭を手で触りながら、しばらく呆然とする明美。


我に返って梨沙を見た時、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、明美にこう言った。


「えへへ…。それじゃ、また!」


「ま、待ちなさい…!」


すぐさま、追い掛ける明美。


しかし、1つ目の曲がり角を曲がった時点で、彼女の姿は既に見えなかった。


「くぅ…ッ!覚えてなさいよ…!」


明美は腹いせに近くの建物の壁を蹴りつけた後、ずかずかとその場から離れていった。


尚、その建物の中には…


「(あーびっくりした…。バレたかと思った…)」


梨沙が隠れていた。



その後、明美の追跡が無くなった梨沙は、歩いて美術館へと向かう。


道中、緊張が解けた事からか、梨沙は歩きながら溜め息を吐いた。


「(やっぱり無謀だったよね…。話し合いで何とかなる人じゃ無かったか…)」


心の中でそう呟くと、殴られた際に口の中を切った事を改めて思い出し、同時にその痛みも思い出す。


「(痛ッ…。明美さん…結構本気だったよね…。そんなに歩美さんの事を言われるのが嫌だったのかな…?)」


歩美の明美を思う気持ちを、同じ姉として汲み取った梨沙は、やはり2人の仲を心配してならない。


何より、誤魔化された質問の答えが、気になって仕方がなかった。


「(歩美さん…無事なのかな…)」


他人であるハズの歩美の事を、何故ここまで気になってしまうのか、自分でもわからない。


しかし、これだけは確信を持って言う事ができた。


「(歩美さんは…妹思いの優しいお姉さんだな…)」


数分後、梨沙は美術館に到着した。




「あ、梨ぃちゃん!」


一番早く美術館に到着した梨沙に気付いたのは、結衣であった。


それに伴い、他の一同も彼女に気付く。


「…彼女がさっき言ってた生存者?」


有紀奈に訊かれ、結衣はへらへらと笑いながら答える。


「えぇ。沢村明美に狙われた話題の美少女、綾崎梨沙ちゃんですよ」


「あ、明美に…?一体どうして…?」


「まーまーその話は町を出てからに致しやしょう!飯でも食いながら…ね!」


「さてはそっちが本命ね…。まぁいいわ…」


有紀奈は呆れた様子で溜め息を吐いた後、梨沙の元へと歩いていった。


「特殊兵器対策部隊第2分隊分隊長の速水有紀奈よ。…っと、こんな肩書き聞かされてもワケがわからないわよね。ごめんなさい」


「は、はぁ…」


困惑する梨沙に構わず、有紀奈は勝手に話を進める。


「怪我は無いわね?話を聞きたいから、部隊の本部に同行して頂戴」


「あの…」


そんな有紀奈に、梨沙は思わず口を挟んだ。


「何?」


「助けに来てくれた…って事で良いんですよね…?」


「勿論。それが私達の仕事よ。さぁ、行きましょうか」


「はい…」


歩き出す有紀奈であったが、いまいち状況が飲み込めず、困惑が消えない梨沙。


すると、そこに結衣がやってきて、有紀奈を見ながら囁くように梨沙にこう言った。


「大丈夫。あの人胸は小さいけど、信頼できる人だから」


「む、胸…ですか…?」


「うん。見た感じ、梨ぃちゃんの方が…」


「聞こえてるわよ。大神結衣」


「あ、私死んだな」


「…?」


梨沙は更に困惑した。




その後、一同はヘリに乗り込み、特殊兵器対策部隊の本部へと向かう。


到着するまでの間、結衣が有紀奈に今回の騒動についての話をしていた。


「…つまり、沢村姉妹の姉妹喧嘩だと言いたいの?」


「…マジですよ?」


しかし、死んだハズの歩美の妹の話や、葵が自分達には気付かれないように晴香を連れ出していた事の理由などを一度に聞かされた有紀奈は、ただただ呆れたような様子であった。


その時、有紀奈の無線が鳴り出す。


「私よ」


『有紀奈?私、優子だけど…』


無線の相手は、優子であった。


「優子?どうしたのよ」


『今、また新しい怪我人が運び込まれてきたんだけどね…。ウチの治療道具が底を尽きそうなのよ…』


「治療道具が?」


『そうなの。だから一旦、ウチに車を回してもらえないかしら?トラックを2台ほどね』


「…白波町の町中に、突然部隊のトラックを走らせるのはマズいと思うけど?」


『それはわかってるわよ…。でも、一刻を争うの。頼むわ』


「そうは言ってもね…。私達が榊原町に来た事自体、かなりマズい事なのよ?その上トラックを出せだなんて…」


『…言い忘れてたけど、運び込まれてきた怪我人の中に、神崎葵が居るわ』


「…葵が?」


『えぇ。それに、腹部に大きな刺傷を負ってる朝霧楓。更には片腕を切断された女性も居るの。…わかるわね?人の命が懸かってるのよ』


有紀奈はそこでやっと、事態の緊急性を理解した。


「…わかったわよ。何とか掛け合ってみるわ」


『恩に着るわ!急いでね!』


「はいはい…」


有紀奈は無線を切って、大きな溜め息を吐いた。


「これはクビ確定ね…。明日からどうしましょう…」


「た、大変っすね…」


「まぁ緊急だし…わかってくれるわよ…。きっと…多分…」


「(暗っ…)」


結衣は特殊部隊の厳しさを、改めて目の当たりにしたような気になった。


そんな一方、ヘリの後部の方で、窓の外から見える榊原町を無心で1人眺めている梨沙。


「………」


彼女は本当に何も考えずに、ただ変わり果てた町を見下ろしていた。


「綾崎さん」


いつの間にか隣に座っていた恭香が、不意に梨沙に呼び掛ける。


梨沙は少し反応が遅れ、慌てた様子で恭香の顔を見た。


「な、何…?」


「ふふふ…。いえ…ただ、何を考えていらっしゃるのかなと思いまして…」


「…別に、何も考えてなかったわ」


「あら…。そうだったのですか?」


「本当よ…。ただ、町を見てただけ…」


「………」


恭香も、窓の外に視線を移す。


「…大きな出来事でしたね」


恭香はそう呟いてしばらくの間梨沙の返答を待ったが、梨沙は何も言わなかった。



その後、ヘリが本部に到着する数分前、結衣がふと、ある事に気付く。


「…あれ?」


「…何よ。嫌な予感しかしないじゃないの」


苦笑を浮かべる有紀奈。


「いやぁ…ちょっと…何というか…」


結衣は曖昧な口調でそう言いながら、後部に居る一同の顔を見回す。


窓の外を眺めている梨沙と、彼女にもたれかかって寝息を立てている恭香。


そして、治療を必要としている者達、玲奈、紗也香、亜莉紗の3人。


「………」


結衣はしばらく黙り込み、何かを思い出そうとしているのか、唸りながら辺りをうろつき始める。


数秒後、結衣は苦笑いを浮かべながら、有紀奈にこう訊いた。


「風香ちゃん…知りません…?」


「…え?」




その頃…


「どうして…生きているのかしら…」


「ふふふ…。それは私に向けて言っているのですか?それとも御自分に?」


廃ビルの屋上から明美を抱えて飛び降りた歩美と、倒れている彼女を偶然見つけた恭子。


歩美は何故か、廃ビルから少し離れた空き地に倒れていた。


「自分に向けて…よ。10階建てのビルから落ちて死なないハズが無いじゃない」


「仰る通りですが…。人外であるのなら、そうとも限りませんよ?」


「…私はまだD細菌を使ってはいないわよ」


「違いますよ。あなたではなく、あなたの妹様の話です」


「………」


どういう事だ、と、無言で恭子を見つめる歩美。


「落下する際の事、覚えていらっしゃいますか?」


「…いいえ」


「ふふふ…。きっと、落下の直前に、あなたの妹様が下敷きになったのでは?それなら、あなたが生きている事にも納得できます」


「そ、そんな事…」


「有り得ない…とでも?」


「…えぇ。私達は殺し合おうとするような仲よ。奴が私を助けるようなマネ、するワケが無いわ」


「では、あなたはどうして生きているのでしょうか?」


「………」


押し黙った歩美を見て、恭子は静かに笑った。


「ふふふ…。お互いが素直になれば、その姉妹は仲の良い姉妹になれる…だそうですよ」


「誰の言葉…?」


「ふふふ…。世界一仲の良い姉妹の姉の言葉です。…では、私はこれで」


「ま、待ちなさい…!」


呼び止める歩美であったが、恭子は立ち止まらずに、その場から去っていった。


「な、何よアイツ…。仲の良い姉妹…なんて…」


「素直になっちゃえば?」


突然聞こえた声に驚き、辺りを見回す歩美。


物陰から出てきたのは、風香であった。


「赤城風香…?」


「…フルネーム?」


「…何の用?」


「…ま、いいや」


結衣達と共に行動していたハズの風香がここに居る理由。


それは、恭子に関係していた。


「美術館で恭子さんを見つけて、こっそり抜け出して後をつけてったら、こんな状況に遭遇しましたとさ」


「何の用だと訊いているのよ」


「相変わらず高圧的だなぁ…。そんなんじゃ妹さんも良いようには思わないに決まってんじゃん」


風香の態度に、機嫌が悪くなる歩美。


「…喧嘩を売りに来たの?」


「別にそんなんじゃないけどさ。ただ、1つだけ話しておきたい事があってね」


「あなたの話なんて聞く価値があるのかしら?」


「じゃあ私の独り言って事にして。聞くも自由だし、聞かないも自由」


「………」


呆れたように溜め息を吐いた歩美を見て、風香は話を始めた。


「妹が姉に迷惑を掛ける時って、姉にかまってもらいたいだけなんじゃないかな」


「…何ですって?」


いきなり、話に突っ込む歩美。


「明美さんだってきっとそうだよ。歩美さんに怒られたいから…かまってもらいたいから、こんな事をしたんだと思う」


「そんな理由で…」


「十分な理由だと思うけどな。だって明美さんは、歩美さんの妹だもん」


「………」


歩美はしばらく黙り込んだ後、力無く笑ってこう言った。


「かまってもらいたいから…か。あなたが言うと、説得力あるわね」


「ど、どういう意味よ…!」


「うふふ…。別に、大した意味は無いわよ」


「何それ…。意味わかんない…」


「だから言っているでしょう?意味は無いって」


「う、うるさいなぁさっきからぁ!もういい!私帰るから!」


「えぇ、そうしなさい。呼び止めた覚えなんて無いわよ」


「うぅ…!もう知らない!」


ずかずかと歩いて、その場から離れようとする風香。


「待って」


しかし、歩美が呼び止める。


「…まだ何か?」


「1つだけ言っておきたい事があったわ。赤城風香」


「何よ」


「…ありがとう」


「…え?」


風香はきょとんとして、歩美を見つめた。


「それだけ。さぁ、行きなさい。晴香ちゃんによろしく言っておいてね」


「う、うん…。わかった…」


何かを訊きたそうな表情ではあったものの、風香はすたすたと歩いていってその場を後にする。


歩美は彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見届けた後、すっかり明るくなった空を見上げ、こう呟いた。


「かまってもらいたいから…か」


第47話 終




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