表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

第46話


第46話

"伝えたい事"


D-03を撃破する事に成功した、恭香と有紀奈率いる特殊兵器対策部隊の隊員達。


しかし、今から記述する話は、それよりも少し遡り、梨沙と恭香が美術館から離れた直後の時の事である。



怪我人を連れて美術館から離れた2人であったが、特殊兵器対策部隊のヘリが美術館に着陸した事に気付き、2人は再び美術館へと戻り始めた。


しかし、歩き始めて間もない内に、梨沙が立ち止まる。


「…峰岸」


「何でしょう?」


恭香も足を止めて、振り返る。


「頼みがあるの」


「頼み…ですか?」


「えぇ。…先に美術館に向かっててくれないかしら?」


恭香は梨沙の言葉を聞いて、首を傾げた。


「…はい?」


「私、ちょっと寄りたい場所があるの。藤堂さんはもう歩けそうだし、上条さんだけあなたがおぶってくれれば、問題は無いハズよ」


恭香はしばらく梨沙を見つめた後、目を細くしてこう訊く。


「…どこへ行くのですか?」


「それは…」


「私達には言えない場所ですか?」


「………」


「ふふふ…。無言は肯定と同じですよ。綾崎さん」


「…ごめん」


「謝る必要はありませんよ。…どうしても、言えないのですか?」


「…うん」


「そうですか…。ふふふ…」


恭香はいつものように小さく笑った後、梨沙に笑みを見せながらこう言った。


「わかりました。怪我人は私にお任せください」


「…ありがとう」


梨沙は恭香と紗也香に軽く一礼をして、すぐに走ってその場から離れようとする。


「綾崎さん」


「…?」


「無茶な事は…しないでくださいね…?」


鋭い目つきでそう言った恭香を、梨沙はしばらくの間、無言で見つめる。


「………」


梨沙は何も言わずに、走り出した。



そして話は恭香達がD-03を撃破した頃に戻り、その時梨沙は、美術館から少し離れた場所にある、小さな空き地に居た。


そこで、1人でに喋り始める。


「居るのはわかってますよ。さっきあなたの姿を見たんですから。…出てきてください」


何も、現れない。


「…明美さん」


しかし、梨沙がその名前を呟いた瞬間、近くの物陰から、傷だらけの明美がゆっくりと出てきた。


「…何の用?」


「歩美さんは…あなたのお姉さんは、どうなったんですか?」


「あなたに教える義理は無いと思うのだけれど」


「…それもそうですね」


そう言った梨沙を見て、明美はどうして彼女が自分の元にやってきたのかが、ますますわからなくなる。


「…冷やかしにでもきたの?」


「冷やかすって…何を?」


「…私達姉妹の仲を」


梨沙は心外な事を言われ、少し不機嫌になる。


「勝手な事言わないでください。そんな事して私に何の得があるって言うんですか」


しかし、不機嫌になったのは、明美も同じであった。


「それじゃあ一体何なの?」


睨み付けられ、少し怯む梨沙。


それでも、梨沙は明美から視線を外さなかった。


「…どうしても明美さんに、伝えたい事があるんです」


「…伝えたい事?」


「はい。あなたは大きな誤解をしてるから」


明美はそれを聞き、鋭い目つきで梨沙を睨み付けたまま、彼女に向かって歩いていく。


そして、梨沙の顎を乱暴に持ち上げ、彼女の顔をのぞき込むように見ながらこう言った。


「生意気ね」


「…離してください」


「あなたも1つ、誤解をしてるわ」


「…?」


明美は梨沙の顔を妖しく撫で回しながら、不気味な笑みを浮かべる。


「私がその気にさえなれば、あなたは断末魔すらも発さずに死ぬ事になるわよ」


「ッ…」


「どう?少しは今の自分の状況を理解できたかしら?」


「………」


梨沙は恐怖に震えたが、目つきだけは変わらなかった。


「…話をそらさないでください。私は話がしたいだけです」


「怖くないの?」


「怖いですよ」


梨沙の即答に、明美は思わず笑ってしまう。


「面白い子ね…。何だか意地悪してみたくなってきちゃったわ」


「意地悪…?」


「そう…。意地悪…」


明美は言葉を繰り返し、突然、梨沙の首に手を掛ける。


そして、彼女の首を締め始めた。


「ッ…!?」


「本当に殺しはしないだろう…とか思った?」


「離し…て…!」


梨沙は明美の手を両手で掴んで解こうとするが、既に人間ではない明美の力になどかなうはずもない。


「残念だけどね、私にはあなたを生かす理由なんて無いの。だから今絞め殺したって、何の問題も無いのよ?」


「う…ぁ…」


首を締める右手に、更に力を込めていく。


「うふふ…。そのまま眠ってしまいなさい…」


梨沙の意識は、朦朧とし始めていた。


しかし、彼女が本当に気を失ってしまう寸前で、明美はわざと力を抜く。


そのお陰で、梨沙は気を失う前に彼女の手を振り解く事ができた。


「はぁ…はぁ…。いきなり何を…するんですか…!」


「首を絞めたのよ」


「そんなのわかってます…!」


「うふふ…。さっき言ったでしょう?意地悪したくなったって」


「な…何ですかそれ…」


質の悪い明美の悪戯に、梨沙は更に不機嫌になる。


その結果、感情的になった彼女は、言いたい事を恐れる事なく言う事に決めた。


「…私達の事、嫉妬してたって言いましたよね?」


「…え?」


突然何を言い出すのかと思い、唖然とする明美。


「お互いに仲良くしようと思わなければ、その姉妹は絶対に仲の良い姉妹になんかはなれません。それは前に言いましたよね?」


「な、何を言ってるの…?」


「…私はあなたにこう言いたいです」


梨沙は呼吸を整えた後、明美に向かってこう言った。


「お姉さんの事を理解しようとすらしない癖に、私達に嫉妬なんかしないでくださいッ!」


「ッ…!」


梨沙の強気に、思わず面食らう明美。


「歩美さんはあなたの事を心配してるじゃないですか…!それなのにどうしてあなたはその気持ちに応えようとしないんですか…!」


「だ、黙りなさい…!あなたに何がわかると言うのよ…!」


「わかりますよ…!少なくとも歩美さんの気持ちはわかります…!」


「知ったような口を聞かないで頂戴!どうしてそんな事を…!」


「私も姉だからに決まってるじゃないですかッ!」


梨沙のその言葉は、明美を一瞬で黙らせた。


「私には美由が居ます。この世にたった1人しか居ない、大切な妹です」


「そ、それが…何なのよ…?」


「歩美さんにとっては、あなたがたった1人の妹なんですよ。たった1人しか居ない妹を悪く思う姉なんて、この世には居ないと思います」


「ふん…。反吐が出るような綺麗事ね…」


「確かにそうかもしれません。でも、少なくとも私はそう思ってますよ。…歩美さんは、死んだと思っていたあなたが生きていて、この上なく喜んだハズです」


「ッ…!」


我慢の限界に達した明美が、突然梨沙を殴り倒す。


かなり強烈な一撃を不意に貰った梨沙であったが、彼女はすぐに起き上がった。


「…殴ったって事は、本当は自分でもわかってるって事ですね。それなら、素直になっちゃえば良いじゃないですか」


「………」


「あなたが歩美さんの気持ちに気付こうとさえすれば、あなた達は…あなた達が理想としてる仲の良い姉妹になれます」


「………」


「それは、私が保証します」


俯いたまま、何も言わない明美。


彼女はしばらくの間黙り込んでいたが、不意に梨沙を見て、こう訊いた。


「…あなたは妹の事を大切に思っているの?」


「はい。当然です」


迷う事なく、即答する梨沙。


すると、それを聞いた明美が、梨沙に歩み寄りながらこう言った。


「なら、その気持ちを私に証明してみなさい。そしたら、あなたの言う事を聞き入れてあげるわ」


「証明…?何をすれば良いんです?」


「私と戦うのよ」


「…え?」


梨沙は思わず、耳を疑った。


「大切な妹の為なら、何でもできるんでしょう?例えそれが、死を覚悟しての戦闘だろうが…ね」


「わ、私にはあなたと戦う理由なんてありません…!」


「私にはあるのよ。あなたが言った言葉が本心なのかどうか、確かめたいの。でも、安心しなさい。一瞬で殺すようなマネはしないであげるから」


「そ、そんな…!待ってくださいよ…!」


狼狽する梨沙を無視して、明美は彼女の腹部を容赦なく蹴りつける。


何の抵抗もできなかった梨沙は、蹴られた腹部を手で押さえながら地面に倒れた。


「ほら、どうしたのよ。その銃は飾りなの?戦わなければ死ぬだけよ?」


明美はまともに呼吸すらもできなくなっている梨沙の髪の毛を引っ張って、強引にこちらを向かせる。


「離して…ください…」


「断るわ。さぁ私を殺してみなさい」


「私には…そんな事をする…理由なんて…」


「まだそんな事をのたまわるの?」


明美は梨沙の身体を起こし、先程蹴りつけた腹部を殴りつける。


想像を超える苦痛に、思わず涙が零れそうになる梨沙。


「このままじゃ死んじゃうわよ?さっさと覚悟を決めなさい」


「嫌だ…」


梨沙は乱れた呼吸のまま明美の肩に掴み掛かり、睨み付けながらこう言った。


「私は…殺さない…!」


「…やっぱり生意気ね」


右手を引いて、梨沙の顔面を殴りつけようとする明美。


しかし、殴られっぱなしであった梨沙が、その時ついに反撃をした。


明美の右手を左手で掴み、受け流して彼女を後ろに投げ飛ばす。


明美は受け身を取ってすぐに梨沙の方に向き直ったが、彼女は既にその場から走り出していた。


「逃がさないわよ…!」


すぐに、それを追い掛ける明美。


戦闘は苦手な梨沙であるが、逃走ならば、梨沙に勝ち目はあった。



「(うっ…。さっきの攻撃効いてるかも…)」


蹴りつけられ、殴りつけられた腹部が痛み、思うように走る事ができない梨沙。


しかし、元の速さが常人離れしている梨沙にとっては、その程度の障害など問題にはならなかった。


後ろに並んでいる明美が、それを実感する。


「(は、速すぎない…?ちょっと予想以上だわ…)」


見る見るうちに、2人の距離が離れていく。


明美が梨沙に追い付く事は、不可能に見えた。


「(美術館まで逃げれば何とかなるハズ…!)」


ペースを一切落とさずに走り続け、更に明美との距離を離していく梨沙。


しかし、順調に距離を離していたものの、梨沙は途中で道の選択を間違えてしまった。


「あ…」


曲がり角を曲がった所で、目の前の光景に思わず足を止める。


「う、嘘でしょ…?」


梨沙が迷い込んだ場所は、行き止まりであった。


「うふふ…。追いかけっこはおしまいのようね」


引き返そうとする前に、当然明美が現れる。


「…どうしても、戦わなきゃいけないんですか?」


「えぇ。妹の為なら…」


「お断りします…!」


「…は?」


この状況で何を言っているのかと思い、思わず気の抜けた声が出てしまう明美。


梨沙は何度か深呼吸をして呼吸を整えた後、明美に向かって、勢いよく走り出した。


「(これに…賭ける…!)」


第46話 終




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ