第45話
第45話
"最終形態の最期"
絶体絶命の危機を、突然現れた特殊兵器対策部隊の一同に助けられた結衣。
何よりも驚いたのは、部隊の中に、以前の騒動にて大怪我を負った女性、速水有紀奈が居る事であった。
「有紀奈さん…どうして…?」
「優子から電話が来てね。その時に、話を聞いたのよ。榊原町で何が起きているのか、それと、あなた達がこの町に居る事をね」
「え?どうして姉御が知ってるんです?」
「榊原町から逃げてきた知り合いが居たとかなんとか、言っていたような気がするわ」
「(知り合い…?誰だ…?)」
そこに、玲奈を抱えた女性隊員がやってくる。
「分隊長。治療が必要な人間が居ます。一度、本部に戻った方が良いと思われますが」
「…そうね。あなたはどうする?」
有紀奈はそう言って、結衣を見る。
「うーん…。実は今さっき、仲間が怪我人連れてここから離れたんですよ。そいつらが心配っちゃ心配なんですがね」
「そう…。それなら、怪我人はウチの隊員に任せて頂戴。私達でその仲間を…」
その時、有紀奈の話を遮るかのように、美術館の建物の方から、大きな物音が鳴る。
一斉に、銃を構える隊員達。
その音を立てた正体は、いつの間にか建物の上に移動していた、D-03であった。
「…随分としぶとい奴ね」
「生命力だけなら、世界一だと思いますよ…」
「…なるほど」
結衣の苦労を察した有紀奈は鼻で小さく笑った後、隊員達を見回しながらこう言った。
「火力に貢献する自信がある者だけ残りなさい!他は怪我人を連れて脱出!」
隊員達はそれを聞き、すぐに行動に移る。
高火力の銃を所持している戦闘要員はD-03に銃を構え、他の隊員達は玲奈を抱えている女性隊員の周りに集まる。
「その子は責任を持ってあなたが脱出させるのよ。良いわね?」
「りょ、了解しました…!」
有紀奈に念を押された女性隊員は緊張気味に返事をして、美術館の外にある部隊のヘリの元へと走り出した。
「にしても驚きましたよ…。まさか特兵部隊が私達を助けに来てくれるだなんて」
「あ、一応言っておくけど、私の独断よ」
「そりゃそうですよね。独断で来たりなんかしたら…え、独断?独断って独断?」
「独断は独断よ」
「毒弾?」
「多分違うわ」
結衣は予想外の言葉に驚き、彼女を見つめる。
「…独断って、許されるもんなんですかね?」
「許されざる行動でしょうね」
「えぇ…」
「まぁでも大丈夫よ。私は間違った事なんてしてないからね。それで処罰を受けたとしたなら、そんな間違った組織こっちから辞めてやるわよ」
「傲慢な方でございますなぁ…」
そこで、様子を見ているだけであったD-03が動き出す。
「弾はまだ残ってるの?」
「…多少は」
「…まぁ、私達に任せなさい。反則級の武器を用意してあるわ」
「反則級?」
有紀奈は答えずに、黙って背後を指差す。
結衣がそちらを見てみると、そこには1人の女性隊員が、大きなケースを開けている所であった。
その中に入っていた物を見て、苦笑を浮かべる結衣。
「そ、それは…」
「聞いた事くらいはあるでしょう?」
「実際に見たのは初めて…ですねぇ…」
ケースの中に入っていたのは、アンチマテリアルライフルと呼ばれる大口径の狙撃銃であった。
「M99…ですか?」
「えぇ。本当は別の銃を買おうとしたんだけど、対物狙撃銃はこれしか無いと言われたの」
「こんな銃…一体誰から…?」
「…企業秘密」
「企業秘密?あっ…ふーん…」
M99に銃弾の装填を終えた女性隊員が、スコープを覗いてD-03の姿を捉える。
しかし、それに気付いたD-03が、素早くその場から離れてしまった。
「…分隊長」
「わかってる…。手伝ってもらえるかしら?」
結衣を見る有紀奈。
「…何をですか?」
結衣はあえて、とぼけてみせる。
「陽動よ。奴の注意をこちらに向けて、その隙に対物狙撃銃で仕留めるの。良いわね?」
「拒否権は…無さそうですね…」
「勿論」
結衣は溜め息を吐いた後、しまってある銃を取り出そうとする。
「いてッ…!」
その時に走った左腕の痛みで、結衣は自分の左腕が折れている事を思い出した。
「…怪我をしたの?」
「ちょっと骨が折れただけですよ…。思い出すと痛いもんですなぁ…」
結衣は有紀奈に心配をさせない為に笑顔を作って見せたが、彼女にそんな笑顔は通じなかった。
有紀奈は近くに居た女性隊員を呼び、結衣の治療をするように命令する。
「大丈夫ですって…!本当に腕が折れただけですから…!」
「………」
有紀奈は口だけではわかって貰えないと判断し、結衣の左腕を銃の先端で軽く突っつく。
「いててててッ!」
「そんな状態で加勢してもらっても、却って足手纏いになるだけよ。素直に言う事を聞きなさい」
「うぅ…。わかりました…」
結衣は腕の激痛と彼女の優しさに免じて、女性隊員と共に美術館を離れた。
「…さて」
「どうするおつもりですか?分隊長」
M99を構えている女性隊員が、スコープから目を離して有紀奈を見ながらそう訊く。
「さっき言ったハズよ。私が囮になるから、あなたがその隙に仕留めて頂戴」
「ま、待ってください…。隊長が1人で囮を…?」
「他に誰が居るのよ」
「私が居ます」
「…え?」
聞き覚えのある、死んだハズの人間の声を聞き、思わず耳を疑う有紀奈。
驚きながら振り返ってみると、そこには梨沙と共に美術館から離れたハズの、恭香が居た。
「あなたは…?」
「峰岸恭香と申します。失礼とは承知の上、後ろで話を聞かせて頂いておりました。協力致します」
有紀奈は恭香の名前を聞き、彼女が死んだ恭子の妹だという事を察する。
しかし、その事については一切触れずに、有紀奈は彼女に頷いて見せた。
「…そういう事なら、お願いするわ」
「隊長…!」
恭香が誰の妹なのかなど知る由も無い女性隊員が、当然恭香の協力を止めようとする。
「良いのよ。彼女なら、きっと役に立ってくれるわ」
「…?」
「まぁ見てなさい。…さ、行くわよ。恭香ちゃん」
「はい」
「ちょ、ちょっと…!隊長…!」
困惑する女性隊員を無視して、有紀奈は恭香を連れてD-03の元へと向かった。
「…怪しまないのですか?」
「何を?」
「先程、まるで私の事をご存知であるかのように話しておられたので…。普通なら私のような人物の協力など拒否すると思いますが…」
「え?えぇ…まぁ…そうよね…」
それを聞いた有紀奈は少し動揺したが、愛想笑いで誤魔化す。
恭香は少しの間、有紀奈を睨むかのように横目で見つめたが、状況を考え、すぐに正面に向き直った。
「…へぇ、問い詰めないのね」
「私、人を疑う事は嫌いなので…」
「そ、そう…。良い心掛けね…」
「………」
「(うっ…。流石は峰岸恭子の妹…。慇懃無礼な態度が姉にそっくりね…)」
有紀奈は隣を歩く年下の少女を、何か怖い物でも見るかのような目でこっそりと見ていた。
「あの…」
「な、何…?」
その恭香に不意に話し掛けられ、冷静を装いはするが慌てて返事を返す。
「失礼ですが、お名前は…?」
「…そういえば、まだ言ってなかったわね。私は…」
「隊長ッ!」
2人は背後から聞こえてきた女性隊員の大声のお陰で、いつの間にか側面に回り込んでいたD-03の存在に気付く事ができた。
「危ないわね…!話くらいさせなさいよ…!」
突進してきたD-03を避け、苦笑を浮かべる有紀奈。
「私から話を切り出しておきながら、このような物言いをするのは失礼でありますが…お喋りは後に致しましょう」
「その方が良さそうね…」
有紀奈は使い慣れた銃、MP7A1を、恭香は市役所にて兵器達と交戦した際に梨沙から拝借した銃、グロック17を構え、臨戦態勢に入った。
「さっき言ったけど、一応もう一度言っておくわ。私達の目的はあくまでも陽動よ。深追いはしなくて良いわ」
「了解しました」
D-03に狙いを付け、引き金を引く2人。
「…銃は今回が初めて?」
「はい。触った事すらありませんでした」
「ふーん…」
「ふふふ…。そうは思えない、といった表情ですね」
「別に…。今更、驚きはしないわよ…」
「と言いますと?」
「あっという間に銃に慣れる事ができた人間なんて、今まで何人も見てきたからね。…人間、必死に生き残ろうとすれば、何だって覚えてしまうのよ。直にね」
2人はしばらくの間、歩み寄ってくるD-03に銃弾を撃ち込み続けてみたが、やはり反応は薄かった。
「ちっ…。下がるわよ…」
「…はい」
有紀奈は再装填をしながら、恭香は弾倉を抜いて残弾を確認しながら、後退する。
「弾、あるの?」
「いえ…。分けて頂けませんか?」
「生憎だけど、口径が違うわ。…こっちを使いなさい」
有紀奈はそう言って、自分の予備の銃、USPを取り出し、恭香に渡す。
「良いのですか?」
「えぇ。武器無しの木偶の坊になられると、こっちも困るからね」
「ふふふ…。ごもっとも…」
恭香は残弾数が少ない自分の銃を有紀奈に渡し、彼女の拳銃、USPを受け取って、それを構えた。
その時、有紀奈の耳に掛けてある無線機から、本命の攻撃であるM99を構えている女性隊員の声が聞こえてくる。
『分隊長。立場上命令するのは恐縮ですが、そのまま標的をそちらへ誘導してください。遠ざかった所で、不意打ちをします』
「ふん…。今回ばかりは聞いてあげるわ。了解」
有紀奈は足を止めずに、女性隊員の命令通りに後退を続けた。
「あの…。そろそろ良いのでは…?」
後退を続けながら銃を撃ち続け、ついに有紀奈から借りた方の銃も弾切れになった恭香が、有紀奈にそう訊く。
有紀奈は恭香には返事を返さずに、無線越しに女性隊員にこう訊いた。
「…どうかしら?こっちはそろそろ限界だわ」
『わかりました。少々不安ではありますが…合図をしたら伏せてください』
「何よ。誤射が怖いって言うの?」
『…念の為です』
「…仕方ないわね。わかったわ」
女性隊員にそう言って、有紀奈は恭香を見る。
「無線の声、聞こえてるわね?合図がしたら…」
「伏せる…ですね?」
「…遅れたら、頭が吹っ飛ぶわよ」
「ふふふ…。わかりました」
弾が無くなった恭香はどうする事もできなかったが、有紀奈だけは銃撃を止める事なく、撃ち続けながら合図を待つ。
そして、その時が来た。
『発砲します…!伏せてください!』
「了解…!」
銃撃を止め、抱え込むように恭香に腕を回して、そのまま地面に倒れ込む有紀奈。
それを見て不審に思ったD-03であったが、振り向いて女性隊員を見た時には既に、銃弾は発射されていた。
対物狙撃銃M99から発射された、12.7×99mmの大口径の弾丸。
その弾丸はD-03の頭部に命中し、頭部の上半分を吹っ飛ばした。
突然の衝撃に呆然とし、頭部を半分失った状態のまま、その場に立ち尽くすD-03。
身体の中のD細菌を既に使い果たしているD-03に、再生能力はもう無い。
しばらく経った所で、暴走によって異常なまでに巨大化したD-03の身体は、轟音と共に地面に倒れた。
「あの…」
「何?」
「私の協力…必要無かったような気がするのですが…」
先に立ち上がった有紀奈の手を借りながら立ち上がった恭香が、有紀奈にそう訊く。
訊かれた有紀奈は吹き出すように笑った後、こう答えた。
「…かもね」
第45話 終




