第39話
第39話
"真相"
突然、自分の頭を銃で撃ち抜いた明美。
頭に風穴が開いたにも関わらず、明美は平気な顔でこちらを見ながら、こう言った。
「私の体には…D細菌が宿ってるの」
「あんたが…適合者…?」
歩美が言った"適合者"という新たな単語に、驚きを隠せない一同。
「歩美…。適合者って何なんだよ…?」
代表して訊いてきた結衣に、歩美は明美を見つめたまま答えた。
「D細菌に感染しても発症しない…つまり、抗体を持ってる人間の事よ」
「初耳…ってね」
結衣が嫌味っぽく言うが、歩美は対して気にせず、こう呟く。
「…私も、まさか本当に居るとは思っていなかった」
「…は?」
歩美が何を言っているのかを、理解できない結衣。
「適合者の存在は、あくまでも机上の空論に過ぎない話だったのよ。D細菌の感染力は強大であるけれど、その感染力をも無視する存在がいるかもしれない…って話」
「なんだそりゃ…」
「適合者は私だけでは無いわよ」
そう言ったのは明美。
「…何の根拠があってそう言ってるのかしら?」
「あなた達は咬まれた事が無いから気付いていないだけ」
「何の根拠があってそう言ってるのかと訊いているのよ」
「…検査をしたのよ」
明美はそう言って、梨沙を見た。
「…?」
梨沙は何故自分を見ているのか、当然知る由もない。
「一昨日…つまり騒動の前日、榊原高校で全生徒が対象の予防接種があったの」
歩美はそれを訊いただけで、明美が行った検査の内容を察した。
「…まさか、注射器に細工をしたの?」
「うふふ…。全部ではないけれど、3年生の分にD細菌を、発症はしないまでも、少し体調不良が訪れる程度の量仕込んだわ」
「ッ…!?」
思わず、二の腕にある注射の痕を見る梨沙。
「60人中、反応が無かったのは8人だったわ。その中で、あなた達が知ってるのは4人」
「誰なの?」
歩美が訊く。
「綾崎梨沙、久遠恵美、朝倉愛美、峰岸恭香の4人。ちなみに、その身内にも抗体はあると思われるわ」
「って事は…美由にも…?」
「…そうなるわね」
真っ先に妹の事が頭に浮かんだ梨沙に、明美は怪しげな笑みを浮かべながら頷いて見せた。
「私達はどうなのさ?それに、亜莉紗や凛や楓とかは?」
結衣の質問には、首を傾げながら答える明美。
「それはわからないわ。検査をしない限りは…ね」
「けっ…。冗談じゃねぇや」
結衣は吐き捨てるようにそう言った。
「…1つだけ、訊いても良いですか?」
黙って話を聞いているだけであった梨沙が、口を開く。
明美は彼女が訊きたがっている事を察して、彼女が質問をする前に答えた。
「…実際、誰でも良かったの」
「…え?」
「あなたの殺害依頼を出した理由は、腕の良い人間をこの町に集める為…。だから、誰でも良かったの」
「………」
耳を疑い、呆然とする梨沙。
「…まぁ、実際全く理由が無いというワケではないのだけれど」
「…?」
「あなたは適合者。それに、持ち前の運動神経を活かして生き残る事は予想できてたわ。あなたが生き残っていれば、その間依頼を受けた人間はこの町に留まる事になる…」
「私が町から脱出する可能性は考えていなかったんですか…?」
「あなたはきっと、自分が狙われる理由を知ろうとする。そうすれば、必然的にこの町に留まる事になるわ」
「…そこまで予想通りなら、私達が梨ぃちゃんを殺さずに依頼放棄したのも予想通りってワケかい」
苦笑を浮かべながらそう言った結衣に、明美は笑みを浮かべながら頷いて肯定した。
「依頼放棄をしたあなた達は、依頼主である私を探す為、この町に留まる。…最終的には、町に残った全員が私の作品と交戦する事になるわ」
「一体何のために…?」
梨沙が訊く。
「言わなかったかしら?証明したかったのよ。私が歩美姉さんよりも優れているという事を…」
「そんな理由で、何の罪もない人間を巻き込んだんですか?」
冷たい口調でそう言ったのは、玲奈だった。
「…嫉妬したのかも」
「…え?」
明美のその言葉には、玲奈だけでなく、その場にいる全員が驚いた様子を見せる。
「嫉妬って…どういう事よ?」
今度は歩美が訊く。
「そのままの意味に決まってるじゃない。…私は仲の良いあなた達に嫉妬したのよ」
「私と…美由…に…?」
「えぇ。昨日の夕方に見た、あなた達の幸せそうな笑顔、笑い声…。微笑ましいハズのその光景を見て、私は憎悪を覚えたわ」
「そん…な…」
衝撃の事実を知ってショックを受けた梨沙は、思わず泣きそうな表情になる。
「あなたに何の罪も無い事は承知してるわ。あなたを標的にしたのは、私の勝手な私情…」
「………」
「私はあなたに嫉妬した。ただそれだけの…」
「そこまでよ」
梨沙の目元に溜まり始めた涙を見て、歩美が明美の話を遮った。
「いい加減にしなさい。これ以上、彼女を苦しめて何が楽しいのよ」
「…うるさい」
「!」
そう言った明美の声を聞き、驚く歩美。
「歩美姉さんが…口を出す権利は無いわ…!」
「明…美…?」
明美は涙声になっていた。
「姉さんが…裏の世界なんかに手を出さなければ…私達は…普通の姉妹で居られたのよ…!」
「………」
歩美は、何も言えなくなる。
「私は…普通で居たかった…。普通に学校に行って、普通に家族と過ごして…。でも…それはできなかった…!」
「明美…」
「両親が死んだのだって…歩美姉さんが悪いのよ…!歩美姉さんが私の両親を殺したのよッ…!」
「………」
「私があの日、あの事故に遭ったのも…歩美姉さんが裏の世界に入った事がそもそもの原因…。それが無ければ、私は人間で居られた…」
「う、うるさい…」
「返してよ…私の人生を返してよ…!」
「うるさいッ…!」
一同はその時初めて、歩美の涙声を聞いた。
「私が…両親を殺したですって…?」
「そうよ…両親が殺された時の話をしてあげましょうか…?」
「それは…」
「両親が人質に取られた時に、2人を見捨てたのは誰だったかしらね…?」
「そんな…違うわ…!誤解してる…!」
「何が違うのよ…!歩美姉さんが見捨てたから…2人は私の前で…!」
その時、明美の話を遮るかのように、1発の銃声が鳴り響く。
「そこまで…にしようか」
銃を虚空に発砲したのは、結衣だった。
「…結衣?」
結衣の行動に驚き、目を丸くして彼女の顔を見つめる歩美。
「明美さんの言い分もわかるけど、同じ姉として、私は歩美にも同情するね」
「姉と…して…?」
「うん。私には玲奈がいる。…こいつ、普段は冷静頓着気取って大人っぽく見せてるけど、ちょっとした事ですぐにへこんだり泣き出したり、本当は面倒臭い奴なんだよ」
「ど、どさくさに紛れて…な、何適当な事言ってんの…?」
結衣の隣で話を聞いていた玲奈が隠し切れない動揺を見せたが、結衣は気にせず話を続けた。
「でもそれで良いと思う。兄弟姉妹、下の奴は泣いても良い。でも一番上は、下の見本にならなきゃいけないでしょ?だから、強くあらなきゃダメなんだ」
結衣はそこまで言って、一旦咳払いをする。
「…話が逸れた。言いたい事はそんなんじゃないや」
「結衣姉、さっきから何言ってんの?」
「うっせ!おめーは黙っとれ!」
結衣は玲奈の頬を軽くつねりながら、明美を見てこう言った。
「姉の苦労も、ちったぁわかってやりなよ。話を聞くくらいなら、何とでも無いでしょうよ?」
「あなたに…何がわかると言うの…?」
「さぁねぇ…。あんたら姉妹の事情なんて、知ったこっちゃ無いね。まずは落ち着いて話せ、私が言いたいのはそういう事さ」
「ふざけないで…!」
「ふざけてなんてないさ。お2人さん、さっきから誤解が生じてるみたいだからね。それを話した方が良いんじゃないかなと思っただけよ」
「無責任な事を…!」
「だーかーらー!」
「結衣姉、そろそろ離して。痛い」
「…お、悪ぃ悪ぃ」
すると、結衣の話を黙って聞いていた歩美が、ゆっくりと明美の方へと歩き出しながら、こう言った。
「…もう良いわ。結衣」
「…歩美?」
「今わかったわ。私達は、話し合いでは分かり合えない。…あなた達は先に、この町から脱出しなさい」
「おい…」
歩美を止めようとする結衣。
「…これが最後の会話になるかもしれないから、今の内に言っておくわ」
「…あ?」
歩美は立ち止まって振り返り、今まで誰にも見せた事の無い、優しい笑みを浮かべて、結衣にこう言った。
「…ありがとう。嬉しかったわ」
「え…?」
「姉として同情してくれた事。…ありがとう」
「お、おう…」
突然の歩美の急変に、動揺する結衣。
しかし、歩美の顔からすぐに笑みは消え、彼女はいつも通りの冷たい表情に戻り、再び歩き出しながらこう言った。
「…さぁ、早く行きなさい。私はあの子と決着をつけるわ」
「決着って…お前…」
「…仕方ないのよ。さっきあの子が言っていたけれど、確かにあの子の人生を狂わしたのは他の誰でもない私。だから、私が責任を取る必要があるの」
「だからって…!」
中々引き下がろうとしない結衣であったが、歩美が次に言った言葉で、彼女は黙り込んだ。
「…あの子は、私の妹なのよ。だから、私が止めなきゃいけない」
「………」
俯く結衣。
「…最後に1つ、明美さんに訊きたい事があります」
口を開いたのは、玲奈だった。
「…どうぞ」
「あなたは、姉に勝ちたいから、姉よりも優秀であると証明したいから、この騒動を引き起こしたんですか?」
「えぇ。さっきも言ったハズなのだけれど?」
呆れたように、そう答える明美。
「…嘘ですね」
明美はその言葉に、驚いた。
「…どういう意味?嘘って」
「少し違うハズ。勝ちたいんじゃなくて、認めて貰いたいだけなんじゃないですか?」
「ッ…」
「姉に凄いと認めて貰いたい。姉を尊敬している妹なら、そう考えるのは当然だと思います」
「尊敬なんてしてるワケ…」
「歩美姉さん…。あなたが本当に尊敬してないのなら、そんな呼び方はしないと、私は思いますけどね。…以上です。ありがとうございました」
玲奈はそう言って、屋上の出口である階段へと歩き出した。
「…ま、よくよく考えてみりゃ、姉妹喧嘩なんて私達も毎日のようにしてる事だから、止める筋合いは無いよな。存分にやれば良いさ」
結衣もそう言って、玲奈に続いて階段へと向かう。
「………」
残った梨沙は、何かを言おうとしているのか、もじもじと言った様子で明美をちらちらと見ている。
しばらくして、梨沙は言う事を決心したのか、その重い口をゆっくりと開いた。
「こんな事を言うのは失礼だと思いますけど…。お互いに仲良くしようと思わない限り、人は仲良くなれないと思いますよ。例えそれが姉妹だとしても、例外では無いハズです」
「………」
黙り込んで俯いたのは明美だけでなく、歩美もであった。
「し、失礼しました…。それでは…」
梨沙はぺこりと頭を下げて、大神姉妹の2人を追って屋上から出て行く。
屋上には、沢村姉妹の2人だけが残された。
「…歩美姉さんの仲間は、愚かな人間ばかりね」
「えぇ。私も全くもって、そう思うわ」
「…うふふ」
「…その笑い方、昔と全然変わってないわね」
「そう?歩美姉さんだって、笑い方全然変わってないわよ?」
「うふふ…。良く覚えてるじゃない」
「歩美姉さんこそ…ね」
先程までは薄明るい程度であった早朝の空が、いつの間にか日の出によって明るくなっている。
「…始めましょうか」
「…えぇ、そうね」
2人は日の光に照らされているお互いの顔を見て、ニヤリと笑った。
第39話 終




