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第40話


第40話

"頼もしき救援"


「あ、皆さん!」


大神姉妹と梨沙の3人が階段を降りていると、丁度屋上に向かっていた晴香と遭遇した。


「ハルちゃん!無事だったんだね!」


陽気に話し掛けてきた結衣に、晴香は笑みを浮かべて答える。


「えへへ…何とか…。…あれ?」


晴香は、居ると思っていた歩美が居ない事に気付いた。


「明美さんは一緒じゃないんですか?」


「え?明美?…あ、そう言えば、ハルちゃんはまだ知らないんだっけ」


「?」


何の事かと、首を傾げる晴香。


「ハルちゃんが知ってる明美は、沢村歩美なの。そんで、この事件の黒幕であり歩美の妹なのが、沢村明美。オッケー?」


「お、オッケー…ではないです…」


晴香は納得できなかったものの、先程葵に同じような事を言われた事を思い出した。


「…そういえば、葵さんもそんな事を言っていたような気がしますけど」


「そういう事。歩美がどうして妹の名前を語っていたのかは知らないけどね」


「そうだったんですか…。それで、明美さん…じゃなくて、歩美さんはどこに居るんですか?」


結衣はその質問に、今降りてきた階段を指差しながら答える。


「上に居るよ。姉妹喧嘩中」


「姉妹喧嘩…ですか?」


「分かり合うには喧嘩した方が早い事もあるからね。…ハルちゃんもわかるでしょ?」


「…まぁ、確かに」


「そういうワケで、私達は先に脱出。あいつらは、気が済むまでやらせとけば良いさ」


「…わかりました」


晴香にも妹が居るからなのか、彼女は納得して、結衣達と共に登り掛けていた階段から降り始めた。


「ゆ、雪平さん…?その腕…」


晴香の後ろに居た彩に、梨沙が気付く。


彩は弱々しい笑みを浮かべて、梨沙にこう言った。


「…ごめんね。負けちゃったわ」


「負けたって…。それじゃあ今、奴は…?」


「晴香ちゃんの妹さんが相手にしてるわ…。とはいえ奴も瀕死だから、大丈夫だとは思うけど…」


「そう…ですか…。…あ」


騒動が起きてから、初めて晴香の顔を見た梨沙。


晴香も気付いて、彼女はとても驚きながらこう言った。


「先輩…!?どうしてここに…?」


「あー…。何というか、色々あってね…」


「驚きました…。先輩が居るだなんて…」


「あ、あははは…」


苦笑いで誤魔化す梨沙。


本音を言うと、彼女は今までの経緯を説明するのが面倒臭いだけであった。


「(面倒臭い…)」



屋上から離れた一同は、風香が居る最上階の大部屋へと戻ってくる。


D-13を相手にしている風香は、余裕をかましていた。


「あ、お姉ちゃん達。早かったね」


「ふ、風香…。どうして圧倒的に優勢なの…?」


「しょうがないじゃん。こいつが弱すぎるんだもん」


「えぇ…」


立て膝をついているD-13は圧倒的に不利である現状を見て、逃走を決行する。


「あ、待てコラ」


風香がショットガンを発砲して阻止しようとするが、D-13は飛んでくる銃弾をかいくぐって窓から飛び降りた。


「あいつ…飛び降りるの好きなのね…」


「やむを得ず…じゃないんですかね…?」


彩と梨沙がそんな会話をしている傍ら、D-13が飛び降りた窓の元へと歩いていく大神姉妹の2人。


「これで転落死してたら、面白いんだけどね」


「それは無いでしょ…」


そして晴香は、風香の元へ向かった。


「風香、怪我は無い?」


「あるワケ無いじゃん。あいつ、元々弱ってたし」


「そうなの?」


「歩くのも辛そうだったよ。…まぁ、弱ってなかったら、殺されてたかもね」


珍しく弱気になった風香を見て、晴香はD-13に恐怖心を抱いた。


「…そういえば、葵さん達は?」


不意に結衣が、晴香に訊く。


「美術館の外で、兵器と交戦してます」


「兵器…?」


「はい。…最高傑作だと、明美さんが言っていました」


その言葉を聞き、結衣は眉をひそめた。


「へぇ…。最高傑作ねぇ…」


「倒しても倒しても、次々と進化してたよ。多分、まだ戦ってると思う」


そう言ったのは風香。


「そりゃ心配だね…。よし、様子を見に行こう」


「待ってください」


結衣を止めたのは、梨沙であった。


「雪平さんを脱出させてからでも良いですか?治療しないと、危険だと思います」


梨沙の言葉を聞き、彩に視線を移す結衣。


彩は自分の服の一部を破ってそれを使った簡易な応急処置をしたものの、それだけで完全に出血が止まるハズもなく、顔が青白くなり始めていた。


「…確かに危険だね。でも、どうするつもり?」


「恵美に…友人に電話して、バスで来てもらいます」


「名案だね。それで頼むよ」


「わかりました」


携帯電話を取り出し、恵美に電話を掛け始める梨沙。


「にしても、最高傑作か…」


結衣が窓から、遠くに見える美術館を見てそう呟く。


「前回の騒動の時もそれなりに厄介な奴が居たけど、それ以上なのかな」


そう言いながら、玲奈が隣にやってきた。


「最高傑作ってんだから、そうかもしれないね」


「…だよね」


「…まぁ、あの姉妹なら大丈夫だと思うけど」


結衣はそう言いながら、窓辺から離れる。


「結衣さん」


名前を呼ばれ、声が聞こえた方に顔を向ける結衣。


そこには、風香が居た。


「風香ちゃん?どったの?」


「…こんな所で悠長にしてないで、急いだ方が良いと思う」


「…どうして?」


結衣は風香が言いたい事を察していたにも関わらず、あえてとぼけて見せる。


「…胸騒ぎがする」


「………」


結衣は部屋の出口へと歩き出しながら、梨沙にこう言った。


「その人の事は任せるよ、梨ぃちゃん。私達は先に行く」




一方…


絶体絶命の危機に相対し、瀕死の姉と共に覚悟を決めた茜。


D-03の手が茜に触れる寸前の瞬間、事は起きた。


何の突拍子も無しに、突然悶えて転がり回り始めるD-03。


「な、何…なの…?」


状況を理解できずに、困惑したままD-03を見る茜。


「あれは…?」


茜はD-03の首に、注射器のような物が刺さっている事に気付いた。


気を失っている葵の事も心配ではあったものの、茜は辺りを見渡して、誰の仕業なのかを知ろうとする。


「…誰?」


美術館の本館の入口の方から、誰かが歩いてきていた。


最初は遠目だったのでわからなかったものの、その人物がある程度まで近付いてきた所で、茜はそれが誰なのかを知る。


「大丈夫ですか?神崎さん」


前回の騒動で死亡したと思われていた、峰岸恭子であった。


「…足はあるわね」


「幽霊では無いですよ…?」


恭子は茜の元にやってきて、気を失っている葵を見る。


「…かなり酷いですね」

「えぇ。出血が酷いの。それに、万が一内臓がやられてたとしたら、かなり危険だと思うわ…」


「そうですね…」


恭子は茜の言葉に頷いた後、D-03を見てこう言った。


「ここは私がお引き受け致します。神崎さんは、お姉様を連れて安全な場所へ向かってください」


「…大丈夫なの?」


「ご安心ください。私にはこれがありますから」


恭子はそう言って、右手に持っている銃、アンプルシューターを見せる。


「あ…。それは…」


「ふふふ…。覚えていらっしゃいますか?」


「え、えぇ…。確か、D細菌を死滅させる効果があるアンプルを射出するとんでもない兵器…よね?」


「ふふふ…。その通りです。ですので、私は大丈夫です。さぁ、早くお姉様を」


彼女を心配する気持ちもあったものの、彼女の実力とアンプルシューターの威力を知っている茜は、すぐに承諾した。


「…わかったわ。ありがとう」


「いえいえ…」


茜は葵の腕を肩に回し、移動を始める。


「神崎さん」


「…?」


恭子の呼び止めに、立ち止まる茜。


「…妹には、何も言わないでください」


「…わかったわ」


茜は何も訊かずに頷いて、その場を離れた。


「…ふふふ」


茜達が居なくなった事を確認し、ようやく起き上がる事ができたD-03に視線を移す。


恭子はD-03が何かをする間も与えずに、アンプルを射出した。


再び、地面に倒れてもがき苦しむD-03。


恭子はアンプルをもう1本装填し、更に撃ち込む。


すると、D-03の体が、次第に溶け始めていった。


もはや動く事すらも満足にできないD-03を見下ろし、鼻で笑う恭子。


「無様ですね…」


恭子は吐き捨てるようにそう言って、D-03に背を向けてその場から離れようとした。


しかし、気配を感じて、立ち止まる。


「…しぶとい方ですね」


振り返りながら、そう呟く恭子。


彼女の視線を受けながら、D-03はゆっくりと立ち上がる。


生命の危機に相対した事により、体内に存在しているD細菌が暴走したD-03はリミッターが外れ、最終形態へと進化を遂げ始めた。




その頃…


「…あ、そういえば」


怪我人を乗せたバスが白波町にある優子の自宅に到着した時、運転していた真希が何かを思い出す。


「朝霧。この銃、借りたままだったよな。返しとくよ」


真希は運転席の物入れに入っている楓から借りていた銃を手に取り、彼女に渡した。


「…?」


しかし、何故か受け取ろうとしない楓。


すると、楓は小さく笑って、こう言った。


「…その銃やるわ。助けて貰った礼や」


「随分と気前が良いじゃねぇか…。良いのかよ?」


「元々、拳銃は好きやないんや。遠慮せぇへんで持っとけ」


「…そうか?じゃあ、遠慮なく貰っとくぜ」


銃をしまう真希。


しまってから、こんな事に気付いた。


「…私はカタギだぞ。よくよく考えりゃ、使う機会なんて無いじゃねえか」


「強盗にでも使ったらええわ」


「バッカじゃねぇの…?」


久遠姉妹の2人と楓と凛はバスから降りて、優子の自宅へと向かった。



「…あら?思ったよりも早かったわね」


家の中に入ってきた真希を見て、驚く優子。


「怪我人が居るんだ。診てやってくれ」


「次から次へと…。家はあなた達の避難所じゃ…」


楓の傷を見た優子はそこまで言って、言葉を切った。


「…そこのソファーに座って。今道具を持ってくるわ」


「…すまんな」


「良いのよ。待ってて」


物置のような部屋に入っていく優子。


「ふぅ…」


ベランダに出て一服つけようとした真希の元に、美由がやってきた。


「梨沙お姉ちゃんは…?」


「…梨沙なら大丈夫だよ。みんなと戦ってるハズだ」


煙草をしまって、美由の頭をくしゃりと撫でる真希。


すると、そこに恵美もやってきた。


「姉貴、梨沙から電話が来た。もう1回来てほしいとさ」


「もう1回だぁ?」


露骨に面倒臭そうな表情を浮かべる真希。


「…雪平さんが重傷を負ったらしい」


恵美のその一言で、真希の心境は切り替わった。


「…マジかよ?」


「あぁ。急いで向かおう」


「わかった」


「また行っちゃうの…?」


ベランダから出て行く真希達を、寂しそうな表情で見る美由。


「すまねぇな。仲間がやべぇんだ。…そこの眼鏡のお姉さんにでも遊んでもらいな」


「わ、私ですか…?」


凛は突然の指命に困惑しながら、美由を見た。


「え、えーと…。凛よ、宮城凛…。よろしくね…」


子供の相手が苦手である凛は、ぎこちなさそうに自己紹介をする。


そんな凛に、美由は満面の笑みを浮かべながら手を差し出した。


「私は綾崎美由です!よろしくね、凛お姉ちゃん!」


「り、凛お姉ちゃん…?」


「だって、私より年上でしょ?だから凛お姉ちゃん!」


「(か、可愛い…)」


そこに、優子が戻ってきた。


「…どうしたの?あなた達。随分と慌てたような顔してるけど」


「仲間が重傷を負ったらしくてな。今から迎えに行ってくる」


「そう…。彼女の事は私に任せて」


「恩に着る。…行くぞ、恵美」


「おう」


久遠姉妹の2人は、みたび榊原町へと向かった。


第40話 終




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