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第41話


第41話

"神の存在"


「1つだけ…訊きたい事があるわ」


廃ビルの屋上にて、殴り合いの戦いをしている沢村姉妹の2人。


「どうせ1つじゃないんでしょう?」


2人はお互いに攻撃を繰り返し、お互いにそれを避けるというやり取りを繰り返しながら、会話をしていた。


「そうかもしれないわね。…あなた、体にD細菌を宿していると言っていたわね」


歩美の右フックを受け止めて、右ストレートを返す明美。


「言ったけれど…。それが何?」


その右ストレートを上半身だけ横に動かして避け、顎を狙って左アッパーを入れる歩美。


「適合者全員が、あなたのように頭を撃ち抜いても死なない程の異常な生命力を持っていると言うの?」


明美は体を後ろに反らし、その左アッパーを避けて右足で歩美の顎を蹴り上げようとする。


「いいえ、全員ではないわ。通常の適合者には、体の中に入ったD細菌を死滅させる能力があるだけ」


その蹴りを左手で受け流し、明美の体勢が崩れた所に回し蹴りを入れる歩美。


「へぇ…。それじゃあ、通常では無い適合者はどうだって言うの?」


明美は体勢を直さないまましゃがんで攻撃を回避し、歩美の足を狙って水面蹴りを放つ。


「私のように、体の中に入ったD細菌を取り込んで、その力を利用できるのよ。私は"完全適合者"と呼んでいるわ」


その場で軽く跳躍してその水面蹴りを回避し、明美の頭部に飛び蹴りを入れようとする歩美。


「完全適合者…ね。あんたがそうなら、私もそうなのかしら?」


明美はしゃがんでいる状態のまま素早くバク転をして攻撃を避けながら、一旦距離を離す。


「試してみる?」


明美は袖の内側に隠してあったD細菌が付着している小振りのナイフを取り出し、それを歩美に投げつける。


「お断りよ」


歩美は飛んできたナイフの柄の部分をキャッチして、それを構えながら明美に急接近していく。


「残念…。私以外にも完全適合者が居るのかは、私も知りたい事なのだけれど…」


反対側の袖からもう1本ナイフを取り出し、迎撃態勢を取る明美。


「へぇ…。今の所、あんただけなのね」


肩、胸部、顔面と、明美を順に3回ナイフで突き刺そうとする歩美。


「えぇ。今の所はね。…まぁ怪しい人物は居るのだけれど」


明美はその攻撃を2回目までは回避して、3回目の顔面を狙った攻撃だけは自分のナイフで弾き返す。


「怪しい人物…?」


攻撃を弾き返された歩美は隙が生じたものの、ナイフを持っていない左手で明美の腕を掴み、攻撃を止める。


「一度でも患者や兵器に攻撃された事があり、尚且つ、動きが常人離れしている人間…」


腕を掴まれた明美は、左手で歩美に殴りかかる。


「…赤城風香の右腕に、爪で引っ掻かれた痕があったわね」


歩美はその攻撃を右腕で捌き、再びナイフで明美の胸部を狙う。


「彼女、成長が早すぎるわ。騒動が始まって、しばらくも経たない内にあの動き…。特に今回の騒動での戦闘能力は異常だわ」


明美は胸部にナイフが刺さる寸前、膝で歩美の右腕を蹴り上げてナイフを落とさせる。


「確かに…。つまり、彼女は和宮町の最初の騒動で感染したけれど、完全適合者であったが故に発症せず、むしろその力を取り込んで2回目の騒動の時にその力が覚醒した…という事?」


歩美はナイフを拾おうとはせずに、蹴られた右手を拳に変えてそのまま明美の頬にフックを放つ。


「えぇ。そして、詳しい理由はわからないのだけれど、今回の騒動でその力は更に強力な物になっていた。…恐らく時間の経過によって、体内のD細菌が成長したんだと思うわ」


明美がそのフックを左手で受け止めた事により、2人はお互いに手が使えなくなる。


「…ちょっと待って。赤城風香が完全適合者であるのなら、晴香ちゃんもそうだという事になるわよね?」


睨み付ける歩美。


「うふふ…。歩美姉さん、あの子がお気に入りなのね」


嘲笑を浮かべる明美。


「さっき、体の中のD細菌が時間の経過で成長していくと言ったわね。最終的にはどうなると言うの?」


動くに動けず、ただただ睨み合う2人。


「さぁ?死ぬんじゃないの?」


明美の適当な返事が歩美の怒りに触れ、歩美は明美の腕を掴んでいる手に力を込める。


「ふざけてないでさっさと答えなさい…!」


明美はそれでも、薄ら笑いを浮かべながら歩美を見つめるだけ。


「怖い怖い…。でも、私は本当に知らないわ。まだそのデータは取れてないの」


一歩前に出て、歩美は更に明美に詰め寄る。


「取れてないですって…?」


明美は歩美が怒りで冷静さを失っている事に気付き、組み合いの状態のまま彼女の鳩尾に膝蹴り入れる。


「戦闘に感情を挟むだなんて、落ちたものね。それに、D細菌はあなたの兵器じゃない。あなたが訊いてどうするのよ」


歩美は呼吸困難に陥って膝をついたが、目つきだけは変えずに明美を睨み続ける。


「答え…なさい…」


明美はそんな歩美に追い討ちを掛けるように、彼女の顔面を蹴りつける。


「だから知らないと言ってるでしょう。無様な姿ね、歩美姉さん」


倒れた歩美を踏みつけて、愉悦に浸る明美。


「随分生意気になったものね…」


歩美はそう言って明美の右足を掴むが、左足で再び顔面を蹴りつけられる。


「がっかりだわ。さようなら」


動かなくなった歩美に嘲笑した後、明美は屋上から離れようとした。


同時に、鳴り響く1発の銃声。


「………」


明美は自分の胸部に開いた風穴を手で触って確かめた後、ゆっくりと振り返ってこちらに銃を向けている歩美を睨みつけた。


「まだ私は…生きてるわ…」


鼻血を拭って、ふらふらと明美に向かって歩いていく。


「…しぶといわね」


明美はニヤリと笑い、歩美に近付いていく。


歩美の発砲した銃弾が全て体を貫通したものの、明美は怯む事なく近付いていき、歩美に殴りかかる。


歩美には避ける気力も無く、その攻撃は顔面に直撃したが、彼女は1歩下がっただけで倒れはしなかった。


そして、ニヤリと笑う。


「何が…おかしいのよ…!」


その笑みが気に触れたらしく、明美は怒りに身を任せて歩美を殴り始めた。


1発、2発、3発と、体の至る所を次々と殴られていく歩美。


それでも歩美は、血だらけの顔で笑みを浮かべてこう呟く。


「やっぱりあんたは…その程度なのね…」


「ッ…!」


渾身の一撃を、歩美の顔面に入れる明美。


明美の手に、鼻の骨が折れた感触が伝わってきた。


「どうして…倒れないのよ…!」


「最後に1つだけ…教えなさい…」


俯いたまま、口を開く歩美。


「あなたは私を下し、その後、どうすると言うの?」


「…良いわ。教えてあげる」


明美は不気味な笑みを浮かべ、話し始めた。


「頂点に立つわ。この世界の頂点に」


「………」


「死をも超えられた生物に人類が敵うはずも無い。…私達は人類の上に立つ存在。言うなれば、神のような物」


「神…ね」


嘲笑する歩美。


「そんな物、端から居ないわよ。この世界にはね」


「…へぇ。言い切ってしまうのね」


「もしも居るとしたなら…」


歩美は屋上の隅に立ち、崩壊した榊原町を見下ろしながらこう言った。


「…きっと、こんな事をしようと思った愚かな人間を、止めてくれたハズ」


「ッ…!」


殴りかかる明美。


歩美はその拳を寸前で受け止めて、彼女を自分の方に引き寄せる。


そして、胸元に明美の顔を埋めて、彼女の頭を優しく撫でながらこう言った。


「…ごめんね」


「…え?」


明美は驚いて、彼女を見上げる。


「あなたに辛い思いをさせてしまったのは私のせいよね。…本当にごめんなさい」


「な、何を…」


気が動転している明美は、抵抗する間もなく、屋上の隅へと連れて行かれる。


「…あなたを1人にはしないわ」


「ま、まさか…!止めなさい…!」


歩美は明美を抱き締めたまま、屋上から身を投げた。


「これで全て…終わりよ…」




一方…


最終形態へと進化したD-03に、たった1人で対峙している恭子。


禍々しい雰囲気に包まれているD-03は、神のような壮大さをも感じ取れた。


「ふふふ…。やっと楽しむ事ができそうですね…」


不気味な笑みを浮かべてそう呟き、アンプルシューターをしまって素手の状態で身構える恭子。


「行きますよッ…!」


そして、気合いの声と共に、走り出す。


しかし、恭子はすぐに立ち止まった。


「…ふぅ。これは残念ですね」


溜め息を吐いてそう呟き、美術館の正門がある方向を見る。


まだかなり距離は遠かったものの、こちらに走ってくる結衣達の姿が見えた。


「私としては、もう少し楽しみたかったのですが…。彼女達に見つかるワケにはいきませんので、失礼させて頂きますね。それでは…」


人外であり兵器であるD-03にすらも丁寧な口調の恭子はそう言って、その場から離れていく。


D-03はそれを追いかけようとしたが、それよりも早く、結衣のリボルバーの銃弾がD-03を引き止めた。


「こいつが最高傑作…。想像してたのよりもシンプルだなぁ…」


「結衣姉、どんなのを想像してたの?」


「両腕にガトリング、肩にミサイルみたいな」


「………」


今この場に居るメンバーは、結衣、玲奈、風香の3人と、廃ビルから出る際に1階で待機していた亜莉紗、紗也香、恭香の3人を加えた6人。


現状ではD-03の事が何もわからない一同ではあるが、彼女達に勝利する自信はあった。


「6人も居れば、圧殺できそうだね」


「で、でも、最高傑作なんだよ…?油断はしちゃダメだと思うけどな…」


楽天的な結衣とは対照的に、亜莉紗は不安な様子。


「ねぇ、チビっ子。このメンバーで勝てると思う?」


「調子乗ってる堅物女が足引っ張んなければ、勝てると思うよ。誰とは言わないけどさ」


睨む相手を間違えている玲奈と風香。


「に、逃げるワケには…いかないんですよね…?」


「皆さん、やる気満々と言った感じですからね…」


できる事なら、得体の知れないものとは交戦したくないと思っている、紗也香と恭香の2人。


そんな中、この場に集まった一同を見定めるかのように、彼女達の顔を見回しているD-03。


しばらくその状態で動かなかったが、D-03は先頭に居る結衣に視線を向けると、彼女に向かって歩き出した。


「おや、サシの勝負がお望みかい?受けて立ってやろうじゃないの」


結衣は勝手にそう解釈し、銃をしまって歩き出す。


「…結衣姉、気をつけてね」


「わぁってるさ。安心しとけってんだ」


心配そうな玲奈に笑みを見せて、結衣はD-03の前に立ち止まった。


第41話 終




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