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第38話


第38話

"姉妹の絆"


扉を開けて現れたのは、彩との戦闘によって傷だらけになったD-13。


彩は右腕を失ったが、D-13にも、腹部に刃物で突き刺された痕があった。


「しぶとい奴ね…。気をつけて…奴は一筋縄じゃ倒せないわよ…」


苦痛に呻きながら、立ち上がる彩。


そんな彼女を見て、風香が晴香にこう言った。


「お姉ちゃん。その人と一緒に逃げて」


「バ、バカな事言ってんじゃないわよ…!あんた1人でどうにかできるって言うの…!?」


「むしろ邪魔になるだけだよ。お姉ちゃんが使えないのは当然の事だけど、そっちの人だって片腕無いんじゃ足手纏いになる事は間違いないから」


「そんな言い方…!」


「べらべら喋ってる暇があったらさっさと行ってよ!」


風香の怒声に、晴香は思わず竦んでしまった。


「行きましょう晴香ちゃん…。この子だって覚悟の上で…私達を逃がそうとしてくれてるんだから…」


「………」


彩の言葉に、何も言えなくなる晴香。


その間にも、D-13はふらふらと3人に近付いてきている。


葛藤の末、晴香は答えを出した。


「バカ…ッ!」


それだけ言って、彩と共に屋上への階段に向かう晴香。


今この場に残っているは、D-13と風香ただ1人だけになった。


D-13は目の前に居る少女を見て、嘲笑しながら刃物を構える。


「………」


無表情の風香。


しかし次の瞬間、風香は突然ショットガンを発砲して、D-13にこう言い放った。


「笑ってんじゃねぇよこの野郎ッ!」


D-13の胸部に、大きな風穴が開いた。




一方…


今度こそ仕留めたと思っていたD-03の第4形態が、脱皮のような行為を経て、第5形態へと進化する。


「…原点回帰ってヤツかしら?」


「まさしくその通り…ね」


D-03の第5形態は、第1形態の姿と全く同じであった。


体力も完全に回復しているらしく、先程までとは違い、D-03は軽い足取りで2人に近付いていく。


「参ったわね…。こっちはもうへとへとだって言うのに…」


「あら、私はまだ全然余裕よ?」


「それじゃ、姉さん1人でやって貰えるかしら。私は休んでるから」


「それはダメよ。年上だけ働かせるだなんて、常識外れも甚だしいわ」


「嫌な常識が根付いたものねぇ…」


「全くよね」


「………」


D-03は低姿勢で素早く2人の懐に潜り込み、2人の腹部にフックを放った。


「二兎追う者は…」


「一兎も得ず…ね」


その攻撃を、簡単に避ける2人。


2人は第4形態の時と同じように、回し蹴りを入れようとする。


しかし、結果は第4形態の時とは異なった。


D-03は2人の回し蹴りを両手で受け止めて、そのまま2人押し倒す。


押し倒された2人は素早く横転した事により、その後の追撃だけは免れた。


しかし、押し倒された時の衝撃が、2人の体にダメージを残す。


「今のは…中々効いたわね」


後頭部を軽く打ちつけた茜が、苦笑を浮かべながら頭をさする。


「………」


問題があったのは、押し倒された際に右腕を痛めてしまった葵の方であった。


「…姉さん?」


「ひびが入ったかもしれないわ。信じられないくらい痛いの」


「その割には平気そうに見えるけど…。大丈夫なの?」


「いいえ」


「あら…」


そんな状況でもお構い無しに、次の攻撃を仕掛けてくるD-03。


走ってきたD-03を、茜が蹴り飛ばした。


「仕方ないわね。姉さんはそこで指をくわえて見てなさい」


「あら、気に入らない言い方ね」


「怪我人が居ても足手纏いになるだけよ。たまには妹の言う事も聞きなさい」


珍しく強気な茜を見て、おかしそうに笑う葵。


「うふふ…。そこまで言うなら、そうさせて貰おうかしら」


「そうしなさい」


葵は笑みを浮かべたまま、茜の横を通り過ぎてその場から少し離れた場所へと向かった。


葵が離れた事を確認した茜は、先制を取る為、自らD-03に接近していく。


それを見たD-03は、不気味な笑みを浮かべて茜に向かって走り出した。


D-03が迎撃体勢に入ると思っていた茜は、予想外のその行動に一瞬だけ判断が遅れる。


その一瞬が、致命的であった。


懐に潜り込まれ、強烈なボディブローと顎を狙ったアッパーを連続で喰らう。


茜は受け身も取れずに、葵の足元まで吹っ飛ばされた。


「ちょっと…大丈夫?」


「油断しただけよ…。黙って見てなさい」


「見てられないわね」


「う、うるさい…!」


何とか立ち上がり、再びD-03の前へ。


しかし、今の二撃が茜の体に相当なダメージを与えたらしく、茜は半ば朦朧としていた。


「さぁ…。かかってきなさい…」


勢いが良いのは口先だけ。


茜の背中が再び地面についたのは、それからしばらくも経たない内の事であった。


「ずたぼろね」


「何とでも言いなさい…」


再び、立ち上がる茜。


そんな彼女を、葵が止めた。


「姉さん…?」


「寝てなさい。代わるわ」


「何言ってんのよ。右腕は?」


「左腕があるわ」


「はぁ…?」


「いいから。これ以上、妹が痛めつけられてるのを黙って見てる、ってのは耐えられないわ」


「………」


座り込んだまま、葵の顔を見上げる茜。


「…たまには、お姉ちゃんらしい事をさせなさい」


葵はそう言って、茜の頭を優しく撫でた。


「ありがとう、茜。私の為に頑張ってくれて」


「…今日の姉さん、変よ」


「うふふ…。そうかしら?」


茜に微笑みかけて、葵は右腕が使えない状態のまま、D-03の前に立つ。


D-03は先程押し倒した際の手応えで、葵の右腕が負傷を負っている事を知っているらしく、余裕そうな笑みを浮かべていた。


「あら、余裕って感じの面ね」


そう言った葵もまた、余裕そうな笑みを浮かべている。


先制攻撃を仕掛けたのは、D-03であった。


先程と同じように、低姿勢で接近するD-03。


それを読み切った葵は、懐に潜り込まれる寸前に、D-03の顎を蹴り上げた。


「ぬるいわね。いつもいつも同じ行動パターンは読まれて終わりよ」


D-03はすぐに起き上がって、今度は飛びかかるように接近する。


「押してダメなら引いてみる?…バカね」


葵は上段回し蹴りで、それを迎撃した。


二度も連続で返り討ちに遭い、流石のD-03も慎重になって様子見に入る。


「ほんと…単純な生き物ね…」


葵は呆れたようにそう言って、D-03に歩み寄っていった。


二度の迎撃があったとはいえ、葵は今片腕が使えないという事実に、D-03はニヤリと笑う。


しかし、葵は決して、弱体化などしていなかった。


「人間には、利き手というものがあるわよね」


力無くぶら下がっている自分の右腕を見ながら、唐突に話を始める葵。


「通常、利き手を潰された人間は大幅に戦闘力が下がるわ。通常ならね」


当然、その話をD-03は理解できていない。


「でも、私の師匠はその弱点を克服させてくれたわ。簡単な話…」


葵は突然、左手でD-03に殴りかかった。


「両利きになれば良い…って事よ」


即座に体勢を立て直し、葵に急接近して、殴打のラッシュを繰り出すD-03。


葵はその全ての攻撃を、左手だけで受け流した。


その様子だけ見れば、優勢なのは葵と思える。


しかし実際の所、葵は攻撃を受け流す一方なので、D-03にダメージを与える事が一切できていなかった。


とはいえ、攻撃を立て続けに入れているD-03の方も全て捌かれてしまっているので、実質ダメージを与える事はできていない。


結局の所、両者五分五分といった状況であった。


「じれったいわね…。こういう状況、私嫌いなのよ」


そう呟いて、一瞬の隙を見抜き、目にも留まらぬ早さでD-03の頭を蹴りつける葵。


D-03は何が起きたのかを理解できずに、頭を抱えてふらつく。


「これで決まってくれれば…楽なんだけどね」


葵はそう言って、左手に拳を作り、D-03の鳩尾に正拳突きを入れた。


殴られたとは思えない程派手に吹っ飛び、転倒するD-03。


しかし、撃破したワケではなく、数秒後、D-03はゆっくりと起き上がった。


「現実は甘く無いわねぇ…」


葵は気だるそうに首を回し、溜め息を吐く。


D-03は立ち上がった後少しだけよろめいたものの、再び葵の前まで戻ってきた。


「そろそろ諦めたらどう?あなたじゃ、私には勝てないわよ」


聞こえるハズも無いのに、D-03を挑発する葵。


そんな葵に、D-03は右手でシンプルにストレートを仕掛けた。


「…?」


それを左手で捌きながらも、D-03の意図がわからず、困惑する葵。


更に、D-03は突然、葵にもたれかかって両腕を彼女の背中に回すという、理解不能の行動を取る。


「…え?」


葵は驚く。


突然腹部に走った激痛に。


「………」


呆然としている葵から、D-03の身体がゆっくりと離れる。


D-03の腹部から、第4形態の時に生えていた触手が生えていた。


「………」


激痛が走った腹部に、ゆっくりと手を当てる葵。


腹部に、ぽっかりと風穴が開いていた。


「ッ…!?」


「姉さんッ!」


駆けつける茜。


D-03はあえて手を出さずに、目の前の重傷を負った姉とそれを心配する妹を、不気味な笑みを浮かべながら見下ろしていた。


「うふふ…。予想外…だったわ…」


「姉…さん…」


「茜…逃げなさい…」


「…常套句ね」


冗談っぽくそう言った茜ではあるが、目には涙が溜まり始めている。


「うふふ…。あなたらしい…返答ね…」


「…死なないでよ。…お願いだから」


「さぁ…どうかしらね…。ここまで綺麗に…穴が開いてたら…助かる可能性は限りなく…薄いでしょうね…」


「…どうすれば良いのよ?私は…どうすれば良いの…?」


「逃げなさい…。あなただけでも…」


「バカな事言わないでッ…!」


その時、見ているだけであったD-03が、2人にトドメを刺そうと歩み寄る。


「愛してるわ…茜…」


葵は血まみれになっている左手で茜の頬を優しく撫でながら、そう言った。


D-03が、2人の前に立ち止まる。


茜は今にも事切れそうな葵を抱きしめて、静かに覚悟を決めた。




「…天気が怪しくなってきましたね」


一方、市役所の隣にある廃ビルの屋上にて、事件の黒幕である沢村明美を追い詰めた一同。


逃げ場は無いハズであるのにも関わらず、明美は余裕に溢れた笑みを浮かべていた。


「さぁ、観念しなさい。あんたは終わりよ、明美」


先頭に立っている歩美がそう言って、明美に銃を向ける。


「…私があの事故から助かった理由、まだ話してなかったわよね」


「…?」


明美は歩美を無視して、話を始めた。


「歩美姉さんの考えは合ってるわ。私は手術で助かったワケじゃない」


「………」


その話には興味がある歩美は、何も言わずに話を聞く。


「頭を強く打った…とか何とかで、本来なら私は助からなかったらしいわ。手術をするまでもなく…ね」


「もったいぶってないで、さっさと言いなさい」


「うふふ…。良いわ、見せてあげる」


明美の言葉に、眉を顰める歩美。


「…見せてあげる?」


「私があの事故に遭ったにも関わらず、生きている理由…それは…」


明美はそこまで言い掛けて、突然銃を取り出し、自分の頭に銃口を向ける。


「な、何をッ…!?」


歩美が止める隙も無く、明美は引き金を引いた。


第38話 終




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