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第35話


第35話

"決着は未だに"


市役所の隣に聳えている、使われなくなった廃ビル。


とは言え、使われなくなったのは今回の騒動が起きる1ヶ月程前なので、建物の中はまだ所々に人が存在していた跡が窺える。


しかし、最上階に至っては、ほとんど使われていなかったのか、欠損どころか汚れすら見当たらない。


その最上階にある大きな部屋の中で、彩とD-13は睨み合っていた。


「よくも私をコケにしてくれたわね。私じゃ、あなたの相手は務まらないって言うの?」


それに応えるかのように、刃物を器用に回し、挑発的な態度を見せるD-13。


「その態度…。やっぱり気に入らないわね…」


彩はそう言って、足元に落ちている刃物を足で蹴り上げて拾い、その刃先をD-13に向けた。


「今度は…全力で行くわよ…!」


それを見て、D-13も回していた刃物をぴたりと止め、彩に向かって走り出した。


お互い、初っ端から大振りな攻撃を仕掛け、刃物同士がぶつかり合った音が、部屋に響き渡る。


鍔迫り合いの状態となったが、彩が刃物を両手で持って押し込み、一時的にD-13の体勢を崩す。


当然、D-13はすぐに体勢を取り直したが、彩は体勢が崩れたその一瞬を狙った。


「隙ありっ…!」


D-13の胸部に、刃物を突き刺す彩。


すると、てっきり避けられると思っていたその攻撃がすんなり直撃し、彩は少々困惑した。


「あらら…。当たっちゃった…」


しかし、D-13は口元を僅かに歪ませ、刃物を持っている彩の右腕を掴む。


そして、彩の胸部に刃物を突き刺そうとした。


「危なっ…!」


寸前で体を横にずらし、死を免れる彩。


彩は避けたついでに膝でD-13の鳩尾を蹴りつけて、距離を離した。


「危ないわね全く…。もう少し反応遅れてたら、あの世行きだったじゃないの」


D-13に掴まれた右手をさすりながら、苦笑する彩。


D-13は鳩尾を蹴られた事により、しばらく怯んでいたが、すぐに体勢を立て直し、彩の元へと歩き出した。


「もう…。少しはゆっくりしましょうよ…」


面倒臭そうにそう言った彩を平然と無視して、D-13は彼女に近付いていく。


「はいはい…。わかったわよ…」


彩は溜め息を吐いて、刃物を構えた。


突然スピードを上げて急接近し、彩に斬りかかるD-13。


彩は慌てる事なく冷静に、それを刃物で弾き返して対処する。


「(さて…)」


次に相手がどう動くか。


彩とD-13は、お互いにそれだけを考えて戦っていた。


彩の読みは、体勢が崩れたように見せて油断させておいて、足元を狙った左足によるローキック。


「(甘いわ…!)」


彩の読みは的中し、D-13はその通りの攻撃を仕掛けてきた。


彩は素早くバックステップをして距離を離し、そのローキックを避けて刃物で斬りかかる。


その攻撃をD-13は避けたが、彩も避けられる事は読んでおり、すぐに再び距離を離した。


「ふぅ…。埒が開かないわね…。そう思わない?」


刃物の刃先を指でいじりながら、D-13に問い掛ける。


言葉が通じたワケなどあるハズが無いが、D-13は静かに笑ったように見えた。


「…まぁいいわ。生憎、時間はあるの。焦らずにやりましょうか」


ニヤリと笑って、歩き出す彩。


決着はまだ、つきそうにも無かった。




一方…


「…あら」


D-03を撃破して、その場から離れようとした葵、茜、風香の3人。


しかし、D-03はまだ、死んでいなかった。


首が無い姿のままゆっくりと立ち上がり、その姿を第3形態へと変貌させていく。


第3形態はもはや、原型を留めていなかった。


手足のような物は確認できるものの、その姿は醜い肉塊のよう。


そして、切断された首の断面からは、5本の触手が生えてきた。


「触手よ!風香ちゃん触手よ!」


「その反応はおかしいよね」


何故か嬉しそうな茜と、呆れた様子の風香。


一方で、葵もまた風香と同じような様子であった。


「面倒な奴ね…。潔く、負けを認めたら?」


醜い姿に変貌したD-03は、首があった場所の断面から生えてきた触手を地面に叩きつけて、3人を威嚇する。


「…仕方ないわね。もうちょっとだけ遊んであげるわ」


葵はそう言って、一度しまった刀を再び抜き放った。


「そろそろ私達も加勢するわ。姉さん」


隣にやってきた茜と風香であったが、葵の表情に歓迎の意は見えない。


「必要無いわ。それよりも、早くみんなと合流しなさい」


しかし、茜は引き下がろうとはしなかった。


「そうはいかないわよ。姉さんに万が一の事があったら大変だもの」


「あら、私を心配してくれてるの?」


「当たり前じゃない。妹として、姉を心配するのは当然の事よ」


「…本当は?」


「触手に拘束された風香ちゃんを観察したい…ってのは嘘よ?」


「………」


その時、ずっとD-03を観察していた風香がある事に気付き、口を開く。


「あいつ、目無いじゃん」


「目?」


訊き返す葵。


「目だよ。頭が無いから当然だけどさ」


葵はそう言われ、改めてD-03に視線を移した。


「確かに…無いわね。視力も無いのかしら?」


「あるワケ無いでしょう。姉さんバカなの?」


「何ですって?」


「バカなのと訊いたのよ。あら、私の言葉すらも理解できないの?」


「先にあんたを斬り殺すってのも一興かしら」


「あら、やる気?」


「上等よ」


「こんな時に喧嘩すんな!バカ姉妹!」


風香の正論に、2人はぐうの音も出なかった。


その時、突然、D-03の触手が3人に襲い掛かる。


不意打ちだったので際どかったものの、3人は何とかその触手を回避する。


その時に触手が打ちつけた地面を見て、3人は戦慄した。


「と、とんでもない威力ね…」


「えぇ…。この触手は、ちょっとそういうのには向いてなさそうね…」


「だからその反応はおかしいって」


再び、触手が3人を襲う。


それも回避できたものの、3人は徐々に、D-03から距離が離れている事に気付いた。


「防戦一方…参ったわね。でも近付いたら…」


葵の言葉を遮るかのように、D-03の触手が彼女を打ち付けようとする。


「触手の餌食…ね。どうしましょう」


葵が困り果てていると、風香がショットガンに弾を込めながら、彼女にこう言った。


「遠距離で戦えば良いんじゃないかな。茜と葵さんはやる事無くなるけど」


「遠距離…銃撃という事ね?」


「そ。見た感じだけど、今の所は動きも鈍いし、接近される事は無いと思う」


風香の言葉通り、第3形態のD-03は触手が脅威なだけであり、本体はのろのろと歩き回っているだけであった。


「…あなたの言う通りね。それじゃ、お願いするわ」


「私達無能姉妹は後ろで見てましょうか」


「あんたはいっつも一言多いわね…」


後退する神崎姉妹と、前線に出る風香の2人。


「さてと…」


風香は目の前に居る醜い生物を、まじまじと見始めた。


「(あの厄介な触手さえどうにかすれば、あとは楽勝だと思うんだけどな…)」


手始めに、触手が生えている胸部に狙いを付けて、引き金を引く。


「…嘘でしょ?」


信じがたい事に、発射されたスラッグ弾は、触手によって弾かれた。


風香は諦めずに、その後も2発、3発と撃ち込んでいく。


しかし、銃弾は1発すらも、D-03の胸部には届かなかった。


「(銃弾を弾く程硬い触手か…。それなら、弾かれなければ良いだけの話…)」


風香はポーチの中から、スラッグ弾とは異なるショットシェルを取り出す。


それは、バックショットと呼ばれる、スラッグ弾とは対極の性能である散弾を発射するショットシェルであった。


「弾いてみなよ。きっと無理だから」


バックショットを装填し、ポンプを引いて頭に狙いを付け、引き金を引く。


風香が発砲した散弾をD-03は弾こうとしたが、数が数なだけに、それは不可能であった。


弾かれなかったいくつかの弾が、D-03の胸部をずたずたにする。


効果があるという事を確認した風香は、ニヤリと笑ってショットガンにバックショットを込め始めた。


それを、阻止しようとするD-03。


しかしその触手は、葵の日本刀によって斬り落とされた。


「油断したわね。私達が木偶の坊だとでも思ったの?」


「姉さん…」


ふらふらと、葵に歩み寄っていく茜。


茜は突然葵の肩を掴み、無表情でこう言った。


「何で助けたのよ」


「あ、あんた…自分が何言ってるのかわかってるの…?」


「………」


「あ、あら怖い目…」


2人がそんな事をしている内に、ショットガンの装填を終える風香。


「もう良いよ。引っ込んでて」


「あなたは強気ねぇ…」


「良いから。邪魔」


「かしこまりましたわ~お嬢様~」


「………」


葵にバカにされた風香は露骨に舌打ちをして見せた後、D-03にショットガンを構えた。


そして再び、D-03の胸部に散弾をバラ撒き始める。


D-03は4本の触手で必死に散弾を弾こうとしたものの、結果は変わらなかった。


次々と散弾を撃ち込まれたD-03の胸部がぼろぼろになり、触手の根と思われる部分が露わになる。


それは心臓のようにも見えた。


「(間違いない…あそこが弱点…!)」


風香はポーチからバックショットを取りだそうとしながら、触手の根を観察する。


「…あれ?」


しかし、ポーチの中にバックショットは無かった。


「しまった…。スラッグ弾だけで良いと思ってちょっとしか持ってきてなかったんだ…」


「風香ちゃんッ!」


不意に葵に名前を呼ばれ、緊張する風香。


しかしその時には既に、D-03の触手は風香の両手にしっかりと巻き付いていた。


「くっ…!離せ…!」


身動きが取れずに、もがき苦しむ風香。


「まずいわね…!茜!」


茜を連れて風香を助けに行こうと思い、振り返る葵。


「…どこに行ったのよあのバカは!?」


さっきまで背後に居たハズの茜が、居なくなっていた。


葵は慌てながら辺りを見回して、茜の姿を探す。


すると、茜の姿は拍子抜けする程、すぐに見つかった。


「な、何してんのよ…!?」


茜はいつの間にか、D-03の背後に立っていた。


「うーん…。何か…私の好みじゃないのよねぇ…」


茜の声に気付いたD-03は、空いている触手で、彼女を叩きつけようとする。


「良い事?こういうのはね…」


茜はその触手を容易く回避して、D-03の真正面に躍り出る。


「羞恥要素が大切なのよッ…!」


そして、触手の根に強烈な前蹴りを放った。


茜の足がD-03の体を貫通し、触手の根が体から飛び出る。


「あの世で勉強し直してきなさい。エロチシズムの何たるかを…ね」


体から離れた触手の根は見る見るうちに萎んでいき、それに伴って、触手はゆっくりと動かなくなっていった。


「…茜」


茜の元に、風香がやってくる。


「あら、どうしたの?風香ちゃん」


「きもい」


「あらぁ…」


D-03の第3形態は、茜と風香の協力によって仕留められた。


しかし、D-03の進化は、これが最後では無かった。


第35話 終




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