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第29話


第29話

"生存"


貴重品展示室の中に入った葵と赤城姉妹の2人が見た物は茜達の姿ではなく、そこら中に転がっている銃の薬莢と、誰の物かはわからない血痕。


「誰も…居ない…?」


風香がそう呟いたのと同時に、葵は1箇所、血痕が仕切りの壁の所で途切れている事に気付いた。


「………」


最悪の展開ではない事を祈りながら、仕切りの壁の向こう側に歩いていく葵。


そこには、苦しそうに肩で息をしている、血だらけの凛の姿があった。


「凛ちゃん…!」


葵に気付いた凛はゆっくりと顔を上げて、弱々しい笑みを浮かべる。


彼女の顔は、血で真っ赤に染まっていた。


「葵…さん…?」


「…何があったの?」


葵の質問に凛は答えようとするが、思うように口が動かないらしく、おぼつかない口調で話し始める。


「D-03と…言っていました…。人間の姿の兵器…です…」


「誰が言ってたの?」


「それは…」


名前を言おうとした凛であったが、あちこちが切れている口に痛みが走り、口元を手で押さえながら唸って、顔を下に向けてしまった。


「大丈夫…!?」


「すみません…」


凛は痛みに悶えながらも、再び顔を上げて口を開く。


「…沢村明美です」


「…え?」


葵は一瞬、凛が何故その名前を出したのかが、理解できなかった。


「私達に綾崎梨沙の殺害という依頼を出し、数々の兵器を作り上げた人物…それが…沢村明美です…」


「明美が…!?」


「ちょっと待ってください…!」


思わず、凛の話を止める晴香。


「どうして明美さんが…そんな依頼を出したんですか…?」


「違うの…。私が言ってる沢村明美は…あなたの言ってる沢村明美ではないわ…」


「ど、どういう事ですか…?」


「それは…」


凛は話の途中で、再び口の中の痛みに呻いた。


その様子を見て、立ち上がる葵。


「あなたは休んでなさい。…茜と楓ちゃんは、この先に居るのね?」


「はい…。…すみません」


「謝る必要なんて無いわよ。生きてくれてたなら、それだけで十分だわ」


「ありがとう…ございます…」


葵は弱々しく笑った凛に微笑み返した後、振り返って部屋の奥にある非常用出口を見る。


「話の続きは、彼女に訊きましょうか」


「彼女…ですか?」


そう訊いてきた晴香に、葵は非常用出口へと歩き出しながら、こう答えた。


「沢村明美さんに…ね」


非常用出口の扉を開けた先は、何年も使っていないという事が一目でわかる鉄製の階段と、灰色の煤けたコンクリートの壁が薄暗い照明に照らされている。


当然ではあるが、先程まで居た豪華な照明に照らされた展示エリアとは対極と言える程、殺風景な場所であった。


「葵さん…これって…」


晴香が、階段の所々に見える血痕を指差す。


「………」


葵は何も言わずに、階段を降り始めた。


階段はそれほど長い物ではなく、3人はすぐに階下へと到着する。


「…葵さんやないか」


声が聞こえた階段の隣にある小さなスペースを見てみると、壁にもたれかかって座りながら、腹部を手で押さえている楓の姿が見つかった。


「…あなたもやられたの?D-03とやらに」


「情けない事にな。…こいつのせいで、一歩も動けんのや」


顔色が少し青白くなっている楓。


その原因は、腹部に突き刺さっている鉄パイプであった。


「…無理に引き抜かない方が良さそうね」


「茜さんもそう言っとった。…姉妹やな」


「…誰でもそう言うわよ。それが最善なんだから」


「ふっ…。せやな。…宮城は大丈夫やったか?」


「命に別状は無さそうだったわよ。…あまり見ない傷だったけど、一体何をされたの?」


葵に訊かれた楓は、凛がD-03にされた事を思い出し、忌々しそうに舌打ちをする。


「…野郎、宮城の頭をガラスに叩きつけて、倒れた所を馬乗りになって何度も殴りおったわ」


「それであんなに顔がずたずたになってたのね…」


葵は凛の傷だらけの顔を思い出し、思わず彼女に同情した。


「…葵さん。この扉を開けたら、美術館の裏にある広場に出られる」


「広場…?」


「あぁ。…そこに、茜さんが居るハズや」


「………」


何も言わずに、その場から歩き出す葵。


「用心せぇや。あの兵器は、今までの奴らとは比べ物にならんで」


「上等よ」


赤城姉妹の2人も、彼女の後を追い掛けようとする。


しかし、葵が2人を止めた。


「あなた達は楓ちゃんと凛ちゃんを頼むわ。この先は私1人で行く」


「でも…」


葵の身を案じる晴香であったが、葵は普段良く見せる余裕そうな笑みを浮かべて、晴香を見る。


「私が死ぬとでも言うの?」


晴香はその笑みを見れた事が嬉しくて、自分も笑顔を作って頷いて見せた。


しかし、そんな彼女とは裏腹に、風香は葵を睨み付けたまま従おうとしない。


「…風香ちゃん」


「従う気は無いからね。私は行くから」


「相手は並の兵器では無いのよ?」


「だから行くんじゃん。葵さん1人じゃ心配だし」


葵はしばらくの間、自分を睨み付けている風香を見つめていたが、突然、吹き出すように笑い出し、こう言った。


「私1人じゃ心配…ね。やっぱりあなた面白い子だわ」


「…笑わないでよ」


「うふふ…ごめんね。それじゃあ、行きましょうか。あなたと一緒なら心強いわ」


「………」


自分の主張は押し通せたものの、葵にからかわれた事が気に入らず、不機嫌そうな顔になる風香。


葵は風香と共に歩き出したが、再び立ち止まり、晴香を見て彼女にこう言った。


「…2人の事、お願いね」


「任せてください。…お気をつけて」


葵と風香は鉄製の重い扉を開けて、美術館を出た。



外に出てみると、いつの間にか、夜空がうっすらと明るくなり始めていた。


「…あら、もうそんな時間になってたのね」


「…4時だって。私もう完全に生活リズム崩れてるな」


体は疲れ始めているものの、眠気は全く無い事に違和感を感じる風香。


「大丈夫よ。生活リズムなんてすぐに直せるわ」


「どうやって?」


「そうね…。朝起きたいんだったら、前の日に24時間寝ないで、9時頃になったら寝れば良いのよ。そうすれば自然に目は醒めるわ」


「体に悪そうな直し方だね…」


2人は朝の寒気を肌で感じながら、気の向くままに歩き出した。


「茜…どこに居るんだろ」


「…さぁね」


2人の足音以外には、美術館の周りに生えている木々が風に煽られて揺れている音だけが、その場で聞こえている。


そこに突然、その2つとは違った音が、2人の耳に届いた。


「…今の何?」


「昔、鉄棒に頭をぶつけた時の音に似てたわね」


「…もっと他に例え無いの?」


音が聞こえてきたのは、美術館の敷地内である野外展示エリアの方から。


2人は顔を見合わせた後、そこに向かった。



野外展示エリアに到着すると、2人はすぐにある物を見つける。


それは、鉄棒のような物が幾重にも重なっている、美術品と思われる物。


「茜…!?」


茜はその鉄棒に囲まれて、倒れていた。


茜は意識があるらしく、2人に気付き、ゆっくりと顔を上げる。


「あら…。姉さんに…風香ちゃんじゃない…」


「怪我は?動ける?」


「大丈夫。そこまで重傷なワケでは…ないわ…。ただ、吹っ飛ばされた先がこの鉄棒だったから、至る所を打っちゃってね…」


そう言った茜の体は、痣だらけになっていた。


「骨は?」


「折れてないわ…平気よ…」


患部を鉄棒に当てないように、ふらつきながら出てくる茜。


「…その様子じゃ、戦うのは無理みたいだね」


「ごめんね…ちょっとキツいわ」


「…本当に大丈夫なの?」


いつもなら、平気だと嘘を言ってでも戦闘に参加する茜が素直に引き下がった事に、風香は少々面食らう。


そんな彼女を、茜は優しく抱き締めた。


「大丈夫よ。…ありがとう」


「………」


風香は茜の胸元に、顔をうずめた。


その時、3人の背後から、何かが歩み寄ってくる。


「…ご対面ね」


ニヤリと笑う葵。


現れたのは、茜、楓、凛に重傷を負わせた張本人、D-03だった。





一方…


市役所の中で明美の罠にはまり、大量の兵器達と戦っている8人。


30分が経過した現状は、優勢だった。


「ね、ねぇ…。本当に大丈夫なの?」


「ふふふ…。もしかして、怖いのですか?」


右腕が大きな刃になっている、D-S12と呼ばれる兵器の集団を前にしている梨沙と恭香。


「…そりゃあ怖いわよ。死ぬかもしれないのよ?」


「人間など所詮、死んで元っこ…。そうは思いませんか?」


「思わないわよ…」


D-S12の集団は、刃を地面に叩きつけて威嚇し始めた。


「ふふふ…。何はともあれ、私達はもう逃げれませんよ。綾崎さん」


「何で?」


「この集団を放っておいて逃げたら、他の方々に迷惑を掛けてしまいますからね」


「…だから、私達が仕留めるって事?」


「その通りです」


「はぁ…」


奇声を上げながら、先頭に居るD-S12が走ってくる。


その個体を梨沙が撃ち殺したと同時に、全ての個体が同時に襲い掛かってきた。


「や、やっぱり無理よ!あんな数!」


「慌てないでください。冷静に、敵の数を数えてみてくださいよ」


「…?」


言われるままに、大雑把に敵の数を目で数える梨沙。


大体ではあるが、20体前後は確認できた。


「…やっぱり多いわよ!」


「そうでしょうか?」


狼狽えている梨沙に反し、至極冷静な恭香。


彼女は襲い掛かってきた集団に回し蹴りを入れて、大半数を転倒させた。


「えぇ…」


「ふふふ…。所詮は小物です。数が集まった所で、高は知れてます」


恭香はそのまま、残りのD-S12を蹴り倒していく。


「綾崎さんは転倒した個体のトドメをよろしくお願いします」


「わ、わかった…!」


梨沙は言われた通りに、恭香が蹴り倒した患者を1体1体撃ち殺し始めた。



そんな彼女達を、戦闘の合間に遠くから見ていた大神姉妹の2人。


「凄いねぇ、あの子」


「流石は峰岸恭子の妹…って言った所だね」


「え、マジで?」


「言動、目つき、雰囲気からしてわかるでしょ。…まさか気付かなかったの?」


「わ、私が気付いてなかったと思ってるのか!そんなワケ無いだろ!いい加減にしろ!」


「………」


また、歩美と彩の2人も見ていた。


「血は争えないわね…」


「何の話?」


「いえ、何でもないわ…」


「何でもなくはないわよ。言いなさいよ」


「(面倒臭い女ね…)」



一方で、比較的数が少ないように見えた方向へ逃げ込むように向かった亜莉紗と、彼女に連れてこられた紗也香の2人。


「あの…どうして私を連れてきたんですか?」


「1人じゃ無理ゲーだと思ったからね」


「む…無理ゲー…?」


そんな2人に背後から、1体の兵器が忍び寄る。


気配を感じた2人は、同時に振り向いて銃を構える。


しかしそこには、何も居なかった。


「…気のせい?」


「…いえ、それは無いです」


「え?」


亜莉紗が隣に居る紗也香を見ようとする。


「…なるほど」


その時、亜莉紗は気付く。


いつの間にか背後から、首に刃物のような物を突きつけられている事に。


第29話 終




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