第28話
第28話
"総力戦"
「足引っ張るんじゃないわよ。雪平」
「こっちのセリフよ。キングさん」
多くの数が居る中で、真っ先にこちらに走り出した兵器は、先頭に居たD-07。
「…その名前で呼ばれるのは、あまり好きじゃないの」
「あらら?でも、彼女はそう呼んでるわよ?」
その相手を務めようとしているのは、彩と歩美のペアであった。
「…紗也香はずっとそう呼んでるのよ。今更直せってのも、ちょっと変な感じがするわ」
「素直になっちゃえば良いのにねぇ…」
「…無駄口叩くのはお終いよ。始めましょう」
「はいはい…」
2人に向かって突進してくるD-07。
2人は左右に分かれてその突進を避け、同時に最初の一撃をお見舞いした。
彩と歩美の回し蹴りが直撃するD-07。
しかし、少し怯んだだけで、大きなダメージを負ったような様子は見当たらなかった。
「…ま、これくらいじゃダメよね」
「次行くわよ」
素早く、次の攻撃に入る2人。
即興のコンビではあったものの、2人の息は見事なまでに合っており、D-07の前に囮として躍り出た歩美の意図を彩は一瞬で汲み取って、D-07の背後に回り込んだ。
そして、D-07が歩美に爪を振りかぶった瞬間、2人はニヤリと笑う。
歩美が攻撃を受け流し、D-07の体勢が崩れた所で、がら空きの背中に彩が跳び蹴りを入れた。
その強烈な一撃には流石に耐えきれず、D-07は勢いよく頭を地面にぶつけて転倒する。
「楽勝ね」
「同感よ」
2人はD-07の後頭部に、トドメの踵落としを同時に入れた。
D-07は頭部が潰れ、一瞬で絶命する。
「さぁ、次に行きましょうか」
「…もう良いんじゃないの?私達はこいつを仕留めたワケだし、あとはみんなに任せましょうよ」
そう言った歩美を、軽くはたく彩。
「なーに甘ったるい事言ってんのよバカ。…ほら、あいつが空いてるわ。行くわよ」
「はぁ…。面倒臭い…」
2人は、次の相手の元へと歩いていった。
一方、集団となってこちらに襲い掛かってきた3体のD-09と、1体のD-11。
「おや、こりゃまた厄介だねぇ」
「2人でいけるかな…?」
その相手は、大神姉妹の2人だった。
「随分と弱気じゃないか。我が妹よ」
「冷静に考えてみなよ。盲目の奴を警戒して大人しく戦ってたらあの斧の奴に真っ二つにされるし、かといって、斧の奴にばっかり警戒してたら盲目の奴に後ろから串刺しにされる…。…結構、絶望的だよ」
「そうかな?」
楽天的な結衣に、少しイラつき始める玲奈。
「…あのね。私が言ってる事わかってる?どうしようも無いよ?この状況」
「どうしようも無くはないってね」
「…じゃあどうするのさ」
「簡単だよ。要は…」
結衣は銃をしまって、敵の元へと歩き出した。
「斧野郎から逃げながら、音を立てずに盲目の野郎を仕留めりゃ良いじゃないの」
「…正気?」
「勿論」
自信に溢れている結衣に、溜め息を吐く玲奈。
「…ま、何はともあれ、やるしかないか」
「その通り!流石は私の妹ってね!」
「不本意ではあるけどね…」
玲奈が自分のナイフを1本結衣に渡し、2人は足音を殺しながら4体の兵器の元へと歩いていった。
「(まずは…盲目をやろうか)」
「(…本当に斧の奴は放っとくの?)」
「(やりたいならやっちまっても構わないよ?)」
「(もう…。無理な事ばっかり言うんだから…)」
目で会話をしながら、1体目のD-09の元へ。
「(準備は?)」
「(いつでも良いよ)」
「(よし…)」
辺りが騒然としている事もあり、D-09は2人に気付きさえせずに、首を斬り裂かれて絶命した。
「(2人で斬る必要は無かったんじゃない?)」
「(暗殺は一撃必殺ってのが重要でしょ?)」
「(…まぁそうだけど)」
次の獲物に目を付ける2人。
しかしその時、いつの間にか背後に回っていたD-11が、手に持っている巨大な斧を2人の背中に振りかぶった。
「(おっとっとーッ!)」
「(危なッ…!)」
2人は間一髪で、それを避ける。
しかし、その一連の動作で生じた音を聞きつけたD-09が、2人の元にゆっくりと歩み寄ってきた。
「(相変わらず耳良いねぇ…。着地した時の足音はなるべく殺したハズなんだけど…)」
「(いや、結衣姉モロに音立ててたよ)」
「(うっそだー)」
音を立ててはいけない状況の2人。
そんな事はお構い無しに、D-11は斧を大きく振り上げた。
「(さて…どうするかな…!)」
ひとまず、D-11の攻撃を避ける2人。
当然、斧が地面に当たった時のけたたましい音に反応したD-09が走ってきたが、結衣にはとある考えがあった。
「(玲奈!)」
その場から動かずに、視線を走ってくるD-09から玲奈に移す結衣。
「(…りょーかい)」
結衣の意図を察した玲奈は、不本意ではあったものの、回避する事を止めてその場に留まり、突進してくるD-09を睨み付けた。
そして、D-09の爪が2人の顔面に突き刺さる寸前で、2人は素早く横転してその攻撃を避ける。
「へへっ!こっちだよバーカ!」
わざと大声を出して挑発する結衣に、D-09は顔を向ける。
しかし次の瞬間、2体のD-09は先程までそこに居た結衣達を狙っていた、D-11の斧に真っ二つにされた。
「…なるほど。同士討ちを狙ったってワケね」
感嘆する玲奈に、結衣は説明を始める。
「そういう事。多分斧野郎は、あの重い斧のせいで攻撃を中断できないんだと思う。加えて、盲目野郎は目が見えないから、攻撃を回避する事なんてできない…つまり、あいつら悪い意味で相性ピッタリなのさ」
「………」
「どうした?」
「…見直した」
「今までは見損なってたのか…」
残る敵は、D-11のみとなった。
「よし、一気に終わらせるよ」
玲奈から借りていたナイフを彼女に返し、リボルバーを取り出す結衣。
「…あれやるの?」
「あれでいこう」
「…わかった」
玲奈はナイフをしまって、D-11の元へと歩いていった。
「さ、始めよっか」
素手のまま、D-11の前に立つ玲奈。
D-11は当然、玲奈の頭に斧を振り下ろしたが、彼女は一歩だけ横に動いて、その攻撃を避けた。
「結衣姉」
「あいよ!」
D-11の辺りを周回しながら、リボルバーの銃弾を至る所に撃ち込んでいく。
頭、背中、心臓と当てていく結衣であったが、3発当てた所で、彼女は一旦銃を下ろした。
「弱点どっこかな~?」
「…ふざけてないで早く仕留めてよ」
「ちぇ…。せっかちだなぁ…」
攻撃を避け続けている玲奈にせかされ、再びリボルバーを構え、思い当たった適当な箇所に銃弾を撃ち込む結衣。
すると、1発の銃弾が右胸の辺りを貫通した時、D-11の様子が一変した。
「ビンゴ!ってね!」
D-11の弱点は心臓であったが、その心臓は通常の位置とは異なり、反対側の右胸の方で鼓動していた。
しかしその心臓も結衣に撃ち抜かれた事により、鼓動が弱まる。
「それならば…」
そう呟いて、ナイフを取り出す玲奈。
彼女はD-11の苦し紛れの一振りを容易く避けて、D-11の懐に素早く潜り込む。
そして2本のナイフを、右胸の風穴が開いている箇所に突き刺した。
D-11は斧を手放し、その場に膝をついて吐血する。
玲奈は無防備となったD-11の頭を両手で掴み、D-11の頭上で倒立する。
そして向こう側に着地するのと同時に体を回転させ、その勢いでD-11の首を有り得ない方向へと折り曲げた。
「やるじゃねぇか。我が妹よ」
「…その呼び方止めて」
「じゃあ玲奈にゃん」
「おい」
「うお怖っ…」
戦闘を終えた大神姉妹の2人は、次なる獲物を探し始めた。
その頃…
「…何かあったみたいね」
茜を見たという晴香の証言を確かめる為、美術館へとやってきた葵と赤城姉妹の2人。
D-18が侵入する際に破壊した美術館の玄関を見て、3人はすぐに、ここで何か異常が起きていたという事に気付いた。
そしてまた、今もまだ異常が起きているかもしれないという可能性にも気付いた。
「行くわよ。みんなが心配だわ」
「茜も?」
皮肉っぽく、風香がそう訊く。
葵は普段見せないような鋭い目つきで、風香を睨み付けた。
「…心配しちゃ悪い?」
「…ごめんなさい」
殺気すらも感じさせるその眼光に、風香は思わず葵から目をそらす。
「(茜…)」
3人は美術館の中に入っていった。
静寂に包まれている美術館の中は、当然人の気配などなく、患者や捕食者の気配も無い。
その不気味なまでの静寂は、葵の焦燥感を更に煽る事となった。
「私が見た時は、茜さんは2階に居たハズです。…見取り図を見るに、貴重品展示室って場所ですね」
美術館の見取り図の中の貴重品展示室と書かれた箇所を指差しながら、晴香が葵にそう教える。
「2階…そこの階段から行けば近いわね」
階段へと歩き出す葵。
その階段は、茜達が登っていった階段と同じ階段だった。
2階に登った3人は、すぐに貴重品展示室へと続く、長い展示エリアの入口を見つける。
「この奥ね?」
「そのハズです。…行きますか?」
「当たり前じゃない。その為に来たのよ?」
「…ですよね」
晴香は今の葵が、常に余裕を持っているように見える普段の彼女では無い事に気付き、少しだけ気後れを感じる。
しかし、今はそんな事を気にしている状況ではないと自分に言い聞かせ、先に歩き出した葵を風香と共に追い掛けた。
「お姉ちゃん」
風香がいつになく弱々しい声で、晴香に呼び掛ける。
「どうしたの?」
「…茜、大丈夫かな」
晴香は最初、何と言おうか迷ったものの、思わず頭の中をよぎった嫌な想像を振り切って、こう言った。
「…大丈夫よ。きっとね」
その後、展示エリアの一番奥に到着した3人は、貴重品展示室の入口である大きな木製の扉の前で足を止める。
「ここに、みんなが居るの?」
「うん。私が見た位置は、ここで合ってるハズ。…茜さん達は、ここに居る」
どうしても完全に振り切る事などできない、不安な感情を必死に抑えながら、自分の銃を握り締める赤城姉妹の2人。
「…2人共、準備は良いわね?」
葵の言葉に、2人は強く頷いてみせた。
葵はそれを見て、目の前の扉に手を掛ける。
「…茜、今行くわよ」
葵は、扉を勢いよく開けた。
第28話 終




